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随想
           
太陽(平成14年8月14日脱稿)

  ある時『太陽の平均発熱量は、六畳間に豆電球を1個点けた割合に等しい』とのコラムを目にした。

    私には信じがたい数値だったが、念のためにとデータをチェックしたら、正しい解説と判り、改めて驚愕した。人間(私)の直感、先入観の間違いに驚いた。
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太陽の発熱密度
    
   その後、日本を代表できる知識人であるはずの賢人達数人にクイズ形式『太陽1立方メートル当たりの平均発熱量は毎時何Kcal?』で、この問題に関する直感からの回答を口頭で求めたら、正解とはかけ離れた数値に終始した。

   そこで今回、つれづれなるままに1974年の理科年表からデータを抜粋し、電卓で再計算したものの、どこかに計算間違いが含まれていないでしょうか?。賢人各位のご検証を賜れば、望外の喜びです。計算式中の演算子**はべきを表す。

@ 天文単位距離=1.496億km
A 太陽の半径=696000km
B 太陽の比重=1.41
C 太陽の総輻射量=3.90*10**33エルグ/秒
D 太陽定数=1.95cal/平方cm/分=1.36Kw/平方m
E 太陽の質量=1.99*10**33g
F 1w=10**7エルグ/秒

   B、C、E、Fから太陽1立方メートル当たりの発熱量(Xワット)は

   X=(10**6*1.41g)(3.9/1.99)/10**7
    =0.2763316ワット/立方メートル

   六畳間の標準体積は10平方メートル*2.4m=24立方メートル。従って六畳間と同じ体積の太陽の発熱量(Y)は

   Y=24*X=6.63ワット!

   検算のために@、A、DからXを求めると、X=0.270829ワットとなる。私が読んだコラム氏の発見は正しかったのだ!。
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余談その1
 
  体重54Kgの私の比重を1、一日に食料と酒とで2000Kカロリー摂取していると仮定し、私の平均発熱量(Z)をワットで表すと

   Z=2000/(24*3.6)/0.24
    =96.45ワット/石松

   1立方メートルの体積に私と同じ発熱密度の人間を詰め込んだときの発熱量をAとすればA=Z*18.52人=1786ワット。人間の体積1立方メートル当たりの発熱量と太陽とを比較すると、A/X=6467倍となる。

   何と、人間は太陽よりも約6500倍も体積発熱量が大きいのであった。この数値は一日の平均なので、起きている場合は優に一万倍以上にもなりそうだ。
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余談その2

   太陽は核融合反応で発熱しているとの幼稚な知識が災いして、水爆の爆発時に発生する火の玉の写真と太陽の輝きとが頭の中で重なり、かつは太陽の表面温度が6000°K、中心部の温度は1500万°K(小学生の頃、中心温度は3000万°Kと習ったが、手元の理科年表ではその半分だった)とのへぼ知識が加算され、知らず知らずの間に、太陽の発熱密度は地上では観察できないほどの大きさだ、との錯覚が発生していた。

   しかし、別の視点から検討すると、直感に近づく解釈もできることに気付く。日本の総消費エネルギーを石油換算で年間5億トン、石油1Kgの発熱量を1万Kカロリーと仮定し、それだけの熱量を輻射する太陽の表面積(S)を計算すると次のようになる。

日本の消費エネルギー=5*10**15Kcal/(365*24*860)
=6.6億Kw(注。電気出力130万Kwクラスの原子力発電機165基に必要な熱量に相当する)
          
   S=6.6億Kw/1.36Kw/(14960/69.6)**2
    =10500平方メートル          
          
   つまり、太陽の表面積で言えば、たったの約一町歩から輻射されているエネルギーと、日本の年間消費エネルギーは等しいのであった。これならば直感との違和感が無くなる。尚、これだけの発熱には直径約16.6Kmのミニ太陽が必要になる。(注。単なる数値計算に過ぎず、この大きさの恒星は、勿論存在し得ない)
   
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余談その3
 
  核融合が発生するためには高温と高プラズマ密度の持続が必要なので、温度が低い太陽の表面近くでは核融合は、勿論起きない。手元の理科年表によれば、太陽熱の80%は太陽の直径の僅か1/7の中心部(体積では0.27%、温度1130万〜1570万°K、密度59〜158)の球内で発生し、時間を掛けて表面まで伝熱している。

   天文学ではしばしば超新星の発見が話題になる。超新星の明るさは太陽の何億倍にも達するとの観測結果も得られている。私は長い間、太陽の何億倍もの明るさに実感が湧かなかった。ところが下記のように検証すると、それは大して驚くには当たらない現象だったと納得した。

   先月、築28年経過した我が家のリフォーム(水回りのみ)を実施。瞬間湯沸かし型の灯油給湯器の仕様書を見たら、熱交換機の体積は僅か600ccで46.5Kwの給湯能力があるとの記述。この熱交換機1立方メートル当たりの給湯能力は比例計算で77500Kwになる。上記で計算した太陽の0.276wと比べると、何と2.7億倍もの値だ。

   超新星の発熱量は灯油の燃焼現象と同じレベルと仮定しても、太陽の数億倍にも達するのだ。況や、核融合の連鎖反応による爆発現象とも言われる超新星の誕生に伴う発熱量が、数千億個の恒星から構成される標準サイズの銀河1個分の明るさに達する場合があるとの説も想像に難くない。我が誤解の出発点は、いつに掛かって太陽の発熱密度に関する素朴な錯覚に由来していたのであった。
   
   各位のご感想を心待ちにしています。8月末までの返信を纏めて、おん礼としていつものように発信させていただきます。   
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