民間会社の社員が発明した特許の絶対価値を評価する方法は、色いろと考えられているが、大きくは2種類に分けられる。
第1の例は、他社がその特許を購入した場合である。その場合の特許料は殆どが利益になる。その代表例を[3]に紹介した。その延長に他社の特許を侵害した場合がある。日本企業が米国企業から多額の請求を受けた例は多い。半導体の基本特許(テキサス・インスツルメント社のキルビー氏が発明した特許)、自動焦点カメラ(米国ハネウェル社の特許)などなど。支払額が数百億円になったものもある。
第2の例は自社製品に採用された場合である。この場合は発明者の取り分は、大変小さくなるのが通例である。その話題を[4]に紹介した。その場合、特許の報奨金は、その特許により会社が得たと推定される利益額に比べて、著しく小さくなるのが当然と判断している。それは何故か?我が論理は以下の通りである。
そもそも、会社の従業員は社長であれ、一般従業員であれ、与えられた職務を誠実に遂行することと引き換えに応分の給料を得ている。その成果は給料と引き換えに会社に帰属している。特許による独占利益であれ、製造現場の創意工夫に基づく原価低減であれ、設計者の工夫による材料転換の採用に基づく原価低減であれ、社長が陣頭指揮をして獲得した大型商談であれ、本質的には同じである。
会社の利益の源泉は特許とは限らない。100年の歴史を持つ自動車製造業の場合は、特許の貢献度は技術革新の最盛期にある新興ハイテク産業に比べれば比較的小さい。ロータリー・エンジンの開発ではマツダは儲かるどころか、大赤字に至った。車の売れ行きに関しては技術分野よりも、むしろ外形デザインの影響力の方が格段に大きい。しかし、デザイナーにデザイン料金を支払うことはない。
更には日産や三菱自動車の事例が示すように経営者の能力も功罪共に大変大きい。特許発明者だけに特別の報奨金を支払う論理的理由は全くない。その代わり、研究開発に失敗しても、研究費の一部を当事者に請求する習慣もない。
特許による利益を最大限獲得したいのであれば、中世の錬金技術者(歴史的には全員失敗したが、科学の進歩には大いに役立った)のように、自らリスクを負い、発明し、事業を起こして製品化して売り出すか、他社に特許を使わせて、特許料を獲得するのが筋である。
以上の自明の理由から、日米共に特許発明者に対する報奨金は大変小さい。日本企業が支払った米国企業への特許料は発明者に対するものではなく、特許の保有者である会社に対してである。それだけに保有会社は日本企業が特許違反をした直後に提訴する事はせず、十分に製品が売れた後、突如として特許侵害を持ち出してきている。収穫を最大にするためである。担当者は特許侵害の訴えが無いことで、愚かにも安心していたのだ!
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