県の公害審査会調停委員会は
「専門家」ではないのか
寒い寒いと半冬眠を決め込んでいる内に、事実は小説より奇なりの上を行くような、四本立てドキュメンタリー(米国産牛肉の輸入停止問題、ライブドア事件、耐震強度偽装事件、防衛施設庁を舞台にした官製談合事件)はオリンピックの終焉と偽造メール事件(内容は事実かも知れないが)で一気にトーンが落ちてしまったが、事件が活況に入って行くのはこれからである。私は歳の性で随分忘れっぽくなってきたが、日本人はマスコミと供に忘れやすい人種であることを忘れてはいけない。これらの問題にはそれぞれに述べたいことがそれぞれの人に有ると思うが、既に多くのサイトで述べられていますので私もひとまず割愛しますが、何れの問題も問題を「専門家」任せにしておくとやりたい放題にしてしまい、とんでもない結果をもたらすと言うことでは共通している。
事件の真相はTVドラマの殺人事件ではないが「それによって誰が得をしたのか」を考えれば、犯人と言うより事件の本質は見えてくるはずである。ただそれにより事件が解決するかどうかは全く別問題であるのだが。
専門家任せが問題になるのは、特に、素人目には同じ分野だろうから「専門家」なら全部知っているだろうと思っているような、専門家と言われる人でも概要は解ってもその中身の何たるかまでは解らないような専門性の強い科学の分野、特に最先端を行っているような分野orあるいは極めてマイナーな分野である。そこでは個人の倫理観が時として失われてしまうことが有るようである。特に、それが政治的、経済的視点からみられると倫理観などいとも簡単に胡散霧消してしまう。
個人的には昨年から続いている「韓国ソウル大・黄禹錫(ファン・ウソク)教授らの胚(はい)性幹(ES)細胞研究のねつ造疑惑」「東京大の多比良和誠教授(生命化学工学)の論文真偽問題(データねつ造疑惑)」には内容ではなく(よく解らない)、その経緯に非常に興味を持つ今日この頃である。
さて、今回は少し遅れたが、大型施設の室外空調機等の騒音に対して調停を申請した“苦情者”に、関東地方の或る県の公害審査会調停委員会が示した「騒音源特定調査計画(案)」を紹介して、騒音問題の現状をみてみたいと思う。そして、実はこれこそが「参照値」が示された時から低周波騒音被害者達が危惧していた典型的な事例で、ただただ「××か、お前」としか言いようのない代物なのであるのだが。
××施設及び△△施設における騒音源特定調査計画(案)
1.目的
騒音発生源と考えられる××施設及び△△施設の室外空調機等を個別運転した場合の騒音を測定し,××施設と△△施設に挟まれた位置に在る住宅において最も影響を及ぼしている騒音源を特定する。
2.調査方法
@騒音状況の確認
苦情者宅において聴感確認及び騒音測定を実施し,苦情の原因となっている対象音の大きさ・質(周波数特性)を調査する。ここで,苦情レベルに相当する低周波音が発生しているのか否かを判断する。
測定条件としては,××施設及び△△施設の室外空調機が通常運用されていることとする。また,対象音について苦情者の聴感による確認も行う。
<測定地点>
・苦情者宅の東側,西側の敷地境界2地点(高さ1.2〜1・5m)
・苦情者宅の室内1地点(高さ1・2〜1・5m)
<測定方法>
各測定地点において精密騒音計及び低周波音レベル計を用いて,対象音をデータレコーダーに10分間録音する。録音データを実時間分析器により周波数解析を行う。解析結果から音圧レベル及び周波数特性を算出し,「低周波音問題対応の手引書 平成16年6月(環境省環境管理局大気生活環境室)」に記載されている物的苦情と心身に係る苦情に分けて示された,低周波騒音音苦情を的確に対処するための参照値と比較し,その値を超えるか否かで評価する。
A騒音発生源の確認
××施設及び△△施設において騒音発生源と考えられる室外空調機,排気口等の音質を調査する。機器の設置エリアごとにグループ化し,エリアごとの単独運転を行い,各々の音波形を確認する。
<測定地点>
・騒音発生源と考えられる室外空調機,排気口を設置エリアごとに分けて,機器群から発生するそのもの固有の音波形を拾える位置(高さ1.2〜1.5m)
<測定方法>
各測定地点において精密騒音計及び低周波音レベル計を用いて,エリアごとの単独運転時の騒音を各1分間ずつ録音する。録音データを実時間分析器により周波数解析を行う。解析結果から音圧レベル及び周波数特性を算出する。
B騒音発生源の特定
上記Aで確認した騒音発生源と思われる機器について設置エリアごとの単独運転を行い,苦情者宅において騒音測定を実施する。またバックグラウンド(暗騒音)として,××施設及び△△施設の騒音発生源と思われる機器を全て停止した状態においても測定を行う。
調査後,苦情者宅において検出される音波形と機器群から発生するそのもの固有の音波形を比較し,適合させることによって最も影響を及ぼしているエリアを特定する。
ここで,建物の立地条件により,騒音源が共鳴及び干渉作用を引き起こしている場合,音の疲形が複雑化するため,適合解析が困難となる可能性がある。そういった場合は,波形の最大レベルや検出時間,音源距離等から特定を試みる。
<測定地点>
・苦情者宅の東側,西側の敷地境界2地点(高さ1.2〜1.5m)
・苦情者宅の室内1地点(高さ1.2〜1.5m)
<測定方法>
各測定地点において精密騒音計及び低周波音レベル計を用いて,エリアごとの単独運転時及び全停止時の騒音を各5分間ずつ録音する。録音データを実時間分析器により周波数解析を行う。解析結果から音圧レベル及び周波数特性を算出し,機器群から発生するそのもの固有の周波数特性と比較する。
3.その他
・測定は,夜22時以降に行う。
・調査時の××施設及び△△施設における騒音発生源機器の運転・停止等オペレートの手配が必要である。
・騒音源の共鳴及び干渉作用の程度によっては,音源が特定できない可能性がある。
騒音源特定調査計画:概要図(案)
@苦情原因が低周波音なのか否かの確認→敷地境界及び苦情者宅内
A苦情者宅において低周波音レベルが苦情参照値を超えるか否かの確認
→環境省が実験データから算出した参照値
B空調機を設置エリアごとに分類し,個別の周波数特性を算出
→AからEのように個別区分け
C空調機を設置エリアごとに個別作動させ,苦情者宅において低周波音測定を実施
→敷地境界及び苦情者宅内
DB操作とC換作から算出した周波数特性を比較し,音波形を適合させる。
→音源特定終了
図1 調査地点の概要(省略図)
A | | D
×× 駐車場 B | 苦情者宅 | 駐車場 △△
C | | E
敷地境界
← 40〜50m →
騒音源特定調査の費用について
直接人件費 1,160,000円
調査下見,調査準備,調査(2回,深夜),データ分析,報告書作成
直接経費
310,000円
測定機器損料,測定機器運搬車両損料,交通費,宿泊費,消耗品・雑費
技術料
116,000円
直接人件費×10%
諸経費 (直接人件費+直接経費)×20% 294,000円
計 1,880,000円
端数処理 1,800,000円
消費税
90,000円
合計 1,890,000円
※調査は当事者が民間業者へ依頼し、費用も当事者が負担する。
長々と引用したが、これが行政の「専門家」の回答と言うより、調停内容のほぼ全てである。
さて、ひとまずこの例は置いて、参考までに我が家の場合を思い出してみると、1999年(平成11年)当時、騒音の苦情を市の環境課に訴えた私は、当然のごとく門前払いを喰った。後から考えれば、当時、当市には低周波音測定器並びに測定のノウハウなど無く、当然、低周波騒音問題に関する知識、認識が全く無く、要するに低周波騒音に対する「知見」なるモノが全く無かったわけで、門前払いを喰わせるしか仕方なかったのかも知れない。
その後、交渉の結果、2001年初春に到り、行政は無知を認め、測定器を購入することが例え可能であっても、その後、低周波騒音測定の技術、測定器の精度維持、更新等の観点を勘案し、私に関しては、業者に依頼し、測定をしてくれました。これは実はその後出されたマニュアルがしつこく述べている「専門家への依頼」と言うことに相当した事になった。それにより問題は解決したわけではないが、一応の締めとなった。
正直なところ、今では、私のような状況はかなり改善されてきているのではと思っていたのだが、どうもこれまで寄せられている状況から、一昨年来からの環境省の委員達の“全国行脚”以来、各自治体の対応は両極分化されてきているような感じがする。即ち、ある程度の規模と経験と財政的余裕と、そして、「やる気」のある自治体は、騒音の中から低周波騒音を区別して処理するようになり、一方、“低周波騒音問題は難しい“と以前以上に、「面倒なことは嫌」とばかりに徹底して黙殺する自治体が出てきたのではないかということである。
それは、平成17年11月29日、環境省水・大気環境局大気生活環境室より出された、「平成16年度振動規制法施行状況調査について」「平成16年度騒音規制法施行状況調査について」などをみるとうかがい知ることが出来るのではなかろうか。以下に「平成16年度騒音規制法施行状況調査について」の一部を示す。
表4 苦情件数の都道府県別対前年度増減状況
△は減を示す
この表で注目すべきは青森と沖縄の苦情件数の大幅な減である。これはあくまで推測となるが、データ収集方法の問題もあろうが、先ず有り得ない状況ではなかろうか。少なくとも基地騒音問題を抱える沖縄でこの数字は考えられない。また、冬場のボイラー問題から青森も集計上何らかの問題が有るのではないかと想像せざるを得ない。
一方、「(7)低周波音に係る苦情の状況」をみると下記のようで、この表・グラフから平成12年度と平成16年度の「低周波音に係る苦情の状況」が桁違いに増えているのが顕著であり、就中、「家庭生活」「その他」がグッと増えていることは特筆すべき事であろう。それは実に、平成12年10月の低周波音の測定方法に関するマニュアル、平成16年6月の低周波音問題対応の手引書の刊行と軌を一にしているのであるから、環境省の「適切な法の運用」が「労有り」としないわけにはいかないであろう。
図5 低周波音に係る苦情件数の年次推移
表12 低周波音に係る苦情件数の内訳
環境省の調査報告は
「低周波音苦情については前年度に比べて増加しており,高い状態にあることから引き続き防止事例等の知見の充実と対策・評価方法の周知が必要と考えている。今後,引き続き適切な法の運用のみならず,良好な音環境の創造を一層推進していく必要がある。」と、締めている。もちろん集計は重要ではあり、自らの上記の内容を一段と徹底して欲しいモノであるが、今ひとつ現場の状況を一つでも看て欲しいモノである。
さて、一つ興味深いのは、「専門家」は「低周波音には振動も関係有り」と、何とか振動にも“責任”を持たせようとしているのであるが、振動規制法施行状況調査には低周波音に関しては一言も述べていない。
さて、前置きが長くなったが、今回の問題に戻ってみよう。
@調査費用
まずの問題は、低周波騒音問題に関し「無知であるのが当然」な素人の”苦情者”が、やっとのことで辿り着いて、”お縋りした”県の公害審査会調停委員会のような公的機関が”苦情者”に対して、ご親切にも、”業者の言い値そのマンマ”であるような値段を、「専門家」が“苦情者”に示している点には何らの専門性も見えない。だめ押しは「※調査は当事者が民間業者へ依頼し、費用も当事者が負担する。」である。
こんなのを見せられたら「“苦情者”は泣き寝入りをしろ」とご託宣されたに等しい。無理矢理好意的に解釈すれば、これは「低周波騒音の苦情を言って測定しても、多分無駄だろうから、無駄銭を払うな」と親切に教えてくれているのかもしれない。
確かに、現状では低周波騒音値を「参照値」に照らせば、先ず持って99%以上の低周波騒音源は間違いなく”問題無し”となるのは必定なのであるから、彼らの助言は親切極まりないモノであることは確かである。
因みに今回改めて、当市にその際の測定費用を確認したところ、ズバリ金額を聞くことは出来なかったが、少なくともNA18-A(定価750,000円)http://www.rion.co.jp/news/NA18.html 一台分よりは安い金額だったようである。
A「手引書」の役割
委員会の”親切”は冗談として、しかし、お待ちいただきたい。そもそも、この金額以前に問題にしなくてはならない点は公害審査会調停委員会がここでいみじくも引用している「低周波音問題対応の手引書 平成16年6月(顔境省環境管理局大気生活環境室)」には何が書いてあるのかを彼らはご存じなのであろうか。少なくとも引用していると言うことは、読んでいるはずではあろうが、「低周波音問題対応の手引書」には
○手引書の役割
本手引書は、地方公共団体における低周波音問題対応に役立ててもらうために作成したものです。手引書では、苦情申し立ての受付から解決に至る道筋における、具体的な方法や配慮事項、技術的な解説などを盛り込んでいます。
地方公共団体の低周波音担当者及び公害苦情担当者又は専門家においては、本手引書を参考としながら、地域の実情などを踏まえて適宜工夫を加えて活用していくことが大切です。
上記を普通に読めば、「手引書」の一番の「役割」は苦情にどのように対処するかであり、「解決に到る道筋」を示してくれなくてはならない。そして、それは、「低周波音が原因と思われる申し立てが発生した場合の最も重要な点は、苦情申立者(以下苦情者とする。)の申し立て内容を的確に把握することである。」、「低周波音の苦情対応においては、電話による聞き取り調査だけでは限界があるので、調査員が現場に行き周囲の状況把握及び発生源の推定を行う。」により示されているように、少なくとも「調査員が現場に行き周囲の状況把握及び発生源の推定を行う。」のが現場の「専門家」としての最低限のスタートであるはずなのである。実は、これがほとんどの事例でなされない。
行政の「専門家」は自分が出かける前に、まずは「データを持って来い」と言うことである。それで出かけるか否かを判断するのでは冗談は止してくれ。
「手引書」には、少なくとも、「※調査は当事者が民間業者へ依頼し、費用も当事者が負担する。」などとは述べていない。県の公害審査会調停委員会が「専門家」なら、こんな「見積書」を提示するならば、“苦情者”にではなく、自治体にすべきである。それができない自治体は自ら業者、乃至は県の専門機関に「お願い」するべきが筋である。
B「参照値」の誤用
無知の上に、誤解、曲解、「手引書」からは実に己に都合良く「参照値」だけを引用し、「低周波騒音音苦情を的確に対処するための参照値と比較し,その値を超えるか否かで評価する。」などと「参照値」を”錦の御旗”とするなど、「参照値」の意味を曲解して使用するなど、思わず環境省に替わって「××か」と言いたくなる。“「参照値」は錦の御旗ではない」と環境省は”一応”言っているのである。
しかし、これこそ、我々低周波騒音被害者が最も危惧し、予想していた事であり、既にこの傾向は多くの事例で見られているが、その危惧がこうまでに明確に「専門家」によって、無知を伴った典型として提示された事例は滅多にない。
昔はそれなりに納得のいく判決が有ったのに「参照値」以来パッタリと無くなってしまった様だ。
現在、「エコキュート」「コジェネ」が一般の生活環境に徐々に普及しつつある。そして、これらの低周波騒音が既に新たな低周波騒音被害者を生み出している。これについては次の機会に。
06/03/11,12
最後まで読んでくれてありがとう。
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