愛知・田原の風力発電騒音訴訟 8/7


上空から田原市組原風力発電所 この風車騒音問題裁判のポイントは、原告としては、今や風車騒音問題の常識となった低周波騒音で争って居るわけでは無く、環境省肝いりの「風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討会」報告書に依れば、「現時点で最適と思われる評価指標、評価手法及び参考とすべき値(目標値) 等の案を提案することを目的として、更なる検討を行った。」主なる成果、「一般的な風車騒音では可聴性に対する低周波数成分の寄与は小さいこと、風車騒音では振幅変調音がアノイアンスを高めていること、風車騒音の評価量としては、一般環境騒音の評価として一般的に用いられているA 特性音圧レベル(騒音レベル)が適用できること」という点を元にして、展開しているわけである。

 被告側は当然ながら、この「報告書」の「中電技術報告書記載の推奨値35dBは,民間の一事業者である中電技術が提案した目標値にすぎず,原告の主張は失当である。」とするような立場なのだが、それこそ失当で、中電技術は単に報告書のまとめの仕事をしたに過ぎないのであり、書類の本質を見ず、名前だけで判断するという素人であろう。すなわち、これは、「現時点で最適と思われる評価指標、評価手法及び参考とすべき値(目標値) 等の案」であることは、検討委員会という学識経験者と、それを依頼した環境省の作成物である事は常識的に理解できる。ある意味、最近の知見なのである。
 建設当時の野放し状態、すなわち、構築物(=タワー)については単なる”広告塔”扱いの戸外に於ける構築物で、単なる看板と同じだったらしい。それがその後、建築物として建築基準法に引っかかることになり、業界からは「金と暇がかかる」としばらく随分不評であったが、その声を聞かなくなったことは、何らかの抜け道を見つけたか、クリアしたのであろう。

 が、依然として業界が言い張るのは「風車の騒音に関しては格別に法定化された基準も規制も無い」。すなわち、法的にひっかかることは今もって何も無い野放し状態で、騒音問題で法的に問われることは無い。すなわち、騒音問題で裁判になっても負けることは無いと言うことである。

 さらには事業者にとって都合の良いことに、風車騒音の影響は、”造ってみないことには解らない”と言う事だ。それを良いことに、「出来た後で問題があれば何でも対処する」と事業者は決まり文句のように言い、造ってしまう。しかし、現実は、仮にその後どんな文句が住民から出ようとも、1基数億円をかけて造った風車を追いそれと撤去するようなことはなく、「問題ない。科学的根拠が無い」として住民の苦情は放置される。ましてや複数基のウインドファームが無くなるようなことは絶対に無い。風車は出来たらお仕舞いだ。

 当訴訟はそうした状況に一石を投じる訴訟なのだ。もし今般風車が”無罪”となれば、事業者は風車建設は「これまで通りの展開」で良いのだと確信を持つであろう。しかし、一方では、引さという手の内を明かしてしまった手段で造られた風車が、仮に”後で何か有っても”何らかの対応を講ずるとは決して思えない、ことを住民は知ったであろう。

 本当に”風車は造らせたら終わり”と言うことを多くの人々が認識し、今後の風車事業の展開は一層困難になるであろうことを風車業界は認識すべきであろう。


7.風車騒音問題最近の動き

 さて、最後にこうした風車被害を生まないためには、最初からそもそもの原因である風車を造らせないことしかないのだが、現在そのために獅子奮迅の活動をしているのが、山口県下関市の「安岡沖洋上風力発電建設に反対する会」なのだが、企業が一度”白羽の矢を立て、造る”と決めた風車を”企業側の意思”でなくやめさせるには、ここまでしないことには、と言っても、まだやめるわけでは無いのだろうが、過日その会に招かれた三重県の医師で歯学博士の武田恵世氏が同会の住民集会での、「風力発電の不都合な真実―風力発電は本当に環境に優しいのか?」と題した講演」(2014/6/23)の要旨が長周新聞に連載されており、そのよりほんの一部を紹介して、今回は終わりとしたい。

 事業者がよくいうのが「環境基準」だ。環境省ははっきりいっている、環境基準、参照値というのは、「受忍」つまり我慢しなくてはならない基準ではありませんよ、と。ところがそれを知らない事業者と知識のない自治体は強いことをいう。

 被害者の証言だ。「いつまでたっても着陸しないセスナ機」「止まらない夜行列車」。私たちはセスナ機に乗っても、夜行列車に乗ってもだいたい寝られる。それは、いつ止まるかわかっているからだ。ところが、風力発電機はいつ始まるのか、いつ終わるのかがわからない。それを我慢しろというのは非常に過酷すぎる話だと思う。大きな音がしていて雨戸とか置物も震えているが、環境基準はクリアしているから我慢して寝ろ、というのは非常に過酷な話だ。足利工業大学で風力発電をつくっている牛山泉先生も「木擦音、つまり木の葉が擦れるぐらいの音であっても、重大な睡眠障害に発展する恐れがある」といっている。(長州新聞 2014年7月2日付)


 また、平成26年7月7日(月)に下関市は、市環境審議会・議員対象に「風車による騒音や低周波音が環境や人体に及ぼす影響について知識を知るため」風力発電講習会を開催したという。その中で、

◎東京大学 橘 秀樹名誉教授 応用音響工学 は、平成22年から3年間かけて全国で行った風力発電の調査結果を発表し、

「風力発電所は静かな地域に建設されることが多く、深刻な環境騒音となる。夜間などに耳について睡眠障害の原因となり、健康に影響を及ぼす可能性がある。」とのべた。

 と言うことである。因に、氏は平成24年度 風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討会委員長でもあり、風車による低周波振動被害に関しては否定的な立場にある。

 140709


 「山口県下関市 安岡沖洋上風力発電建設に反対する会」のHPが一時期閉鎖された。そして再開された。その間の経緯は、「2015年4月16日午前7時ごろ山口県下関警察署の私服刑事数名が突然、洋上風力建設反対を訴える住民宅にやってきました。対象となった住民は安岡在住の4人で、その後警察署で事情聴取を受けました。このため、一時HPを閉鎖しておりましたが、本日(2015/4/30)ここに新たにHPを立ち上げるとともに、これまで同様、前田建設工業(本社東京)による「下関市安岡沖洋上風力発電プロジェクト」に反対する立場から情報発信を続けてまいります」と言うことである。

 学生運動華やかなりしころに青春を送った団塊世代的な単細胞的脳みそとしては「官権の横暴」という言い方がぴったりなのだが、両者の言い分が明確では無いので不明だが、特によく解らない前田建設側だけの申し出で、官権が出張ってきたとしたら、所謂「住民運動潰し」なのだが、この時代にこういったことがあるのだろうか。この大規模な風車反対の事実、官権の手による家宅捜査までという前田建設の強引な態度、これで住民い「ご理解」を得ると言うのは無理であろう。しかも、こうした一連の事態が全国的に全く報じられないと言う現状は、バックに何かと言うより、余程国の支援が有るとしか思えない。少なくとも、捜査権を行使した事は、遠くない国の、一方的な申し立てで、捜査、取り調べをするという法制と同じでは無いか。

 正直、一般住民としては警察関係者が呼びもしないのに、我が家に来るだけでも良い気分ではなく、ましてや家宅捜査だとか、事情聴取なんというだけで、びびってしまう。テレビドラマではないのだ。

150504



8.愛知・田原の風力発電騒音訴訟 地裁結審

 2015//04//23、予想に違わず、田原市六連町の風車設備停止請求訴訟は「生活を妨げる騒音ではない」と棄却された。

 田原市六連町の風力発電設備の騒音により精神的苦痛を受けたとして、近くに住む大河剛さん(46)が設置会社のミツウロコグリーンエネルギー(東京都)に稼働停止と損害賠償を求めた訴訟の判決公判が22日、名古屋地裁豊橋支部で開かれた。田近年則裁判長は、大河さんの訴えを退ける判決を言い渡した。大河さんは「風車騒音に対する基準がない以上、何を言っても無駄なように感じた。今後の対応は弁護人と相談して決めたい」とコメントを出した。

 裁判は、風車の稼働音が受忍限度を超えるか否かが争点として行われた。田近裁判長は「受忍すべき限度を超えるものであるとはいえず、人格侵害を認めることはできない」として原告の訴えを棄却した。

 判決によると、大河さん宅付近では、環境基準の騒音レベルは昼間55㏈(デシベル)以下、夜間が45㏈以下と定められている。同支部は計13回にわたって実施した測定結果により、屋外で43㏈、屋内では28㏈程度であったと認定。「日常生活や睡眠を妨げるほどの騒音と認めることはできない」との判断を示した。

 大河さんは2013年8月、設備の停止を求めて同支部に仮処分の申し立てを行ったが却下され、昨年3月に提訴していた。弁護人は、環境省が推進する風車の騒音レベル35㏈を基準とする判断を請求。同支部は判決で「あくまで目標値で、科学的妥当性も検証されておらず採用できない」とした。

 裁判で同社の弁護団は「建設当時に地域住民の同意を得て、説明も尽くした」などと設備の正当性を主張。大河さんの弁護団は、住民への見学会と稼働した風車が異なるメーカーである事実を示し「虚偽の説明を行った」などと訴えていた。

 同社の櫻庭信之弁護人は「裁判所は慎重な審議を進め、妥当な結論だと思う。今後も環境に優しく、地域貢献や共生に努めていく」と話した。


 当訴訟が破れたことにより、風車騒音を深く知り得ない裁判官にとっては、現存する「科学的妥当性」内においてしか判断することは出来ず、現況では法的に断ずることは不可能である事が明らかになった。事業者は風車は造れば勝ちである。

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