本文へジャンプホームページ タイトル
随想
           
自動車事故(平成18年1月6日脱稿)
 
   去る平成17年12月6日(火)に荊妻のコルサが東新町交差点(トヨタ自動車元町工場北西角)の赤信号で停車中に、中年女性の軽乗用車(三菱)に追突されて押し出され、前の車(これも三菱の軽)に追突した。
   
   余談だが、三菱の軽自動車が全国の自動車に占める割合が3%と仮定すると、走行車の前後に同車が存在する確率は0.1%以下になるので、大変珍しい現象に遭遇したことになる。
上に戻る
はじめに
   
   荊妻のコルサは平成7年2月の登録。中古車として購入したので車検は平成18年5月まで、走行距離は7万km余りだった。
   
   コルサは前後が中破したものの、前後の三菱の軽自動車は殆ど無傷だったのに驚く。自動車ボデーの設計者は、如何にして車室の変形を防いで乗員を保護するのかに最大の努力を払っている。そのための最大の武器は40年前くらいから実用化が始まった有限要素法である。そのために一流の大手自動車各社は、世界最大級のスーパーコンピュータを駆使しての構造解析に鎬を削っている。
   
   トヨタ車はその結果として、衝突時の運動のエネルギーを車体の弾塑性変形で吸収するように進化してきた。つまり車室の周辺は潰れ易いのだ。研究開発費が乏しいのか、技術の蓄積が不足しているのか、三菱車の前時代的な設計技術が図らずも、我が目前で暴露されてしまった。
   
   電話で荊妻に呼び出された私は10分後、二輪車で急行した警察署員達よりも現場に早く到着した。加害者に
   
   『この事故は貴女に100%の責任があると判断しますが、同意しますか?』
   『勿論、同意します』
『私は車の修理代金を支払っていただければ十分です。但し、荊妻は昨年夏ペースメーカーの埋め込み手術をした結果、身体障害者1級になりました。事故による体への影響は解りませんから病院で検査を受け、経過観察の結果として、人身事故の手続きはいたします。異議はありませんか?』
   『異議はありません。修理代など全ての費用は保険で支払います』
   『貴女の希望される修理工場がありますか?』
   『ありません』
   『それでは、此処から100m地点にある、私の行きつけで且つ豊田市では一番大きい車の整備業者、しかもトヨタ自動車の協力工場でもある新明工業の広久手工場で修理をします』
   『私の車の後についてきてください』
上に戻る
新明工業にて
 
  フロントマンに

   『修理期間中、代車を借りたいのですが・・・』
『代車は出払っていて、12月10日の土曜日までありません。しかし、事故の場合は、事故車と同等レベルのレンタカーが借りられますよ』

と教えてくれた。

   早速、トヨタレンタリース名古屋と連絡がつき、加害者も納得の上で配車を申し込んだら、即日自宅にレンタカー『ヴィッツ』が届けられた。カーナビつきのピカピカの車だった。

   フロントで全ての手続きを終えたので、荊妻と共に帰宅した。新明工業での手続きが一部残っていた加害者とは、同社のフロントで別れた。

   私も加害者もこれで全ての手続きは完了したものと信じ込んでいた・・・。ところが自動車の任意保険の運用には、私も加害者も知らなかった予期せぬ習慣があったのだ。今回、その体験を賢人各位(多くの方々は、ご存知だったのかもしれないが・・・)にもご参考になると思い、顛末記として纏めた。

   尚、加害者夫妻が事故の翌日だったか(?)菓子折り持参で拙宅に来られ、玄関先で荊妻に詫びて帰られた。私は在宅していたが、酒も飲んでいたので失礼にもなるし、格別の理由もなかったので会わなかった。
 上に戻る
示談屋からの予期せぬ電話
 
  事故から2週間くらいも経った19日(?)、示談屋(保険会社の下請け)から荊妻に電話が突然掛かってきた。
   
   『新明工業の見積もりは53万円ですが、コルサの時価額は15万円です。保険会社としての支払額は15万円です』といっているらしい。荊妻と電話を代わった私は
   
   『私には保険会社とは何の関係もありません。加害者は修理代金の支払いを約束しています。加害者が保険に入っているか否かとか、加入している保険の中身には何の関係もありません。修理代金と保険金の差額は加害者が払う問題です。示談屋としての仕事は加害者と相談することにありますね。
   
   加害者との約束事項を被害者の了解もなく破棄し、被害者に電話で支払条件を一方的に通告するとは無礼千万! そちらに何か言い分があるのならば、少なくとも来宅し、対面して説明するのが筋ではありませんか?』と言って、電話を切った。
           上に戻る
示談屋の来宅

   示談屋は電話で連絡してきた内容を拙宅でも復唱した。私とは議論がすれ違ったので、別の質問をした。

   『修理代は時価額までと、保険の約款の何処に書いてありますか?』
   『・・・・・・・・』
『コルサの修理はしなくとも良い。コルサが15万円と言うのならば、現在の車と同等の車を探してきてください。日本中の中古車市場には該当車が無数にある筈だ。その車と事故車とを交換します』
   『それは出来ません』というだけではなく、
   『レンタカーを返してください』といい始めた。
   
   怒り心頭に発したので、『車の修理が終わらない限り、レンタカーは返さない』
と言って、とうとう示談屋を追い返した。

   後日、社印も押されていない12月22日付けの、下記の書類が郵送されてきた。これでも示談屋にとっては公文書のつもりらしい。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

前文は省略。

記(示談内容)

@ 車両損害 15万円(時価額を限度に賠償させていただきます)
A 代車

   今回の損傷の修理期間は通常2週間です。修理されるのであれば1月11日までは当社負担とし、1月11日でレンタカーを引き揚げさせていただきます。
   修理されないのであれば、1月5日までは当社負担とし、1月5日でレンタカーを引き揚げさせていただきます。仮に12月26日にレンタカーを返却いただければ、1月5日までの料金相当額を車両保険に加算して石松様にお支払いします。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
   
   腹立たしかったので、加害者に電話したら加害者のご主人が出てきたので、上記の書類を読み上げた。そのあと
   
   『私の要求は車の修理です。奥様も承知しています。不足金額は加害者と保険会社とが負担するべき問題と理解しています。示談屋に一任するだけではなく、ちゃんと話し合ってください』と言って、電話を切った。
   
                               上に戻る
修理代の確認
 
  我が予想に比べ修理の見積もりが過大に感じたので、新明工業からFAXで見積書を取り寄せた。A4で2ページに渡り部品名が列挙され、修理や取替えなどの作業内容の詳細が書かれ、見積もり金額は合計530,200円と示されていた。
   
   フロントマンに『コルサは古い車だから、修理内容としては安全に運転できれば充分です。加害者の負担を軽くしたいため、もっと安価な修理法を提案してください』との希望を伝えたら、FAXで下記の内容が再送されてきた。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

   修理内容は先ほどFAXした見積もり分が殆ど必要なもので、省ける所は少ないと思われます。(フロント側はしっかり直さないと、ボンネットがうまく閉まらない。ヘッドライトが真っ直ぐ照らさない等。リア側はトランクがうまく閉まらない。トランク内に雨水が入ってくる等の不具合が出る恐れがあります)

   中古部品がうまく全部見つかれば修理代を抑えることが出来ますが、それでも40万円前後は掛かると思います。

   中古部品を探すのは時間が掛かる(日曜日は部品店が休み)ため、12/26までには中古部品の返事は出せません。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

   これでは、12/26日にレンタカーを返却すべきか否かの判断をしたくとも、間に合わなくなった。
                               上に戻る
他の修理屋と相談

@ 知人

   保険の代理店を経営している長女の婿の義弟に相談するべく、長女の義母に連絡先を聞いたら、共同経営者と仕事仲間の二人の弁護士と一緒に八ヶ岳に登山中だった。携帯に電話するのは貴重な余暇を楽しんでいる人たちに失礼になるので遠慮して、26日(月)朝、勤務先に電話。
   
   『私の代理人になって、示談屋と交渉していただけませんか?』
『石松さんに落ち度のない場合の代理人には、弁護士以外はなれません。弁護士の資格を持つ国会議員の秘書が、弁護士の代理で働いて逮捕されたのと同じ問題です。

加害者の示談屋の主張は妥当なものです。修理代金の上限は時価額までとの裁判所の判例がありますから、裁判で争っても無駄です。似たような中古車を買って保険屋に支払わせることをお勧めします』

A アメリカンホーム

   コルサの任意保険を掛けているアメリカンホームに相談したら、上記の知人と全く同じ回答だった。

B 結論

   判例が出された背景にやっと気付いた。ポンコツ車を買ってスタントマンもどきの運転をして事故を意図的に起こし、修理代金を保険会社に請求する犯罪の防止策にもなるような判断を、裁判所(裁判官)としては下さざるを得なかったのだ。

   この時点で、私の採るべき対策は確定した。修理する代わりに中古車を探せばよいのだ。
  上に戻る
中古車探し

@ ルート(コルサを買った中古車屋)

電話で経緯を旧知のルートの**さんに説明したら、下記の回答を得た。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

   業者は年末休暇に入っているため、示談屋が示した期限である1月11日を目処に下記の条件で該当車を探します。

   価格=20〜25万円
   登録年=平成7〜10年
   走行距離=8〜10万km

   中古車を買っていただいた場合、事故車の廃車処理も引き受けますが、16800円が別途かかります。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

   示談屋に上記の依頼事項を伝えたうえで『中古車が見つかるまで、レンタカーは返さない。あなたからもルートの**さんに電話して、車探しを急がせて下さい』
   
   折り返し示談屋から電話が来た。
   
『廃車手続きは私どもの取引先にさせてください。廃車処理費用は私どもで負担します』
   『異議ありません』
   
A インターネットでの車探し

   インターネットで中古車業者を検索したら、『ガリバー』が直ぐに見つかった。欲しい車の条件を書き込んで送信したら、名古屋大森インター店から電話が直ぐに掛かってきた。

『本日午後20時に営業マンをご自宅に伺わせます。ご都合はいかがですか?』
『待っています』

定刻に現れた営業マンに質問を連発。

『コルサの時価額15万円は妥当ですか?』
『妥当です。但しこの価格は業者間の取引価格です。中古車屋が売り出すときは、車の点検整備や登録手続きなどの経費だけではなく、利益も加算しますから30万円くらいになります。ガリバーは海外進出も果たしている大手なので経費が高くなります』
『お薦めの車は?』
『ターセル。平成7年型。車検は平成18年6月29日。走行距離37000km。30万円』
『走行距離などは当てにならないが、品質が心配だ。貴方はその車を見たことがあるのですか?』
『2ヶ月前からお客様への代車として使っています』
『それならば、安心だ。異常個所があれば既に出尽くしているはずだから。でも30万円ならば無意味だ。ルートの目標値段よりも高い!』

携帯で暫く上司と連絡をとった後、営業マンは会社からの指示を待った。

『25万円でいかがですか?』
『ルートだって約束の上限値25万円で提案するはずがない。少しは安くするのが商売のコツと言うものだ。25万円ならば先に申し込んでいるルートから買うのが礼儀だ。

示談屋の提案価格は20万円(15万円+未使用期間10日分のレンタカー代を5万円と推定した)だが、1割高い22万円ならば買う。示談屋が拒否した場合には、超過分の2万円は加害者に払ってもらう積もりだ。加害者は何の努力もしていないから、これくらいの金額を自己負担するのは当然のことだ。私の値引き交渉の目的は私のためではなく、加害者側の負担を少しだけでも少なくするためだ。』

営業マンが上司と再度連絡をした後、30分後に返事が来た。社内での検討に時間が掛かったようだ。

『22万円にします』。
『車は何時引き渡される?』
『遅くとも1月13日』
『代車は何時持ってくる?』
『明日から会社は休みなので、1月3日の午前中になります』
『それで充分だ。でも今日は仮契約だ。示談屋と相談後に最終返事をする』と言って帰社させた。たったの8万円の値引き交渉に、多重がんで残り少なくなった我が貴重な余生の中から、何と100分間も浪費させられたのだ!
                               上に戻る
示談成立

   30日早朝、示談屋に

『これこれの車をガリバーから買いたい。ルートへの依頼は断って欲しい。ルートはまだ実質的な仕事はしていないから、実損は発生していない。貴方が電話した後、私からも経緯を説明してお詫びするから』といったら、承諾してくれ、レンタカーは30日午後5時に返却することになった。更に追加して、

『話の行き違いを避けるため、加害者と一緒に拙宅にお越しいただきたい。示談条件を再確認した後で、示談書にサインしたい』と提案した。
  
   結局、1月6日午後17時に三者が拙宅で会うことになった。レンタカーの費用を質問すると『10万円+消費税』に値切ったそうだ。
  
   荊妻は1/4には車庫証明の取得に必要な印鑑証明も取り寄せ、ガリバーに受取人払い(520円)で送付した。ガリバーの営業マンの説明では、保険会社からの入金があり次第、登録手続きをするそうだ。私には印鑑証明の手数料まで加害者に請求する気は全くない。
  
                               上に戻る
残された課題

   荊妻は現在通院中だ。人身事故に関する示談は車両の損害賠償とは切り離し、医師から完治のご託宣が出たあとで、示談屋と別途相談する予定だ。
   
   人身事故に関しては、コルサに掛けているアメリカンホームからもお見舞金が出るそうだ。手続き書類は既に入手済みだ。
                               上に戻る
おわりに

   代表的な身近な保険には、生命保険・火災保険・損害保険がある。これらの約款の全てを読んでいる人は殆どいないことをいいことに、保険屋は庶民相手に品位を欠く勝手な商売をするようだ。
   
   明治安田生命保険が保険金の支払い拒否で社会問題になった。保険の勧誘をするときと、保険金の支払いのときとで条件をすり替えていたからだ。
   
   火災保険にも可笑しな習慣があった。私は日動火災と愛知労災の火災保険に加入している。今までに小火(ぼや)1件、落雷によるパソコンの被害を2回体験した。共に業者に見積書を提出させ、保険会社に請求したら、2社共に見積り額を無条件で支払ってくれた。両者ともお互いに二重払いになっていることは承知の上だ。ほんの小額だったが、文字通りの焼け太りだった。
   
   一方、1000万円の掘建て小屋に、3000万円の火災保険金を掛けていて全焼した場合は、3000万円が支払われないどころか、1000万円すらも支払われない。(1000/3000)*1000=333.3万円になると聞いたことがある(真偽は未確認)。実物価値と異なる金額の違法な保険契約をした場合にはペナルティがつくらしい。こちらも火災保険狙いの放火犯対策か?

   自動車保険に今回のような慣習があったとは、不幸にして私は知らなかった。我がゴルフやテニスのスポーツ仲間にも知らない人が多かった。保険屋は勧誘時点でこの種の条件は明確に説明すべきだ。
  
   賢人各位! くれぐれもご用心あれ!
                               上に戻る
蛇足

平成18年1月6日
賢人各位。

   昨年12/6に荊妻が自動車事故に遭遇。修理の見積もり金額約53万円に対し、保険会社は車の時価額15万円が支払い上限と電話で一方的に連絡してきた。

   差額の38万円は加害者が当然負担すべきものと思ったが、そうは問屋が卸さなかった。

   交渉の結果、添付の顛末記のように、新規に購入した中古車代金(登録のための諸費用込み)+レンタカー代+廃車費用の合計金額(34.18万円)を保険会社が負担すると約束した。荊妻は印鑑証明書2通分の発行手数料300円を負担した。加害者は事故日の翌日と昨日来宅した折に持参した菓子折り2個の購入費を負担した。

   私は加害者の夫と示談屋(共に50歳代?)を昨日(1/6)夕方、自宅に呼びつけ、添付の顛末記の全文を、恰も裁判官が判決文を被告に向かって読み上げるがごとく、朗々と読み上げた。その間、二人は薄い絨毯の上に正座してうなだれつつ無言で聞いていた。

『何か言い分はありませんか? 私に誤解事項はありませんか? この顛末記は私のメール仲間300余名に発信しますが、訂正すべき箇所はありませんか?』
   『一言一句、全くありません。申し訳ありませんでした』

と言って、深々と頭を下げた。

   自覚症状が軽微な人身障害(首が凝るらしい)に関しては、通院完了後に示談手続きをすることになった。

   賢人各位、私の対応は妥当だったのでしょうか?

   貴重なご意見を賜れば、望外の喜びです。




                               上に戻る