4.脳と音

4−1. 音の入り口(聴覚系の感覚器)

では、低周波音を聞くと低周波音被害者は苦しくなるのかを考えるために、まずは、音は人間にどのように伝わり、認識されるのかを、今の私のレベルで検証してみよう。

私も脳を一つは持ってはいるが、断るまでもなく、脳のことを知るわけではないので、文末には全て「と言われている」が付くと思っていただきたい。また、幾つかのサイトや本を参考にしたので、多くはパクったモノを自分に解りやすいように少々書き換えた部分が殆どであるので、似たり、同じ様な表現があっても、明記し忘れたサイトの管理人や、著者には何とぞお許し頂きたい。


  外耳から聴覚皮質まで

 外耳は耳介(じかい:いわゆる耳の部分)と外耳道からなる。耳介は、パラボラアンテナのように空気中を伝わる音声の音圧をあげて集音する機能を持つのみならず、その複雑な形態から、音源の方向によって音響伝達特性が変わることにより、上下・前後・左右といった音源の定位に役立っている。外耳道は約2030mmの長さを持っており、鼓膜で終わる。

 中耳は、鼓膜、つち骨、きぬた骨、あぶみ骨の3つの耳小骨(じしょうこつ)よりなる。空気振動による鼓膜の振動が内耳のリンパ液に伝わる際、3つの耳小骨を伝わることで、鼓膜とあぶみ骨の面積比の関係とてこの原理により圧力が約22倍に上昇する。つまり天然の物理的変圧器の役割を果たしている。

内耳は側頭骨の中に位置し、直径1cm程度で2回り半巻いておりカタツムリのような形をした蝸牛(かぎゅう)、三半規管、前庭よりなる。このうち、聴覚に関わるのは蝸牛で、ここに音の振動を神経(蝸牛神経)に伝えるための構造がある。外耳、中耳はここへ振動を伝えるための構造に過ぎない。他方、前庭三半規管は平衡感覚を受容するための器官である。

蝸牛は、内部が3層構造になっており、上から前庭階、蝸牛管、鼓室階と言われ、それぞれリンパ液などで満たされている。あぶみ骨の振動が蝸牛の入り口の小窓(卵円窓:らんえんそう)に伝わり、内部のリンパ液を振動させ、コルチ器を載せた基底膜を振動させる。

 このとき最も強く振動する基底膜の位置が音の周波数により異なり、高い音の方が入り口付近、低い音の方が入り口から遠い位置の基底膜を振動させる。この振動がコルチ器のうちの、「音を聞く細胞」が工場の機械のように整然と並んでいる音の振動を受ける毛が生えている内有毛細胞の不動毛(聴毛)を変形させ、イオンチャンネルを開かせ細胞を電気的に興奮させ、内耳神経へと伝えられる。


 このような基底膜の物理的な周波数特性に加え、内有毛細胞の特定の周波数への「チューニング」という生物的な要素により、我々は音声認知の初期から、周波数情報を神経細胞興奮という情報に変換しているのである。基底膜の周波数特性を発見したベケシー(Georg von Bekesy)はその業績で1961年のノーベル医学生理学賞を受賞している。

 と、こういった所のようだが、空気中を伝わってくる音が、我々に音として聞こえるには、空気の振動→液体の流れ→基底膜の振動→有毛細胞の変形→イオンの変化→電気的信号→脳が認識、という大変な過程を瞬時に経る事になる。

4−2.蝸牛は低音に反応する

ここらになるとなかなか良く解らないので、もっと解りやすい説明とか図を探したのだが、「解りやすい」と言う点を考えると見つからないのでひとまずここらまでにする。

「蝸牛は低音に反応する」。これは実は、科学雑誌「ニュートン」の20067月号の「渦巻き構造のわけ」と言う記事の元ネタ(Physical Review Letters 2006/02/17号)のようで、英文を一応かいつまんで訳してみると、Ear's spiral responds to bass.(耳のらせんは低音に反応する)

蝸牛がなぜらせん状になっているのかという事については、音の導管が直線状でもらせん状でも周波数分解能力に差が無いので、「空間を節約するためにらせん状になっている」とされてきた。だが、今回、アメリカ、バンダービルド大学のマノーサキ博士らは、蝸牛殻のらせんの外側の縁で音波の周波数に焦点を合わせているのだが、特に低周波音の検出に対して、振動に対して敏感な細胞の働きをより容易にしている、としている。

また、蝸牛管には渦巻き構造により、らせんの奥の方で捉えられる周波数(低音)が、入り口で捉えられる周波数(高音)に比べて20デシベル増強されている、としている。

因みに20デシベルというのは普通の会話と掃除機の音の差だそうだ。

博士らは、これらを液体で満たされた渦巻き状の管を数学的にモデル化し、色々な周波数の混じり合った音の伝搬の様子を数学的に解析した。

ミシガン大学の耳の構造が専門のカール・グロシュ氏は「もし、この研究者達が正しいとすれば、耳は私たちが思っているより精巧で、私たちが細胞生物学から一歩退いて、蝸牛殻が融合システムとして稼働するとみなす必要がある」と述べている。

また、同氏は、低音が20dB増強(boost)されていると言うことは人工内耳の設計にも重要であり、らせん状で小型化された機器を作ることは比較的容易であると言っている。

 BioED Online  Ear's spiral responds to bass


4−3.難聴は高音から

加齢による聴力低下は避けられず、理由は色々あるようだが、「難聴」と言う事になれば、結局はこぞって補聴器を買わされる羽目になるのだが、今回はひとまず老人性難聴だけとする。この症状の特色は「高い方の音から徐々に聞こえ辛くなる」と言われている。と言うことは、「低い音の聴力低下はそれ程でもない」と言うことである。と言うことは、老齢者にとっては、高周波音部分が聞こえなくなる分、普段の可聴域音に占める低周波音の割合は大きくなる訳で、老齢者が低周波騒音被害者になりやすと考えるのも合理的である。

低周波音症候群に苦しんでいた真っ最中「歳をとれば耳も悪くなり、低周波音も聞こえなくなるから大丈夫だよ」などと慰めてくれる人も居て、「早く聞こえ無くならないかなー」などと思ったり、医者に「音の聞こえを鈍くするような薬はないか」などと聞いたりなどしたが、今思えば、加齢は低周波騒音被害の軽減には何の役にもたたないのである。

 何せ、聴覚障害者でも低周波音は「感じる」のであり、事実、音は聞こえなくても圧迫的な「低周波音は感じる」ので「低周波音による非アレルギー性音過敏症=音アレルギー」は無くならないのである。それはヘリコプターが近づいてくる時、音が聞こえる前の空気の圧迫感で不快感を感じる事で解る。

上記の記事から考えると、低周波音、超低周波音と言う代物は人間の聴感覚器が聞きにくい音をわざわざ増幅してまで人間に聴かせようとするほどのモノなのであるようだからそれなりに意味があるのであろう。恐らく、脳細胞がイカレないことには低周波騒音被害は続く事になるのだろう。

上記のグロシュ氏ではないが、もし、低周波音部分が蝸牛内で20dB増幅されている」とすれば、私が疑問に思っていたことの幾つかのことが納得できると同時に、低周波音神性説の信憑性が高まる事になろうか。

4−4.補聴器の音は「キンキン」

私の義父は90才を超すのだが、ぼけずに結構頑張っている。だが、だいぶ前から電話の音も聞こえず、必要な時にも連絡もできないので、「補聴器を買あいいん(買いなさい)」と周りからギャアギャア言われ、数年前にやっと嫌々購入した。が、「補聴器を付けると、キンキン言って何を言っているのか余計解らん」と言ってほとんど付けないので、依然電話しても義母が居ないときには誰も電話には出ない。

私は補聴器を使ったことがないので、もちろんこの意味が解らず、折角買ったなら使わんでどうする。何のための補聴器か。何と我が侭なじいさんだと思っていた。周りの人たちももちろん、「ホントに文句ばっか言っていかんわ」と最近では諦め気味に怒鳴り声で言っているが、もちろんその声も聞こえないはずだ。

しかし、今回の話しで、補聴器を付けないにはそれなりに十分な理由が有った訳で、義父の言うことは“科学的”裏付けがあったのだ。何とも申し訳無いことを考えていたと反省しきり。お詫びに今度は周りの皆さんにも説明しよう。

そもそも、普通に良く聞こえる人は、1258000Hzまでくらいが平均して聞こえるようだと言うことだ。耳鼻科で行う聞こえの検査で最も一般的なものが標準純音聴力検査だが、それもこの範囲で行われる。

 ところが、これまでの補聴器のコンセプトが加齢による聴力低下では「話し声が聞こえなくなったのだから、そのレベルの音だけを増幅すれば良い」と言う
話し声の中心周波数帯250500Hz(人間が話す声の周波数帯域は男性の場合40400Hz、女性の場合150900Hzくらいと言われている)だけを増幅したため、補聴器の音が「キンキン」と聞こえたのではないかと考えれば簡単に納得がいく。

現在の補聴器は本人の耳の型をとり、耳にピッタリの補聴器を作るという「造形的」な技術面がウリで高額なカネを取っている様だが、歯科技工士などはもっと小さいモノをピッタリに作っているのだから、そんなに難しいことでは無かろう。もちろんその中にマイクとアンプとスピーカーを組み込むのだから簡単とは言わないが。
 ただ、内耳が弱くなると、全周波数的に弱くなる訳ではなく、上記の蝸牛の仕組みからしても、現実的には周波数毎に弱り方が異なるようで補聴器の調整の際に、難聴のパターンに応じて周波数的に増幅度を変えなくてならないと言う技術的問題も有るようだ。

ところが、大小、高低様々な音を、瞬時に個人の良く聞こえる範囲に収めるという補聴器はまだないそうだ。“次世代器”には、高音部だけでなく、聴覚の低下に比例して、それなりに低音部の聴感も低下しているはずであろうから、少なくとも「“一聴”必要がないと思われる低周波音もそれなりに増幅」し、高低のバランスを取った、Hi-Fi(ハイファイHigh Fidelity高忠実度、高再現性)器を望みたいモノである。

上記のカール・グロシュ氏も「らせん状で小型化された機器を作ることは比較的容易である」と言っているのだから、近い将来「画期的な新型補聴器」が発売されるのであろう。

 当初私は低音は音色に関係した「聞き手の感じ方」に重点を置いていて考えていたのだが、上記のような「科学的知見」と言っていいはずの事実からすれば、そんな程度のモノではなく、低周波音部分は人間の聴感にとって、増幅までして聞かなければならない必須なモノである様だ。


4−4. 超低周波音が聞こえる?インナーイヤーヘッドホン

この「ハイ・ファイ」だけに関して言えば、数百円でハイファイを実際に可能にしているのが「インナーイヤーヘッドホン」の世界である。もちろんそれは補聴器で言えば、「スピーカー」部分に限る事にはなるのではあるが。

私達以前の世代では「ヘッドホン」と言えば、頭から両耳をスッポリと覆う「オーバーヘッドバンド式ヘッドホン」(以降「オーバー」)が常識であった。しかし、数十年前の携帯に便利なウオークマンの登場の頃は「シャカシャカ」と言う金属音が電車の中などで漏れまくり周りに随分迷惑を与えていた「パッド」式が大勢を占めたが、その後、耳の穴にスッポリと収まってしまう「インナーイヤーヘッドホン(以降「インナー」)」が「ヘッドホン」の代名詞になってしまっている。因みにこの手で一番の売れ筋は「音漏れしにくい"カナル"タイプ、耳穴サイズにジャストフィット!」が売り文句のゼンハイザーのCX300の様である。カカクコムでの最安値は3650円である

私としては形態と「オーバー」の売れ筋の1万円から数万円に比べ、「インナー」の売れ筋は数千円から2万円超くらいで、あくまで「インナー」は単なる「イヤホーン」でチャチいモノだと思っていたのだが、実は恐るべき存在なのである。

「インナー」は何と数百円のものでもスペック(数値的性能と考えてほしい)としては、再生周波数帯域は2020,000Hzで、人間の可聴域の全てを見事にカバーしており、中には数千円でもスペックとしては5Hz〜25,000Hzと言う超優れモノまであり、高周波の部分はひとまず置いて、再生周波数帯域の「低周波音部分に限って」みれば据え置きスピーカーの売れ筋スピーカーの40Hz100,000Hzも顔負けである。

しかし、素人的に考えると、実際に1cmそこらの振動体から物理的に5Hzの超低周波音が出るとは思えない。仮に出ていても人には“聴き取れない”と思う。一体どういったものかと思い、ヘッドホンばかり数十種類置いているコーナーで幾つか試聴したのだが、これが意外や実に「迫力のあるいい音」を出すのである(頭蓋骨内が、オーディオルームとなるのか?)。思わず最高級クラスの数万円のを買おうとしたのだが、隣に数十万円クラスのスピーカーが並べてあるコーナーがあり思わずそこへ足を向けてしまった。

流石に、据え置きスピーカーの音の良さにはヘッドホンは敵わない。その最大且つ決定的な違いは、音の透明感、広がり、奥行きである。これはどうもがいてもヘッドホンでは表現できない。要は、音はスペック(=数値)だけで律し切れないと言うことである。

「ヘッドホン」コーナーの係員(結構なおじさんなのだが、こういったこの道一筋の人は最近めっきり減ってきたのだが、実に良くモノを知っている)の話では技術者達は実にこの「Hzの音が(機械計測的に)出ているかどうか」にいたく拘るのだそうだ。その理由は「聞こえなくてもその音が出ていることにより聞き手の音の感じ方が違う」からだそうで、当に人間の聴感の神髄を捉えた卓見である。ひょとしたらこの6Hzこそ「ヘッドホン難聴」の張本人なのではなかろうか。

 「ヘッドホン難聴」は一般的には単に「大きな音で聴き続けると難聴になる」としているが、それは確かにそうで、特に外にまで「シャカシャカ」音が漏れるような音量では聴力自体が疲れて音に麻痺してしまうはずだ。その原因の一つは、本人に聞こえている意識がなくても、実は6Hzの超低周波音が、鼓膜から先にガンガン送られており、それは鼓膜の振動には出ていないモノの、頭骸骨自体をスピーカーの箱の役目にし、本来聴覚的には聞こえなていはずの超低周波音が、ヘッドホンの大きさには思いもよらない迫力の聴感を脳細胞に与えているのではなかろうか。

 本来ならインナータイプのヘッドホンは小さな音量でも迫力のある音で聴けるので、耳に優しいはずなのだが、使用法を誤ると取り返しがつかなくなる。自業自得と言えばそれまでだが。

 私自身はオーバーの最高級品でも頭と耳に圧迫感を感じるし、インナーは耳道内の異物感が何とも嫌で使う気になれなかったと言うのがヘッドホンを買わなかった本当の理由なのだが。


4−5. Hzは超低周波音(infrasound

ヘッドホンの作成に際して技術者が拘る6Hzと言う音は言うまでもなく、超低周波音である。これが持つ意味あいはどうかというと、平成1210月環境省発刊の「低周波音の測定方法に関するマニュアル」では

超低周波音

 一般に人が聴くことができる音の周波数範囲は20Hz-20kHz とされており、周波数20Hz 以下の音波を超低周波音という。ここで取り扱う範囲は1/3 オクターブバンド中心周波数1-20Hz(またはオクターブバンド中心周波数2-16Hz)の音波である。

と述べている。

一方、超低周波音が一般的にはどう言われているかというと、英文サイトのWikipedia※に有るように

Infrasound is sound with a frequency too low to be detected by the human ear.

“超低周波音は低すぎて人間の耳に感知されない音である”

 等とするのが一般的である。しかし、流石、環境省「(人間が)聴くことができる音の周波数範囲は20Hz-20kHzとされており」という肯定的な表現のみで、「聴くことが“できない”音の周波数範囲は20Hz以下並びに20kHz以上とされており」等と言う、否定的表現は決してしていないことである。あくまで、超低周波音が“聞こえない”などとは決して言っていない。もちろん、この「されており」と言うのが極めつきの眉唾的表現なのだが。

因みにWikipediaの日本語サイトには超低周波音に関する記述はない。

さらに、英文サイトの“良心”はinfrasoundを以下のように定義している所であろう。

the lower limit of human hearing (about 16 or 17 hertz) down to 0.001 hertz

“人間の聴力の低い方の限界(1617Hz)以下0.001Hz

私は英語では超低周波音はinfrasoundと言う事を随分長い間知らずにいて、自分で自分に恥を掻いたので逆恨み的に“恨み”が有るのだが、infraと言う後の持つ意味は「下に、下位に」と言う意味あいで、日本語の赤外線(infraredが持つような「範囲外」というような意味あいとは少しずれる。ただし、赤外線は可視光線の波長が長い赤の外にあるので、低周波音=長波=周波数が長い、とすれば私が言うのは単なるイチャモンなのだが。

しかし、infraはむしろ日本語の「インフラ」の語源であろうinfrastructureが持つ「下部構造・組織、基盤」とか、「国家、社会などの存続に欠かせない上下水道・道路・学校・運輸機関・通信機関・金融機関など」の意味あいを持つと考えると、超低周波音なるモノは聞こえる聞こえないは関係なく音と言うモノにとって必要不可欠のモノであることが解るのではなかろうか。

 ※Infrasound http://en.wikipedia.org/wiki/Infrasound

実際に15Hz22050Hzの音が聞けるサイトがあるので興味のある人は確認してみてほしい。ただし、普通のパソコンのスピーカーでは聞こえない。ヘッドホンが必要である。※

「いろいろな周波数(可聴周波数などの実験)


 4−6. 脳の音の感知

さて、何度目かの、話しがずれてしまったが、蝸牛内の振動はコルチ器のうちの内有毛細胞の不動毛を変形させ、(イオンチャンネルを開かせ)細胞を電気的に興奮させ、内耳神経へと伝達される。

内耳神経に伝達された神経興奮は背側と腹側の蝸牛神経核を経て、ほとんどは対側の(一部同側の)上オリーブ核に中継され、外側毛帯、下丘、内側膝状体を経て大脳の聴覚皮質に伝達される。

 ここらは我ながらよく解らない。

その大脳皮質だが、その部位によって役割や働きを分担しあっており、これを機能局在と言い、言語野、視覚野、聴覚野などの呼び名は、このような機能を元に分類された、大脳皮質の「部位」を表したものである。

詳しくは、ブロードマンBrodmannの脳地図というのがある。これは20世紀初頭にドイツの解剖学者ブロードマンが提唱した大脳皮質の区分地図のことで、大脳皮質を顕微鏡で調べ上げた、構造的、形態学的解析による結果の成果で彼の研究成果は、20世紀後半の生理学や解剖学から見ても基本的には正しいことが明らかになっており、脳生理学的な解析による区分の表現にも都合が良いので、現在でもよく用いられている。

ブロードマンの脳地図では第1野から52野まで番号が付けられているが、4851野が欠けているため実際には48領域となっている。

図のブロードマン地図は、私にも最初、横から見たモノだろうくらいは解ったが、どちらが前なのかチョット自信がなかったが、詳しくは「ヒトの大脳半球の上外側面で、左の大脳半球を外側から見たもので、図の左が前、右が後ろ、上は起立した状態の上、下は起立した状態の下になる。」と言うことで、要は、自分の脳を左側の方から見たモノと思えばいい訳で、図の左下の方に目、鼻、口などの顔があると思えばいい。

音を認識するのは大脳皮質の部位の、一次聴覚野と呼ばれる側頭葉の横側頭回(側頭葉の根元の外側溝側の部位)に位置する、図の41,42一次聴覚野に極在していると言う。また、初期聴覚野では蝸牛の基底膜における周波数配列に対応して相対的位置関係が再現されており、トノトピーと呼ばれ、ピアノの鍵盤のように並んでいる。

ちなみに、一次視覚野の第17野は、図の右端、後頭葉の鳥距溝の所に位置しているが、視覚連合野に接している。目から入った情報を可能な限り、焦点距離を長くするなどの働きがあるそうで、本当に脳は良くできていると思わざるを得ない。

聴覚

sound 音の知識

初期聴覚中枢系の神経細胞レベルでの時間情報処理機構に関する研究 伊藤一仁

 池谷裕二のホームページ
 


4−7.記憶の仕組み

この後、もう少しゴチャゴチャした部分があるのだが、そこは難しいので飛ばして、では、こうして脳が認識した音の情報は、如何にして人間の記憶に残るのであろうか。脳の記憶の仕組みは音に限ったモノではないのだが、超簡単、超適当におさらいしてみる。

脳の記憶の仕組みという様なダイナミック(動的)な活動は、生きている人間の頭蓋骨を硝子張りにして、脳の活動を外から観察したり、むき出しにして観察できるわけではないので、そうそう簡単に解剖学的には解明できない。

頭の良くなる系講座」と言う、多分私のような超初心者のためにも解るように書かれたサイト(※)を参考に、さらに自分で自分に説明する目的で少し書き直してみたのだが、元々、サイトにも「脳の働きは解明されていないから、正しい保証はないんだけど・・・。それでもいいなら読んでみてください」と断り書きがあるくらいで、お言葉をそのまま頂く。

記憶にとても深く関係している脳の部位に「海馬」(かいば)というのが有る。海馬も最近では結構有名になっているが、私なんぞ最初は漢字を知ったので、海にいる「トド」かと思っていた。因みにトドは漢字では「海馬」と書く。ついでに今では有名になった「トラウマ」は最初に音だけを聞いて「虎馬」で「馬鹿」の親戚くらいに思っていたくらいだからおよそ知るべしである。

で、海馬は大脳皮質・側頭葉の内側にあり側脳室下角底部に突出した大脳辺縁系の一部。左右に一対ずつ存在し、ヒトでは直径一センチ、長さも五センチほどの器官である。場所は右図(首の下の方から見た)の赤い部分。

@新しい情報は、ひとまず、海馬にある[要素に反応する神経細胞](何とも長い語である。短縮好きな日本人。専門家よ、もっと短くて適当な語を考えろ。)を中心に電気が流れ続け、短期記憶となる。

A海馬にある[要素に反応する神経細胞]に何度も電気が通ると、レセプター(受容体、receptor)という、生物の体にあって、外界や体内からの何らかの刺激を受け取り、情報として利用できるように変換する仕組みを持った構造が増えたり、神経伝達物質量が増えたりする。その結果、海馬に流れる電気が長期にわたり強く継続するようになる。これをLTP Long Term Potentiation長期増強)と言う。

Bしかし、海馬にある[要素に反応する神経細胞]に電気が通らないでいると、電気はいずれ消失し、レセプターや神経伝達物質量もやがて元通りになり、記憶は忘れてしまう。

C一方、強いLTPが発生したり、繰り返されたりすると、海馬にある[要素に反応する神経細胞]を中心にシナプス(くどく言うと「神経細胞間あるいは筋線維、ないし神経細胞と他種細胞間に形成される、シグナル伝達などの神経活動に関わる接合部位とその構造」と言うことになるが、余計解りにくくなるのでひとまずは神経と神経を結ぶようなモノ)が伸び、形成された神経回路は、小容量で可塑性の高い(形が変わり易い)海馬から大容量で、可塑性の低い大脳皮質を中心とした脳の各箇所へ移動(転写)される。コンピュータに例えると、海馬はメモリー、大脳皮質はハード・ディスクと言った所でしょうか。

D海馬に情報は残らず、大脳皮質の側頭葉を中心とした部分に古い神経回路が形成され、一生覚えている情報となる

Eこれに要する期間は半年から2年程度と言われている。

と言うことなのだが、特に神経回路の形成に関しては、日本神経回路学会等と言うところでもただ今研究中の様で、回路形成に要する期間に関しても、他に具体的な記述を見つけることができなかった。

簡単に言えば、強烈な印象が有った場合や何度も繰り返した場合は、しっかりと記憶として残るが、放っておくと忘れてしまうと言うことですね。もの凄く印象に残るような嬉しかったことや悲しかった事は良く覚えているし、何度もやったことも良く覚えていると言う極々当たり前の常識的なことなのでしょう。前者の悪い方がトラウマと言うことでしょうか。良い方は何というのでしょうか? 後者はお勉強は繰り返し何度もしなさいという考えの基礎でしょう。

121104,070601


 ※iPS細胞から耳有毛細胞再生 難聴原因、マウスで成功

 空気中を伝わってくる音が、我々に音として聞こえるには、空気の振動→液体の流れ→基底膜の振動→有毛細胞の変形→イオンの変化→電気的信号→脳が認識と言う経過を辿る。この音の伝達経路のうち、蝸牛で音を神経へ伝える役目をするのが有毛細胞だが、この細胞が損傷すると、難聴や失聴になる。この有毛細胞の代役をしているのが人工内耳である。

 低周波音に長期に曝されているとこれらの細胞の毛の部分が「カミソリの刃で切ったように」スパッと切れてしまうと言う。そのため低周波音被害者は難聴、失聴となる。
 これまでこの細胞の再生は困難とされていたが、10/05/14のニュースでは「音の聞き取りに重要な耳の有毛細胞を、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作ることに、マウスで成功した。」したという話である。

 音の聞き取りに重要な耳の有毛細胞を、人工多能性幹細胞(iPS細胞)から作ることに、米スタンフォード大の大島一男講師らがマウスで成功した。マウスでも耳や目など感覚器に関連する細胞を作るのは難しかった。有毛細胞の損傷は難聴の一因だが、再生しないために治療が難しく、再生技術のヒトへの応用が期待される。

 音は鼓膜などを通じて渦巻きの形をした内耳の蝸牛(かぎゅう)という器官に伝わり、そのなかの有毛細胞によって電気信号に変換され、神経細胞を通じて脳に届く。加齢や騒音、薬の副作用によって有毛細胞が傷つくことで聴覚障害やバランス感覚の障害が起こる。

 大島さんらは、マウスの皮膚の細胞に四つの遺伝子を入れて作ったiPS細胞に、特殊なたんぱく質を加えて内耳の組織のもとになる細胞を作った。さらに別の種類の細胞と一緒に培養するなどして有毛細胞を作ることに成功した。有毛細胞に特徴的に見られる遺伝子が働いていたほか、できた細胞は振動の刺激に反応して、神経細胞に情報を伝える電流も発生したことが確認できたという。

 大島さんらはヒトのiPS細胞でも研究を進めており、「難聴の治療だけでなく、細胞が再生するメカニズムの解明や再生を促す薬剤の発見にも役立てたい」という。

 14日付の米科学誌「セル」に発表する。

 京都大の伊藤壽一教授は「ヒトのiPS細胞で作れるかが課題だが、マウスでも有毛細胞のような感覚器の細胞を作ることは非常に難しく、高く評価できる」と話した。(福島慎吾)
 http://www.asahi.com/science/update/0514/TKY201005130563.html

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