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随想 |
漏水騒動(平成17年11月10日脱稿) |
9月上旬、水道の検針員から『微量ですが漏水していますよ』との警告を受けた。水道料金は銀行振込だったので日頃は全く確認していなかった。
水道メータの一番高速で回る風車(パイロットマーク)がゆっくりと回っているのが確認できた。後で業者に聞くと、この風車は30回転で1gになるそうだ。
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はじめに |
豊田市では水道の検針は2ヶ月に一回あり『使用水量のお知らせ』と記された伝票を検針員がポストに入れてくれるものの、中部電力の検針伝票と異なり、前月とか前年同月などの使用量が記されてなく、異常に気付かなかった。預金通帳で過去に遡って確認したら5月までは異常なし、7月の検針時では平常時の2割増、9月の検針時には5割増になっていた。漏水対策直後の11月7日の検針では7割も増加していた。
我が頭には色んな数値情報が記憶されているが、関心がない情報は空のままだ。例えばトイレットペーパーとかティッシュの年間消費量、安全剃刀の刃の使用枚数(我がゴルフ仲間の1人74歳の大先輩は3ヶ月に2枚、とある時即答されたので驚愕した!)とか。水道の使用量もその類だった。
今回の漏水は築31年間で2回目になる。1回目は10年位前、水道料金の請求額が数万円になっていて気付かされた。その時は水道メータの針は高速回転していた。漏水速度が大きいと漏水箇所の発見は簡単らしい。セントラルヒーティングのボイラーへの給水管に電気的腐食(一種の電池効果)が発生し直径4mmくらいの穴が開いていた。
業者に聞くとボイラー近くでは迷走電流による水道管の電食がよく起きるそうだ。機械室の床面は鉄筋コンクリートで全面舗装していたので漏水は地表面には現われず、地下水路が自然に発生し、何処かへと流れ去っていたのだ。
今回、漏水を知らされた頃は、リフォーム工事に取り掛かっていた。漏水は微量だし面倒に感じて対策は後回しにしていた。その後暇になった10月中旬から漏水対策に取り組んだ。予期せぬ難問に出くわしたが、エンジニアの端くれとして諦めずに努力した結果、見積もり金額の何と10%未満で解決できた。
本レポートはその顛末記である。
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我が家の水道の給水口は屋内では、風呂・トイレ・洗濯機・洗面台・キッチンセットの5ヶ所。屋外では水栓柱が4ヶ所・2基のボイラー(セントラルヒーティング用と風呂などへの給湯用)及び屋上に設置したシスターンへの給水の3ヶ所。合計12ヶ所である。
@ 業者A
保存していたチラシを見て業者に電話したら、2時間後に職人が来た。この道9年のベテラン。1時間かけて11ヶ所の給水口と床下の配管を目視調査したが漏水箇所は見つからなかった。残念なことに機械室の鍵が発見できずセントラルヒーティング用のボイラーへの給水口が点検できなかった。鍵を後で探すからと言って、再度の来宅をお願いした。しかし翌日、ボイラーへの給水にも異常がないと直ぐに判明した。
『事前に漏水対策の見積もりを提出して欲しいのですが』
『作業量が見積もれないので、事前見積もりは出来ません。作業後に請求書を提出します。大きな作業の場合は事前に許可を求めます』
『漏水箇所はどのようにして見つける積もりですか?』
『過去の体験から、最初に屋内の剥き出しの配管や本管からの分岐点を調べます。水栓柱の下も掘ってよいですか?』
『どうぞ』
彼は屋内外の目視できる蛇口や配管を全部調査したが異常個所は発見できなかった。その後、レンガ張りのテラスに取り付けた芝生用の水栓柱、建物の南北2箇所にある家庭菜園用の水栓柱を選んで掘り返した結果、一箇所から漏水を発見した。
この水栓柱は今春シルバーセンターのお爺さんに増設してもらったばかりだったが、ジョイント部分から僅かに漏水していた。その修理をしたが、メータの回転速度は以前と殆ど変わらなかった。
未調査は洗車用の水栓柱だけになった。この水栓柱はコンクリートで頑丈に固定されていたので穴掘りには苦労しそうだったのか未検討。
『まだ、どこかで漏水しています。30年以上経つと埋設された水道管は老朽化しあちこちから漏れる場合があり、その場合は配管を更新することをお薦めしています』
『どれくらい費用が掛かるのですか?』
『屋内での漏水はありませんから、屋外だけでよいと思います。配管のためにコンクリートの掘削と埋め戻しが必要ですから40〜50万円は掛かりますね』
『それは高すぎる。20万円以下で引き受けてくれる業者を探すから、ここまでの費用を払いたい』
『これが作業明細書と請求書です』と言って50,000*1.05=52,500円の請求書を渡された。
『これは高すぎる。貴方は延べ半日しか働いていない。職人の日当の相場は15,000円だ』
『それでは幾らが妥当と考えているのですか?』
『2万円だ。日当が1万円、諸経費が1万円』
『職人を馬鹿にするな!』とテーブルを叩きながら、突然大声を張り上げた。
『私は、人は夫々の特技で生きていると理解している。9年もの経験があるベテラン職人を馬鹿にするなどとは考えも及ばない。しかし、世間相場を無視した請求書に対して無条件で全額を支払う気は全くない。幾らが妥当なのかは話し合いで決めるべきものだ。貴方が不満ならば、会社の責任者と話し合うから後日集金に来るように伝えて下さい』
『それならば、3万円払ってください』
『私の査定金額はあくまで2万円だ!』
『上司と相談します』と言って、屋外に出て電話した。
『消費税に相当する分、千円を加えてください』
『日本では価格は消費税込みで表示することになっている。私の査定は消費税込みだ。本心は15,000円で十分と思っているが、機械室の鍵が見つからず貴方に二度手間を掛けたこと、一部ではあるが漏水箇所を発見してくれたことに感謝して2万円にした積もりだ』
『では、2万円で結構です』
昨今悪徳リフォーム会社の摘発が続いているが、67年間も無駄飯を食べ、おまけに多重がんで苦しんだ体験からか、この種の非肉体的な闘いに尻込みするなど最近は考えたことも無い。この種の人間を世間では『擦れてしまった輩』と酷評するらしいが、他人からの評価など、私は物心ついたときから気にしたことはなかったし、今も勿論全く無い。
A 業者B
電話帳の一つ、タウンページの愛知県西三河版は1,198ページもあった。その中で運送(引越)と水道衛生工事の項だけは、見出し専用の耳がついた上質厚紙の広告を出している会社から始まっていた。2ページに跨って宣伝している会社も多く、異質の世界だ。両業界は需要が多いのだろうか? 競走が激しいのだろうか?
どの業者が良いのか、そんな情報は皆目無いので広告面積の大きい会社に電話した。この業界は何れもフリーダイヤルだ。名古屋市内の会社が多かった。
数時間後に職人が現われた。業者Aと同じように中型幌付きトラックに道具と資材を満載していた。以後の各社の職人も同じスタイルだ。早速、水道配管の状況と業者Aから得た情報を伝えた。業者Bは10年選手だった。屋内外を2時間近く調べた。新しい掘削はせず全て目視による点検だった。
『業者Aは勘所を押さえたベテランですね。私にも漏水箇所は分かりません。しかし、屋外で漏水している事は明らかです。全ての埋設管を掘り出して対策を取るのも、水道メータから屋内への入り口までの配管を新設するのも似たような費用がかかります。私達は自動車関連のJAFのような応急処理が専門です。会社名も{水の救急車}です。配管の取替え工事も引き受けますが、専門の水道工事店をお薦めします』
『私には漏水箇所は何らかの方法で特定できるのではないかと思えます。諦めるのは早いと思うので別の会社に相談します。ここまでの費用は幾らですか?』
『漏水箇所を発見できなかったので無料です』
『万一の場合は水道管を新設するので、見積書を提出してください』
後日FAXで受け取った見積もり金額は約60万円だった。
B 業者C
翌日、業者Cに調査を依頼した。Cは棒の先端にマイクがついた道具を持参した。Cと同じように屋内外の目視調査をしたが漏水箇所は見つけられなかった。次にマイクを水道の蛇口などに当てヘッドホンで漏水音を聞こうとしたが、漏水量が少なすぎるのか音は聞こえないと言う。
『1人での点検には限界があります。2人で調べる方法もあります。明日までお待ちいただけますか?』
『勿論待っています』
翌日、同僚と共に来宅。1人がアクションをとり、1人がメータの動きを見るなど連携作業を始めたが、結局漏水箇所は発見できなかった。この業者も点検料金は無料だった。屋外配管の新設工事の見積もりは約45万円だった。
C 業者D
電話帳から業者Dを呼んだ。Dもマイク持参で駆けつけてくれたが、漏水箇所は発見できなかった。点検料は無料。新設配管の見積もりを受け取る前に業者Eが解決した。
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電話帳で水道の応急処理業者を呼んでも解決しないと悟り、4年前に浄化槽を撤去し公共下水道に排水管を直結する工事を依頼したリフォーム業者に声を掛けた。電話で業者ABCDの実績を説明しながら相談した。
『幾ら掛かるか分からないから心配だ。事前見積もりをお願いしたい』
『漏水対策の事前見積もりは出来ません。出来高払いです。それが嫌ならお断りします』
水道業者は何れも漏水対策では苦労させられている様子が言外に現われている。上限は数十万円と凡その見当は付いているので、あれこれ交渉をするのは止めた。
『それでは、先ず調査だけをお願いします』
翌日早朝、責任者が職人を連れて現われた。彼らは特殊な道具を2点持参した。超高感度な音響探知機と先端の尖った金属棒だった。持参した音響探知機は高価なため普通の水道業者は持っていないとか。彼らは豊田市水道組合から借りてきたそうだ。
屋内外を一通り目視点検した後、水道メータに探知機のセンサーを当てた。音が聞こえると言う。そこから数メートル離れた洗車用の水栓柱にセンサーを当てると、音が小さくなったと言う。漏水箇所はその途中にある、と彼らは推定した。
水道管に平行して植え込みがあった。直系1cm、長さ1mの金属棒を植え込みに40cm程度突き刺しては引き上げ、棒の濡れ具合を調べている内に水がたっぷり付着する場所を発見した。『この近くだ!』
業者Aが漏水を発見した水栓柱は、水道管の埋設位置から2m高い位置にある家庭菜園内に設置していた。その間は埋設していた水道管から分岐した配管で繋いでいた。早速コンクリートを割って分岐点を掘り出した。
T字型の配管ジョイントからの漏水だった。業者Eの説明では接着剤の使用方法を間違えていたため接着個所が水圧で徐々に剥がれ始めたのだそうだ。彼らの診断はこの半年間、徐々に水道の使用量が増加してきた事実とも整合性がある。修理後にメータを確認したら、漏水はピタリと止まっていた。
『工事跡の埋め戻しは不要です。前回のシルバーに頼みます。幾らになるのでしょうか?』
『水道料金の割戻し書類と一緒に別途届けます』
僅か13,000円+消費税650円だった。人件費1万円+経費3,000円だそうだ。2人で延べ4時間は働いたので、時給は2,500円。8時間労働の職人の日当15,000円と然して変わらず満足した。おまけに業者経由の水道局への書類の提出も、経費に含まれているのか無料で引き受けてくれた。翌日シルバーセンターの大工と左官屋に来宅して貰った。
『あなた達に水道工事業者に支払った33,650円を返せとは言いません。しかし、あちこちの掘削穴を補修していただきたい。この作業も有料になるのでしょうか?』
『とんでもない。ご迷惑をお掛けしました』
翌日、業者ABCDの各職人に仔細を報告した。彼らの第一声は皆同じ。『何処から漏水していましたか?』。私は見積書を提出してくれたことへのお礼を序に言ったら、全員『お役に立てず済みませんでした』と答えた。爽やかな挨拶にホッとした。
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『がん』にしろ、『漏水』にしろ非日常性の課題に突然遭遇した時、事の重大さにもよるがそれらにどのように対応するか、人それぞれである。私はいつも自分で納得できるまで努力することに生き甲斐すらも感じている。
今回、業者任せにしていたら、乏しい年金から数十万円の無駄金を支出する羽目になっていた。ほんの一寸の努力で海外旅行一回分の費用が捻出できた。
賢人各位。肉体も持家も私や拙宅と同じように老朽化が進んでいると拝察致しますが、折々の対策は水も漏らさぬほどに万全でしょうか? |
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