@ 我が希望
40歳くらいの副住職が会ってくれた。住職は脳梗塞とのことで、長男の副住職が実質的な責任者のようだ。
『私は多重がん患者なので、余命幾ばくも無いと覚悟している。妻子に迷惑は掛けたくないので、生きている間に何処かの檀家になり墓地を買い、墓石も準備したい。しかし、福岡県出身の私には当地のお寺の事情が分からない。
最近、過疎地では廃業するお寺が多いので、潰れそうにないお寺の檀家になりたい。洞泉寺は先輩・知人・友人の葬儀で何度かお参りに来た事がある。境内も広いし本堂も大きいので当分の間は潰れないのではないか、と思って相談に来た。
檀家になるためにはどんな条件があるのですか? 檀家になった後にどんな義務が発生するのですか? 墓地は売ってくれますか? 葬儀では本堂が使えますか? 住職が考えてくれる戒名は意味を理解するのが難しいので、自分で考えましたが使っていただけるでしょうか? 細々と生きている年金生活者ですから余り高価になるようならば、他のお寺を探します』
A 洞泉寺
洞泉寺は浄土宗の総本山『智恩院』に直末し、13の末寺を持ち、700年の歴史がある。駐車場はあちこち合わせて500台。年間お参り客は4万人。檀家数は1300軒。我が推定では、境内の面積は優に1万坪はある。
『寺子屋人生熟』を開き、多くの有名人の講演会も主宰するなど、ユニークな経営活動を積極的に推進している。
ご関心があれば、下記のホームページをご参照されたい。
http://www.tosenji.or.jp/t/t_gaiyo.html
『檀家にしていただけますか?』
『檀家にするかどうかは精査の結果、決めさせていただきます』
『檀家になると、どんな義務が発生しますか?』
『金銭的な義務は全くありません。本堂庫裡は浄土宗開宗八百年記念事業として昭和46年に鉄筋コンクリート造りで再建したので、近い将来大きな金銭的な支出は予定していません。
古い木造のお寺の場合、改築で50〜100万円のご負担を各檀家にお願いしている所もあるが、その点は心配無用です』
結構プライドも高いお寺に感じた。友人達に聞くと、豊田市では一番大きなお寺らしい。
『統計では檀家総数の4%もの葬儀が毎年あるそうですが、概算50回もの葬儀とそれに続く法事がこなせるのですか?』
『大丈夫です。洞泉寺にも数名の僧侶がいますし、足りない場合は末寺の協力も得られます』
B 墓地
『墓地は買えますか?』
『無縁墓が増えてきました。『何々家の墓』の場合、子供に恵まれなかったご家庭とか子供が女性ばかりでお嫁に行ってしまう場合など、『何々家』を引き継ぐご子息がいない檀家の墓は無縁墓になります。
そのため墓地の区画整理を現在進めています。業者に工事を委託していますが、業者の採算も考慮せざるを得ず、墓石を業者から買っていただくことを条件に墓地も売っています。墓石の材質は選択できます。デザインも自由です。墓石への彫刻が増えると当然のことですが高くなります。
現時点で売り出し中の墓地は2ヶ所あります。本堂の直ぐ横・駐車場の真正面にある要人用墓地と、駐車場から百メートルくらい離れた一般檀家用墓地です。全て2*2mの区画ですが、隣接する区画と一緒に2口同時に買うことも出来ます。
要人用の価格は墓石込みで概算400〜500万円/口、一般用は230〜300万円します。豊田市の公共墓地は死者がいないと買えませんが200万円くらいします。競争率も最近では7〜8倍になっています』
後日、豊田市役所の担当部署に電話で確認したら、下記の回答を得た。
『墓地の募集内容は毎年8月1日と15日発行の{広報とよた}に載せ、9月に応募者に抽選して頂いています。一度に150口位売り出しています。不足した場合は口数を追加しています。人気が高い場所は2〜3倍の競争率になることがあるものの、場所を指定しなければ全員買えます。価格は51000円/平米です』
副住職の情報とは一致しないが、隠していた『商魂』がふと口から滑り出たのだろうか? 私は積年の体験から、世の中に溢れる情報は発信者がマスコミであれ何であれ、情報発信者の視点(魂胆)と表裏一体の関係にあると考えており、真偽や意図を別の情報源も参照しながら評価する習慣だ。
墓地の案内をしていただいた。20口はありそうな要人用地には3家族の墓石があった。元トヨタ自動車副会長磯村さん、元豊田工機社長(元トヨタ自動車取締役)湯野川さん。共に2口に跨る大きくて立派な墓だった。3個目は1口タイプの鈴木家、私の知らない方だった。
他の場所(東面傾斜地で見晴らしが抜群)には元トヨタ自動車副社長佐々木さん(生存中)の『佐々木家の墓』もあった。こちらも2口タイプだった。佐々木さんが墓を買われた時には、要人用の墓地が整備されていなかったのではないかと推定した。
何百とある墓の中で2口タイプは大変少なく、数パーセント未満だった。
一角には奇妙な形状の墓石が30基以上もあった。聞けば、歴代住職の墓なのだそうだ。別の所には尼僧の墓石群もあった。
C 永代供養墓(納骨堂方式)
独身者や子供のいない方、遠方へ移転された方など、墓地+墓石を希望しない方々のために永代供養も受け付けている。1人につき50万円。
本堂の横に建てられた高さ3mの石板(永代供養誌)に、戒名と俗名及び命日を書いた黒板を取り付け、遺骨は納骨堂に安置。本堂には1人ずつ観音様(高さ35cm位だった)の背面に戒名と俗名を、台座の正面には住所と俗名を書き、本堂の壁面に安置。未だ2〜3000人分の収容力があるそうだ。
D 葬儀の場所
『私は民間の葬儀用の典礼会館で菊の花に囲まれての葬儀よりも、本堂の仏像の前での葬儀を希望したいのですが、可能ですか? 私は郷里が遠いので福岡県からの参列者は少ないと思いますが、メール仲間が250名くらい(その内数として、日頃お付き合いしているゴルフやテニスの仲間が70人くらい)、3人の子供達が全員近くにいることを考慮すると、参列者の総数は200〜300人と予想しています』
『私も本堂での葬儀が本来の姿と思います。本堂には冷暖房も完備しています。場所代+僧侶の人件費+棺桶代+霊柩車代などで、平均値としては250万円くらいになります。それ以外に香典返し(通常2〜3000円/人)など葬儀社への支払いが必要です。僧侶の人数も指定できます。葬儀の形式については弁護士を介した生前契約も出来ます。その際はご本人が亡くなられたら、洞泉寺に最初の電話を入れるのが条件です。
お通夜の仮眠室、葬儀や法事での会食室も完備しています。最大200名まで対応できます』。観光ホテルの大広間のような和室他、遺族控え室など様々な部屋へもご案内していただいた。
E 戒名
『戒名は{海外旅行**ヶ国満喫大居士}(現在は56ヶ国)と付けたいのですが・・・。旅行したい国を追加したら88ヶ国はありました。四国の霊場めぐりの数に合わせて、元気ならば実現可能な国数と予想していますが、途中で死ねばその時までの国の数です』
『戒名に「大」を通常は付けません。お寺の本堂を寄進されたような方に対して、お寺側としては何のお返しも出来ないので、戒名に大の字を使う場合があるくらいです。戒名代はお布施なので定価はありません』
後で確認したら、磯村さんも湯野川さんも戒名には『大』の字は使われていなかった。仏教2000年以上の歴史と実績に些細なことで抵抗するのはあっさりと止めて、
『ひょっとすると持参の戒名は、断られるのではないかと予想してはいました。でも全くお付き合いのなかった私の場合、私だけではなく妻子や親類筋もなるほどと納得できる的確な戒名を考えていただくには若干の自己紹介が必要な筈と予想し、この自己紹介書を持参しました。
これは偶々今年5月に46年ぶりに開かれた九大教養部時代のクラス会用に、幹事の指定した項目についてA4で6ページ以内の制約の元に、書かされたものです。(随想・同窓会に載せました)
F 仏壇
『仏壇の購入には、何か条件があるのでしょうか?』
『お仏壇は何処から買われても構いません。ご希望があれば本堂の仏具の修理を何時もお願いしている名古屋市内の仏具店をご紹介しています。その場合は一般のお客様よりも少しだけ勉強していただけます。
葬儀は終われば何も残りませんが、お仏壇は何時までも使うものです。生前でも仏壇は、お孫さんたちが立ち寄られた時に先祖への親しみを感じてくれる、生きた教材にもなります』
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