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随想
           
海岸に打ち寄せる波(平成20年8月20日脱稿)

   昨秋、質問魔のテニス仲間(トヨタ後輩)から『この地球上では何処の海岸に立っても、沖合から波が海岸に押し寄せてくるのは何故か』との質問を受けた。

      氏は3人兄弟。3人とも東大卒という天下の秀才兄弟の一人。私を困らせようとしてクイズを出したのではなく真面目に質問したのだ。

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はじめに

   『う〜ん。見当も付きませんね。今までに世界各地を旅行したが、その現象を否定することは出来ませんね。南アフリカ連邦のダーバンやブラジルのサントスではの方角から、ペルーのリマでは西から、パキスタンのカラーチではから、エジプトのアレキサンドリアではから波が海岸に押し寄せていたのを目撃した。東西南北を向く全ての海岸で例外なくこの現象は発生していた。

   この現象は海だけではない。世界最大の内陸海であるカスピ海でも発生していた。それだけではない。太平洋の度真ん中にあるハワイ諸島のような小さな島の場合でも、島の外周である東西南北何処の海岸でも波は沖合から海岸に押し寄せていた』

   その後、1月には西アフリカ、4月には屋久島に出かけ、6月には食道がんの治療に専念したりして我が貧弱な頭脳は思考停止状態だった。しかし、今年は例年にない酷暑。がん治療で衰弱し歩けなくなり、テニスもゴルフもドタキャンしてのんびりとテレビを見ながら自宅で静養していたら、解らしきものがふと閃いた。

   賢人各位にご査読を賜りたく、ここに我が仮説を恥ずかしながら発表することにした。
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類似現象

@ 宇宙からの光


   晴れた昼間、太陽の光は我が家にも到着するが、夜間には地球が邪魔して到着しない。当たり前のことだ。でも、星の光は昼夜を問わず燦々と我が家だけでは無く、この地球上のどの位置にも無差別に降り注ぐ。

   この現象の原因は光源の数にある。光源は数千億個(一個の銀河内の星の数)*数千億個(宇宙全体の銀河の数)もあるそうだ。この地球はそれら無数の光源に取り囲まれているから、何処の場所にも星の光が降り注ぐのは、これまた当たり前だ。
   
   光源となる星が無数にあっても、我が家の直ぐ近く(宇宙的な感覚では)にある太陽光は強すぎるので、昼間は星が消滅したかのように感じるが、皆既日食が発生すればその瞬間、満天の星が突然輝き出したかのように感じるのも理の当然だ。

A 音

   近くで雷が落ちると音源の方向が分かる。音源から離れすぎれば聞こえないだけだ。銀座4丁目の交差点に立てば、東西南北何れの方角からも意味不明な騒音が聞こえる。これまた音源が交差点の周囲に無数にあるからだ。ハワイの島にあらゆる方角から波が押し寄せるのと同じ現象だ。

   人間の耳では区別できなくても、特定の周波数の音だけを取り出せるフィルターを使えば、音源の位置を特定できる場合もある。音源の周波数を絞れば絞るほど、東西南北から聞こえてきた騒音の一様性が崩れるから当たり前だ。

B 電波

   我が家には地球上の放送局からの電波だけではなく、広大な宇宙からも無数の電波が飛び込んでくる。これらの電波は互いに干渉しているものもあれば、干渉していないものもある。それらの電波の中から特定の周波数の電波を選び出せる共振回路を使って、テレビやラジオの選局をしている。

   玄界灘に面した福岡県に育った私は昭和20年代、近隣諸国からの強い電波がラジオに入り込み、一種の妨害電波の役を果たし、NHKが聞き取り難くなっていたのを思い出す。無数の電波が飛び交っている時、特別強い電波があれば弱い電波が恰も消滅したかのように感じるのも当然だ。
   
C 海や水溜りに発生している波

   ゴルフ場には何故か障害物となる人工の池を造るのが流行っている。我がゴルフボールが池に落下すると、落下地点で発生した波が周囲へ広がり、最終的には池を取り囲む岸辺まで到着し、やがては消滅する。
   
   原因は種々様々だが、海でも無数の波が常時発生しては周囲に広がり消滅している。波の発生原因は、台風・地震・海底火山・海流・貿易風・単なる風・船の航行・魚の運動・月の運行など無数にある。これらの波は位相が揃えば互いに干渉するが、殆どは互いに干渉することもなく、海上を勝手な方向(あらゆる方向)に移動し減衰する。しかし、それでも残った波は最終的には海岸まで辿り着いては消滅している。海水が移動しているのではなく、波が移動しているだけだ。
   
   飛行機から周囲に何もない海上を眺めると、小さな波の山や谷が生々流転しているように見えるだけだ。長い波が洗濯板のように整然と揃って移動をしているようには全く感じられない。しかし、遠浅の長い海岸近くでは、湾曲した海岸線の形に恰も合わせたかのごとく並行した長い波が位相を揃えて洗濯板のように整然と並び、海岸に打ち寄せている。でも、海面に垂直な断崖絶壁が迫る深い海岸や、大型船が接岸できる深い海の岸壁では、洗濯板のように並んで打ち寄せる波は存在しない。
   
   超大型台風が日本に接近すれば一時的に南からの波が大きくなり、その他の波は存在しているにも拘らず、一見消滅したかのように感じるのは、上記の類似現象と同じだ。
   
   我が恩師で縄文杉の樹齢は7,200年と推定された故真鍋大覚先生は、海洋波は色んな周波数と強度の波から構成されており、その波高の確率分布曲線は Rayleigh(レイレイ)分布に近いと講義された。この分布は正規分布とは異なる特殊な曲線だ。注目すべきは風もない穏やかな天候でも、波高の高い波が岸壁まで稀に到着する現象だ。
   
   岸壁の岩に陣取っていた太公望が高波に襲われて遭難する事故が発生するのも、Rayleigh分布で説明される。
   

インターネットから
   
   レイレイ分布(Rayleigh  distribution)とはデータのバラツキの分布を数学的に表す「確率モデル」の一つで、その分布は下記の数式(省略)の形で与えられ、統計解析や自然現象の予測・推測等に利用される。
   
   レイレイ分布で表現される自然現象の例としては、風速の出現分布や海洋における波高の分布などがある。

   

   私が大学を卒業した後も海洋波の研究は進み、その後話題になった『Freak Wave』についても解明されつつある。銚子沖などで大型貨物船の遭難事故が多発するのは Freak Wave が原因とも言われている。Freak Wave は海流が衝突する場所で海面波と重なって発生するらしい。

インターネットから。
   
   流体力学の一分野として水面波の研究はその最も古典に属する.海洋波浪の現代的研究がランダム過程の統計と非線形力学という異なる2本の柱の上に立って新しい科学的発展を開始してからちょうど半世紀が過ぎようとしている.
   
   本稿では近年海洋流体力学での興味深い話題となっている <Freak Wave>と呼ばれる特異現象の研究の概要について述べる.Freak Wave は実海面で周辺の波から際立って,突然生起する孤立的な異常波浪である.この現象を解き明かすことは海洋流体力学における非線形ランダム問題の融合発展の可能性に対するひとつの試金石と言える.

   
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我が仮説

   海水浴が出来るような遠浅の海岸特有の地形が、無数の波のフィルターの役割を果たしているのだ。海岸に平行な波は進行方向に移動するだけで海岸には接近しない。海岸と垂直方向(斜めに海岸に来た波はその垂直成分)に広がってきた波だけが重なり合って波高が高くなり、海岸に押し寄せてくることになる。

   海岸に打ち寄せられた波は運動のエネルギーを失い、海底を伝って海へと逆流する結果、海岸近くでは波は円運動をしながら海岸に押し寄せては引き返すことになる。遠浅を全周囲に持つ島が太平洋の真ん中に存在すれば、無数の波の中から島の海岸線に垂直に来た波だけが残る結果、島のどの位置にも沖合から波が押し寄せて来るように感じるのだ。

   大洋やカスピ海のような大きな水溜りだけではなく、ゴルフ場の小さな池でも我が家のミニ浴槽でも、この現象は普遍的に大なり小なり発生していたのだ。
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おわりに

   平成20年8月20日にとうとう70歳になった。満年齢での古希だ。5年半以上もの長い間がんと闘い、治療のために5回も入退院を繰り返した。その結果、死に神に追いかけられている心境にすっかり侵されてしまった私には、余生を楽しむといった心の余裕も乏しくなり、あれこれ面倒くさいことを考える気力も喪失し、過去の惰性(主たるものはゴルフ+テニス+海外旅行+家庭菜園+ホームページの更新)の延長生活を維持しているだけだった。

   そんな私を見透かしたかのように我がテニス仲間は、質問の形を採りながら面白いテーマをプレゼントしてくれたのだと感謝している。この程度の課題でも恵まれた英才の主ならばとも角、私には自らが納得できるような回答を簡単には作り出せなかった。思考能力は体力と共に日々着実に衰えていくものだと、寂しさを噛み締めながら実感せざるを得なかった。

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読後感(古希のお祝いやがんへの励ましも含む)

古希を迎えられおめでとうございます。愛知県がんセンターにお見舞いに行ってからもう5年以上になるのですね。

石松さんの気力にいつもながら感心しながらホームページを見ています。訪問国も目標を超えられ、私の目標は石松さんの50%にしていますが未だ30ヶ国を達成しておりません。7月にロシア、バルト3国に行けば30を超える予定でしたがツアー成立せずでした。

では、秋に37年度会で。     

@ トヨタ同期・法

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70歳の誕生日、古希を元気ハツラツと迎えられおめでとうございます。貴殿はきっと最長寿を迎える人になるでしょう。

貴殿にはいろいろ教えられることが多い。「死を一度覚悟した後は人生観がガラリと変わる」ということを多くの経験者が語っている。物の価値観、真に大切なもの、自分の人生の評価、今あるべき姿、・・・・。貴殿にはそれらがはっきりと見えて、充実した毎日を有意義に過ごしておられることが思量できます。

それに引き替え、小生にはまだまだ見えていないことが多い。無駄だらけの毎日を過ごしているような気もします。いずれにせよ、加齢していく人生は未体験ゾーン。臨機応変に対応していくことが何時まで可能なのでしょうかね?人生の資産も時間も少なくなってきていることは確か。これらを如何に上手に使いこなすかが大事なのでしょうか?

今後も貴殿の忌憚のないトークを期待しています。

A トヨタ同期・工・引退後に始めた和太鼓の特訓中

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立秋が過ぎても、猛烈な暑さが続いていましたが、名古屋は昨日の夕立で秋らしい風を感じることが出来ました。

石松先輩には古稀を迎えられたという、目出度い知らせを受け、心からお祝い申し上げます。以前も年齢のことでメールを出した記憶がありますが、健康年齢を如何に重ね、伸ばすかがポイントだと思っています。

HPの随想、凡人の私には当たり前の自然現象で疑問も湧きませんでしたが、当たり前のことを当たり前と思わない観察眼、問題意識を持てる非凡な方々が先輩の周りに居られることが人世をお互いに豊かにしているのでしょう。先輩の解説もイントロの音・光・電波のところで何となく解った気になりました。

今後ともお元気で、旅行にゴルフにテニス他大いに楽しんでください。

B 高校後輩・工

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70歳の誕生日、誠におめでとうございます!

60代後半は癌との闘いの時間でしたが、これから先は穏やかで有意義な時間をお過ごしになれるよう、心よりお祈りを申し上げます。

石松さんの知の探求心にはいつも驚かされます。波の話もそうです。「仮説」を拝見して納得した気持ちになりましたが、それまでは(何故だろう・・・)と皆目見当もつきませんでした。「何故だろう?」と考え、論理的な仮説を導き出す知的パワーに敬服いたします。

これからもお仲間からの楽しい課題と、見事な答えをHPで拝見できることを楽しみにしています。

71歳の誕生日に向けての新しい1年を、どうぞお元気でお過ごしください。

C まだお会いした事もない一級建築士・名古屋市に単身赴任中

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古希を迎えられ、おめでとうございます。

今更ながら、これまでのがんとの闘いの有様に敬意を表します。私にはとても貴重な見識をいただき続けていると、ありがたく思っています。

海岸に打ち寄せる波のことについては、我が凡人ぶりを再認識しました。こんな楽しいことがこんなに身近にあるなんて。また、我が意識と思考は人間世界の課題の方へ向いていることも改めて認識いたしました。

今度は、喜寿を目指して果敢に挑戦されることをお祈り申し上げます。

D トヨタ&大学後輩・引退後技術士の資格を取り東奔西走しながら活躍中

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誕生日おめでとうございます。

病気としっかり向き合い、そのなかで人生を謳歌しておられることにすばらしいことと尊敬しております。これからも様々な情報を発信していただきますようお願いいたします。

南東北病院では10月19日の治療開始に向け、物理測定、システム構築を進めております。問題は少なくありませんが、南東北、兵庫のスタッフが連携、協力して確実に進めています。粒子線治療によってこうした交流ができること喜んでおります。

まだまだ残暑厳しい折ですので、お身体たいせつにお過ごし下さい。

E 兵庫県立粒子線医療センターでお世話になった放射線技術科長

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愚問(と言っても私には素朴な疑問だったのですが)の張本人です。にも拘わらず、まともに取り上げて頂き恐縮しております。

「実は沖にはそれぞれ『波の神様』が居られて陸に向かって波を送ってるんだよー」という様なお答でも良かったのですが・・・・・・

水の波は分子の円運動で浮遊物は上下運動をしているだけだと学校では習った気がしますが、そこから先はよく分かりませんでした。

石松様の明晰なご推察による「フィルタリング」理論、感服いたしました。遠浅の地形により重畳(複合)波が整形されて単純な波になり、単なる水の上下運動が打ち寄せる波に変化するのですね。

さすればソリトンの発生(形成)もこの理論で説明できるのでしょうか?

F トヨタ後輩・テニス仲間・工・来春3ヵ月半の世界一周クルーズを楽しみにしている方・今回の課題の提供者

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