@ 日食開始時刻の予想
日食の的確な予言は天動説が支配していたギリシア時代から存在している。ミレトス(エーゲ海に面した現在のトルコ西部)のタレースはバビロニアに残されていた日食の記録表を元に計算して、BC585年5月28日の日食を予言したことで有名だ。
日食が予言できたのは、タレースが日食は規則的に発生していることに気付いたからだ。天体運動が力学的に解明された現在では、電算機を使って1分前後の精度(直前にならないと、今でも秒単位では予測できないらしい!)で予想されるに至った。
無限に近い数の天体間で同時に働いている万有引力の相互作用の影響を連立方程式で解く事は出来ない。それどころか3個の独立な天体の運動も解析的には解けないと証明されている(三体問題と言う。詳しくは、 http://pathfind.motion.ne.jp/santai.htm )ほどだ。では、何故それほどまでに日食の予想精度は高いのか。
それは天体が持つ運動のエネルギーがその運動を攪乱させる要因に比べ、格段に大きいからである。第一宇宙速度(人工衛星の最低速度)は毎秒7.9Kmに過ぎないが、地球の平均公転速度は29.78Kmもあり、その運動のエネルギーは質量1g当たり、106Kcalもある。同じ重さの原油の何と十倍だ。地球の密度は5.52g/立法センチメートルなので、地球の運動のエネルギー(相対的に小さな自転のエネルギーは除く)は地球の体積の55倍もの原油が持つエネルギーに相当する。
私だってこのひ弱な54Kgの肉体にドラム缶3本分の原油に相当する運動のエネルギーを持ってはいるが、それを取り出す手段が無いので、文字通り宝の持ち腐れになっている。
一方、月の平均公転速度は毎秒1.023Kmに過ぎないので(これとてもジャンボジェット機の対地巡航速度よりも10%も速い。(勘違いだった。月はジャンボよりも約4倍も速い。下記の蛇足をご参照ください)、単位質量当たりの運動のエネルギーは地球の僅か0.12%に過ぎないように一見感じられるが、太陽を静止点とした場合の運動のエネルギーには地球と連動している公転分もベクトル加算されるので、地球よりもちょっぴりだが大きくなる。
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蛇足(高校時代の友人のご指摘)
「日食開始時刻の予想」:天体の動きはそれぞれの個体の持っているエネルギーが大きいので、慣性が短時間に変わることはなく、予想は易しい、との見解は納得できます。
私は現役のころ、飛行中の日出、日没会合を計算するのが、楽しみでした。例えば、ホノルル便は成田を夜に出発し、ホノルルには日中に到着します。途中で日出に会合するのですが、何時何分日の出予定とキャビンクルーにいい、1分以内の誤差で的中すると、鼻を高くしたものです。
このあとヨーロッパに旅行予定とのことですが、この季節のヨーロッパ便は成田を午後1時ころ発つと、途中のシベリア上空で日没となり、ウラル山脈を過ぎると西から日出となり、到着前に再度日没となります。西行きの場合は誤差が大きく、1分以内の精度では計算できませんが、5分以内ですと、日没・日出・日没を計算できました。
成田発(JAL401,13:00発)ロンドン行き(15:40着)です。ロンドンでの11/16の日没時刻は16:10前後ですが、偏西風が吹きまくって延着するのを期待しつつ、今から日没・日出・再日没の観察&観賞が楽しみです。成層圏から見るご来光や日没の美しさは富士山頂からとは比べ物にならないくらい荘厳で美しく、私も機内から眺めるのが大好きでした。
計算式は BASIC で作成し、カシオのポータブル・コンピューターに組込み、乗務カバンに入れて持ち歩いたものです。昔の航空士はチャートに線を引いて会合点を求めたものですが、私の計算式では、予想した会合点を挟む2点の緯度・経度と通過時間、飛行高度を Input することにより算出するものです。
3ページ4〜5行目の月の公転速度 1,023m/sec は現在のジャンボ・ジェット機の速度 33,000ft(10,000m) マッハ.84 (497kt)ですと、約4倍になります。
ああ、オーミステークス!! 単位(m/秒とKm/時)を取り違えていました。最近の飛行機では機内情報サービスの一環としてリアルタイムに時速・飛行高度・外気温度などがモニターに表示され、ジャンボの飛行速度が900Km前後になっている記憶が鮮明に残っていました。その名目数値と、ついうっかり月の公転速度の1023mとを比較してしまったのでした。
時間差3600だけではなく、Kmとmの差1000も間違えていたため、両者の名目数値が異常に接近し、一層錯覚しやすくなっていました。1023/900=1.13から、月はジャンボよりも1割速いと解釈していました。実際の速度差は正(まさ)しく貴台のご指摘 1.13*3.6=4.09 つまり月は約4倍も速いことになります。本当はコンコルド(マッハ2.2)よりも速かったのでした。
日常生活では車の平均速度は40Kmで人の歩行速度の10倍など、と言うような情報がアナログ感覚でも記憶されていますが、非日常世界では私にはこの種の間違いは度々起こしています。そんな錯覚を避けるためにも学会などへ提出する論文を初めとして、一般に公開されるレポート類を書いたときには、親しい何人もの仲間に査読を頼んでいました。今回、査読を手抜きしたばっかりに、とんだ過ちを犯しました。
でも、このご指摘は11月7日現在、貴台お一人です。流石はJALのジャンボの元機長、一瞬にしてこの間違いに気付かれたのは、貴台が長年にわたりマッハクラスの高速の世界に生きられていたからだと思いつつ、ご指摘をいただいたことに謹んで感謝申し上げます。
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太陽系は銀河(天の川)の中で何と毎秒220Km±10%もの速度で公転しているが、日食は太陽系内に於ける太陽と地球と月との相対運動で発生する光学的な現象なので、太陽系全体の銀河内での公転運動とは無関係である。
太陽の周りでの地球と月の運動に影響を与える抵抗は超遠距離に存在する天体からの引力と暗黒物質などからなる宇宙塵のみだ。しかし、これらからの影響力は運動のエネルギーに比べれば無視し得る大きさに過ぎない。従って、太陽と地球と月との相互間に働くだけの万有引力を使って、それらの未来の相対的な位置関係を計算すれば、日食の予言は可能だ。
ある時、FORTRAN(米国のIBM社が約半世紀前に提案した科学技術計算用の言語。40年前から我が使い慣れていた言語)が無料でインストールできると知り、ボケ防止対策の一つとして日食の予想計算を私もしてみむとて、インストールを試みたが未だ成功せず。来年になったら再チャレンジし、タレースよりも少しは精度を高くした1時間位の誤差を目標にしながら、我がパソコンで計算したいと思っている。
地球の公転面と月の公転面とは少しずれていて同一平面内にはないが、簡略計算としてはその差を無視すると、楕円軌道計算だけになるので計算プロセスは大幅に簡略化される。この問題は天体力学の計算というよりも、解析幾何学の単なる初歩的な数値計算に過ぎない。
勿論、地球や月の大きさも考慮し、ケプラーの法則を使い、楕円の一方の焦点を太陽の定点とし、面積速度一定の条件を使って地球の公転速度の変化も計算し、同時に地球を月の公転楕円の焦点に置き、月の公転の面積速度も一定との条件下で、月の公転速度も計算するくらいの手順は踏まざるを得ない。
手元の平成14年版理科年表には『近時の日食』とのタイトルで、1998〜2016間は詳しく、その後は2035年の皆既日食だけだが記載されている。2000と2011年は4回、その他の1998〜2016年は毎年2回だ。我が計算プログラムの出来具合は直ぐにも評価が出来ることになる。
蛇足
隕石が持つ運動のエネルギーも巨大だ! 隕石(平均密度3.5g/立法センチメートル)の地球への衝突速度が地球の公転速度に等しいと仮定すると、直径僅か10mの隕石(重量は1833トン。その体積は我が国の平均的な1戸建ち、延べ45坪の住宅クラス=524立方メートル/3.5m{屋根裏や床下も考慮した場合の天井の平均高さ}=150平米)でも、その運動のエネルギーは原油2万トンに匹敵する。TNT火薬の発熱量が原油の半分と仮定すると、何と広島型原爆の2倍だ!
隕石は宇宙空間で爆薬により粉末状に破壊できても、運動のエネルギーはほぼ保存される(正確に言えば保存されているのは運動量 Σm*v であって、運動のエネルギー Σm*v*v/2 ではない)。しかし、粉末化された隕石でも高速で大気圏に突入する結果、大気との摩擦熱で蒸発し、実害は殆ど発生しない筈と予想されている。
NASAは地球を救うと称して、地球に大接近する恐れのある大型の小惑星や彗星を、ご苦労なことに24時間体制で追跡し続けている。NASAの仕事も最近はジリ貧になったための、ボランティア活動だろうか?
とは言え、現在の科学宇宙&軍事技術で、隕石を打ち落とす事は不可能に近い。隕石の移動速度に追いつけるミサイルは、まだ開発されていないので追尾は不可能である。従って、地球に突入してくる隕石を地上から迎え撃つしかないが、戦争で攻撃してくると予想されるミサイルに対してすら、100%の命中率はまだ確保できていないので、一個の隕石を目掛けて無数の迎撃ミサイルを乱射する以外に方法はない。結局の所、下手な鉄砲も何とやらに期待する他、全生物の救済手段は未だないようだ。
台風と地震と隕石とでは被害の現われ方が異なる。台風の総エネルギーは巨大だがエネルギー密度が小さいため風害よりも水害。地震の場合は可振力による機械的破壊が主となる。一方、大気圏で蒸発し尽くせなかった大型隕石の場合は地球と衝突した瞬間、その運動のエネルギーは熱エネルギーに変わるので、火災だけではなく、周辺の空気の膨張に伴って発生する衝撃波による風害が大きい。その典型例は1908年、シベリアのツングースカで2000平方Kmもの広さにわたり、外周に向かって放射線状に原生林をなぎ倒した隕石だ。
A 1分後の天気予報
気象庁が保有する無数の観測データと超大型電算機を使わなくとも『1分後の天気は、現在と同じ』と予想するだけで、誰でも99%以上もの精度の天気予報が出せる。しかし、24時間以上先の気象庁の天気予報には何度も裏切られた。
いわんや長期天気予報などは、夏は冬よりも暑く、冬は夏よりも寒いと言っているだけのようなものなので、私には気休めほどの価値も感じない。長期予報が外れやすい原因は、地球上の大気の運動が天体の運動に比べ、無数の予期せぬ現象によって遥かに攪乱させられやすいからである。
従って、地球の大気圏をどんなに小さな升目に分割し、境界条件を計測値から与えて、ナビア・ストークス(Navier-Stokes)の粘性流体の運動方程式を、無限大の速度で計算できる電算機を投入して解いても、予測精度の向上率は小さい。少なくとも、来年の何月何日何時に太平洋のどの地点でどのくらいの強さの台風が発生する、と言った種類の予報は出来ない。
私はテニスの予定日の朝、雨が予想される場合には午前7時に関係者全員に『本日のテニスは中止』とのメールを発信している。NHK・新聞・インターネットの天気予報を調べ、学生時代に学んだ航空気象学のへぼ知識も総動員して、8:00〜13:00の天気予想を熟慮しているが、これほどの近未来でも的確に当てるのは難しい!
B 30歳に達した人間の10年後の身長変化量
人間の成長は遅くとも30歳までには止まり、以後は椎間板などが圧縮されて身長は徐々に低くなる。これは誰でも知っている老化現象だ。66歳の私は過去の最大身長162cmから残念ながら約0.5%(1cm)小さくなった。今や160cmを切るのも時間の問題だ。念のためにと我がスポーツ仲間のデータを確認したら、身長の短縮量は殆どが0〜1%だった。大きくなった人は一人もいなかった。
30歳以降で110cmだった身長が30cmも伸びた『てなもんや三度傘』で有名な白木みのる氏は例外中の例外だ(テレビ番組・『徹子の部屋』で最近見た私の推定値)。従って、30歳に達した人の40歳時点での身長変化率は0〜3%の範囲と予想した場合、予測精度は99%以上と断言できる。
子供の身長の成長曲線を延長して、この子は80歳になった時には4mにもなる等と予想する親が一人もいないのは、子供の時と大人の時とでは体質が変化することを誰でも知っているからだ。これは過去のデータが未来に向かって外挿できない典型例である。
ところが、世の中には過去のデータが外挿出来るのか、出来ないのか不明な問題が無数にある。未来予測で最も重要な課題は、予測対象の過去の現象がそのまま未来へと外挿できる性格の問題か否かの検討だ。しかし、その難しさから逃げているのか、それをせずに過去が未来に自動的に延長できると独断している未来予測が、世間には何と多いことか! 日食の予言が当たるのは過去の延長に未来があり、天気予報が長期になるほど当たらなくなる本質的な理由は、未来が過去の外挿には必ずしもならない点にある。
オックスフォード大学の教授が、100m走の男女の最速年間世界記録を過去100年間分グラフ用紙にプロットし、150年後には女性が男性を追い越すとの奇妙な論文を、今やギネスと並ぶほど有名になった英国の科学技術雑誌ネイチャーに、今秋発表した。何故女性の方が短距離のスピード向上率が高かったのか、の要因分析をせずに、外挿で遥か先の未来を予測しても何の価値も無い。彼は横軸に西暦を設定し縦軸に走行時間をプロットして右肩下がりの近似直線を引いただけだ。彼の予測直線をそのまま外挿すれば、何と横軸すら切ることになる!
この予測法が成立するのであれば、私は66歳まで無事に生きてきたから、何時までも生き続けられる、と言えることにすらなる。本人の真意はイギリス式のジョークなのか、本気なのか、私には皆目見当もつかない。私が最も嫌いな人間とは、肩書きで装飾された賢者の仮面をかぶった、この種のぼんくらだ!
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