低周波騒音問題 基礎の基礎 5/9

あるいは(超)低周波空気振動被害

3  低周波音とは

3−1 環境省の定義

さて、ここで当サイトのメイン・テーマである低周波音とはどのようなモノであるかと言いますと、環境省は以下の様に述べています。

“低周波音は、超低周波音に、可聴域ではあるが音としてあまり明確には知覚されない領域の音を加えたものであり、その周波数の範囲については明確な定めはない。因みに、環境省では、「低周波音の測定方法に関するマニュアル」及び「低周波音防止対策マニュアル」の取りまとめに際しては1Hzから80Hzまでの音波を低周波音としている。なお、環境省では以前は低周波空気振動と呼び、振動の領域の現象と分類していたが、音波に基づく事象であることから現在は騒音の一部としてとらえ、低周波音と呼んでいる。”

低周波音の測定方法に関するマニュアル(平成1210月)

可聴域とされる騒音については前述のように法的な基準値が定められており、また一般の普通の騒音計で測定できます。この測定はどこの自治体でも大抵”対応”してくれます。
 何故か?それは法的規制もあり、普通騒音計も持っており、場合によっては一応行政の対処が可能だからです。

 しかし、同じ騒音と言っても、低周波騒音被害者が苦しみ、尚かつ最近、増えている”耳に聞こえない音とされる”「低周波音」あるいは「超低周波音」という法的規制のない音の騒音苦情は全く別問題となります


3−2 低周波音公害と行政の動き

 低周波音問題は最近の事のように思っている人が少なくありませんが、私も低周波音被害になるまでは全く預かり知らない事でしたので、決して偉そうに言う気はないですが、低周波音騒音問題は既に1970年代(昭和40年代)から有りました

 その代表的な例は昭和55年(1980年)に提訴された「西名阪自動車道香芝高架橋公害」に見ることができます。(詳細は「低周波公害裁判の記録」1989 清風道書店をご覧下さい。現在は絶版かもしれませんが図書館等には有るところも?)。しかし、当時は被害者はもちろん、「専門家」自体にも(超)低周波音に対する認識そのものが明確ではありませんでした。問題の初期においてはそれも仕方ないことかも知れません。しかし、逆に真摯な取り組みがなされ、今改めてその調査書を見ると既に全ての問題点が提示されていることが解ります。その後その姿勢がとり続けられ、問題がそれなりに進展すれば今日のような問題は無かったのかも知れません。

 しかし、結果としてこの問題は「封印」されるような形となり、その後、長期にわたり明確にされる事も有りませんでした。一方、その後の一段の機械文明の発達は、普通騒音の一段の増加をもたらしました。そして、多くの騒音苦情をもたらすことととなりました。その結果、と言うだけではないでしょうが、遅ればせながら、騒音問題を減らすため、昨今、騒音の低減化
「騒音の静音化」と言う名の下に一般騒音の低周波音化(「聞こえる音」を「感じる音」にする)が図られました。

 
これにより普通騒音部分(100Hz以上の「聞こえる音」)の”音を小さくする”と言う”騒音の低減”はそれなりに進歩したのですが、その方法は「可聴域の普通騒音を低周波音」にすると言う方法ですが、これはもう一方では、「法的規制のある普通騒音を法的規制のない低周波音域に追い込む」という方法でなされました。その技術の基本は基本的には、騒音源となるモーター類の回転数を減らすという方法です。これによりカタログ的には「騒音は小さくなった」ことになるのですが、結果として、低周波音発生源が多くの日常生活の場にも増える事になりました。身近な例では、冷蔵庫、エコキュート、建設重機の騒音問題がこれに当たります

 この低周波音域というのは、"騒音"がやっと見つけた”逃げ道”です。


少し話しを戻して、低周波音公害の流れをおさらい的に概観してみると以下の表のようになります。1970年代の問題発生以降、'84年に「一般環境中に存在するレベルの低周波空気振動では、人体に及ぼす影響を証明しうるデータは得られなかった」という調査報告書を発表以来、長い放置がありました。

 
平成12年に到り岩佐恵美議員の国会質問により、行政としては珍しく手早い動きを示しました。余程それなりの緊急性を感じたとしか考えれられません。その結果、現況に於ける最終形態として香芝高架橋公害当時からこの問題に携わっている山田伸志氏により「参照値という形でそれなりの形は整えました。

 
しかし、「参照値」は作成者の意図とは関係なく(かどうかは解りませんが)、そこに示されている数値はむしろ騒音源者(機器製造者)、あるいは騒音発生者、そして、自治体にとって、「現場での騒音値は”参照値”を下回っているので被害はない」と言う公的な免罪符的な意味あいを与えることとなり、被害者を救うどころか、低周波音の合法的存在を認めることとなり、被害者を一層苦しめる結果となっています。

 今もって低周波音問題の最大の問題の一つは、低周波音は今もって、いわゆる騒音評価の際の評価外に置かれ、低周波音騒音は他の騒音との整合性をもつことなく、騒音規制の対象外とされていることです。

 即ち、低周波音公害は昭和59年の環境省の報告「一般環境中に存在するレベルの低周波空気振動では、人体に及ぼす影響を証明しうるデータは得られなかった」と言う段階から確たるデータ収集もなく、「公害の封じ込め」として悪質な対応がとられることになりました。こういった行政の対応がこの問題を決定的に悲劇的なモノとしています。

低周波音問題年表
1977 昭和52年 低周波空気振動調査委員会発足
1978 昭和53年 沓脱タケ子議員 西名阪道路沿線低周波音被害に関する質問
1981 昭和56年 西名阪自動車道、香芝高架橋問題科学調査団 測定調査開始
1984 昭和59年 環境庁 低周波空気振動調査報告書公表
「一般環境中に存在するレベルの低周波空気振動では、人体に及ぼす影響を証明しうるデータは得られなかった」と調査報告書を発表
1985 昭和60年 環境庁 低周波空気振動防止対策事例集公表
2000 平成12年 岩佐恵美議員 低周波音公害の対策に関する質問 答弁
環境省 低周波音の測定方法に関するマニュアル策定
2001 平成13年 環境省 低周波音全国状況測定調査(〜3月19日)
2002 平成14年 環境省 低周波音防止対策事例集
環境省 低周波音全国状況調査結果について発表
2004 平成16年 環境省 低周波音問題対応の手引策定

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