低周波騒音問題 基礎の基礎 6/9

あるいは(超)低周波空気振動被害


3−3 低周波音の影響

低周波音公害の本質を見てみますと、低周波音は以下の様な影響をもたらします。

 物的影響  建具等をがたつかせる
 睡眠影響  独特の音と言うより、それに対する苛つきにより眠りを妨げる
 心理的・生理的影響  低周波音の知覚により圧迫感、振動感や頭痛、吐き気等がもたらされる、等

 この内、人間の体に直接影響するのは「睡眠影響」と「心理的・生理的影響」です。環境省が、平成12年度に地方公共団体が同省の依頼によって実施した「低周波音全国状況調査」の結果では

心身にかかわる苦情が最も多く47%となり、複合要因による苦情も含めると全体の71%を占めました。過去の調査結果と比較すると苦情の内訳は物的苦情から心身にかかる苦情へと重点が移行する傾向が明らかになった。

低周波騒音被害によって実際にもたらされる「苦しみ」は、心身に関わる問題ですのでそこに限って論を進めます。

心理的影響 低周波音が知覚されてよく眠れない、気分がいらいらするといった現象
生理的影響 胸の圧迫感、息苦しい、吐き気、ふらつき、立ちくらみ、頭痛、頭に帽子をかぶったような感じ、耳の圧迫感・痛み・ふさがり感、目がクシャクシャする、肩の痛み・凝り、のどがはしかい、全身の圧迫感、手のしびれ、足が痛い・だるい、など

「低周波公害のはなし」(汐見文隆 晩聲社)


等の現象です。因みに私の経験ではこの”影響”の全てが当てはまる。しかし、それが解るまでには1年有余を要したのです。と言うのは当時は低周波振動被害と言うモノが一般に全く知られおらず、汐見氏の存在を数少ない先輩被害者諸氏から教えていただき、氏の本を読むまで、自分の苦しみが、何故なのか、この自分の奇妙な症状はどうなのか、どの医師も説明してくれず、ただただ苦しみの中で混乱するしかなかったのです。それは、当時で50年以上生きてきて、こういった複雑な症状に遭ったことが無かったからです。
 
 この症状を内科医に訴えると、大抵の場合、自律神経失調症と診断します。しかし、自律神経失調症と言うのは私の主治医の話では「原因不明」と言う事であり、要するに「現在の医学的知見では解りません」と言う事だそうです。従って自律神経失調症というのは、病名ではなく、単なる区分と考えるべきでしょう。

 また、上記に加え、勿論のこと音に対する感覚が「異常に鋭敏化」するので、常識的に、耳の異常ではないかと思い、耳鼻科に行って、聴力検査等をしても、多くの場合、異常はありません。強いて言えば、高齢者の場合は「耳鳴り」で済まされることが多いようです。

 で、精神に異常でも来したのかと思い、精神科、あるいは心療内科等に行っても、その診断は「気にしないように」ということで、軽くキチガイ扱いされて、抗鬱剤、精神安定剤、入眠剤等をもらうことになります。それは一時的にはそれなりの効果はもたらしますが、根本的な解決にはなりません。(結局10年以上経った今もそれらの薬を少量ではあるが毎日飲んでいますが。)

 何故、彼がらそのような診断を下すのか、あるいはそうするしかないのかと言えば、それはただ単に彼らが「低周波音によって障害が起きる」という「医学的知見」なるモノが全くないからにすぎません。こんなに長い間、それなりの数の人がかなり酷い被害を受けているのに被害=障害、病気としての認定は当然のこととして、何ら研究もされず医学的にも全く黙殺されているのは非常に不思議と言うより、むしろ何らかの恣意的な意図さえ感じます。

 低周波音被害の機序について専門家は何も考えてくれませんので、汐見先生の考えを参考に、やっと最近私が考えついたのは「低周波音が脳に少なからぬ影響をもたらした結果」と言う考えに到りました。

 一般的に脳の障害によってもたらされる心理的影響は「記憶障害。疲れやすい。注意や集中力の低下。やろうという気持ちの低下。イライラ、怒りやストレスを感じやすい。不適切な行動や社会的技能の低下。自己中心的、依存心、病識の欠如。反応が遅くなる。問題解決が不得手になる。鬱症状や感情のコントロールができない。衝動的。」などとされていますが、被害者感としては思い当たるところ多々です。

 これらの結果が時としてこれまでの取り返しのつかないピアノ殺人事件に代表される幾つかの騒音に関した刃傷事件に発展しているのでしょう。それらの事件は原因を究明されることもなく、あくまで単なる個人の「キチガイ沙汰」として処理されています。


3−4 影響をもたらす原因

元環境省大気生活環境室室長補佐 石井鉄雄氏は

睡眠影響や心理的・生理的影響については、原因を特定することが困難である場合が多く、低周波音が原因である場合と低周波音以外の原因による場合があるとされています。

このうち、20Hz以下の超低周波音によって心理的苦情、生理的苦情が発生している場合には物的苦情も併発していることが多く、建具等の振動によって二次的に発生する騒音に悩まされている場合もあります。可聴域の低周波音の場合は非常に低い音が聞こえる(感じられる)ことによって上記のような苦情が発生することが多いとされます。睡眠影響や心理的・生理的影響をもたらす低周波音のレベルについては明確な結論は得られていない。

としています。

 環境省などでは「影響」等と実に曖昧な言葉を使っていますが、英文サイトではハッキリと”damage”=「被害」と表現しています。


3−5 G特性

低周波音についてはいわゆる「普通の騒音計」(以下、騒音計)では測定出来ません。私は詳しくは述べられないのですが、何故かを簡単に言いますと、いわゆる騒音計は”人間は低音は聞こえにくくなる”という人間の聴感覚に近づくように、低音に近づくに連れ一定の割合により修正する(大きな音でないと聞こえない)様に作られています。これを評価加重特性と言い、普通の騒音計ではA特性と言われる“修正方法”が用いられています。この特性では低音部は、100Hzで約19dB,50Hzで30dB,20Hzでは50dBがマイナスされ、それ以上の大きな音が出ていない場合には、測定値は0(ゼロ)と言うことになってしまい、仮にそれなりの騒音が出ていても、測定値的には”0”と言う事になり、計数的には“音はしていない”という事になります。

従って、下記のような低周波音発生源が存在している場合には低周波音が発生している可能性が大なのですが、「普通騒音計」のみの測定では原因を明確にする事はできず、「騒音問題はなし」とされてしまう事が通常です。行政が低周波音に関して無知な場合はこう言った事になります。

そこで、考え出されたのでしょうが、G特性と言われる、「120Hzの超低周波音の人体感覚を評価するための周波数補正特性で、ISO-7196 で規定された、可聴音における聴感補正特性であるA 特性に相当するものである。」とされる特性により測定する事ができる「低周波音用の騒音計」で測定することになります。

 しかし、この測定器を”自前”で持っている自治体はまだまだ少ないようです。しかし、実はこの騒音計は平成14年環境省(当時は環境庁)が「低周波音の測定方法に関するマニュアル」を提示するに際し(書面にG特性での測定が記されている)、各自治体に、「もし測定器が無ければ長期貸し出ししますよ(と言っても実質的にはもらえたらしい)」と言っていた時期があり、どの自治体もその時ゲットしようと思えば入手出来たはずなのですが、当時ほとんどの自治体は「それ」の何たるかさえ知ら無かったようである。しかし、少なくとも県レベルに於いては必ず所有しているはずです

 従って、現在も所有してない自治体はこの時全くこの問題に無知であったのは間違いない、あるいは、意図的に無視していた自治体と考えて良いでしょう。使っても使わなくてももらえるモノはもらっておけば良かったのです。
無知の成せる業です。そうした自治体は低周波騒音問題に関しては完全に後進地域と言って良いでしょう。しかし、流石に最近は「無知」でいることはできなくなり、無視もできないので、ともあれ、門前払いをするようになっている自治体が少なくないようです。

 このような自治体に対して低周波騒音の苦情を訴える場合は非常に大変です
そんな場合には、少なくとも「あなた自身」が低周波騒音について「一から説明する」覚悟が必要です。


G特性は一見まともの概念のように聞こえますが、このG特性なるものが全く曲者で、言うまでも無くこれもあくまで低周波音の感覚閾値(単に聞こえるかどうか)に基づいて定められたもので、ISO-7196では、「G特性音圧レベルで100dBを超えると超低周波音を感じ、120dBを超えると強く感じるとされ、概ね90dB以下では人間の知覚としては認識されないとされている。」と言う考えを基として創られている代物なのです。

まー、矛盾した話しですが、例えばG特性では80Hzの音では36dB減算されますのでA特性の場合の環境基準値70dBを達成するには逆算すると70+36=106dBという轟音がしていることになります。因みに100dBと言いますと、A特性的には飛行機の離陸直前、電車通行時のガード下、電車通行時のトンネル内などの騒音レベルと同様という事になりますが、低い音の低周波音では、それはかろうじて聞こえるであろうが、感じるかどうかは問題ではないようです。

 この80〜100dBの間の特性の違いによる「不整合」さには多いに疑問の有るところです。

さらなる最大の論理的問題点はこのG特性は上記、石井氏が、

現在ではG特性の自動演算機能を持つ低周波音計も市販されているので、G特性による評価値は超低周波音の評価の目安として手軽に利用することができる。ただし、G特性では20ヘルツ以上の可聴域の低周波音については考慮されていないため、これをもって低周波音のすべての領域の評価を行うことはできないので注意を要する。

と、述べているにも拘わらず、注意を要する」事はされることなく、このG特性が20〜80Hz以下の低周波音にも適用されてしまっているのです。

即ち、”音として全く聞こえない音”であるはずの超低周波音の感覚閾値に基づいた特性が、聞こえない訳ではなく”聞き取りにくい”低周波音である20Hz〜80Hzの低周波音についてまで援用され得るモノであるかどうか非常に疑問と言うより、科学と言う衣を着た欺瞞的行為なのです


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