1.硫黄山
快晴。朝の気温は零下3度まで下がったが風もなく寒さは感じない。硫黄山へと出掛ける。快晴の中で記念撮影。硫黄山の山裾では地底の穴から高温の蒸気が快音を伴って吹き出していた。お湯が単に流れ出ている所よりは温泉地帯らしく感じる。傍らには白樺の雑木林もあり、景色も悪くない。
2.摩周湖
霧で有名な『摩周湖』が快晴のために、丘の上から全体をくっきりと眺められた。水面は何故か全く凍っていない。 100mを越える外輪山風の絶壁付きの山に完全に取り囲まれている。湖岸に降りて行く道もない。生活排水が構造的にも流れ込まないので湖水が透明な筈だ。酸性度が高く魚もきっといないのだろう。これなら当分の間、透明度の高さはキープできそうだ。
水の色は日光が反射して紺碧だ。トルコで眺めたエーゲ海の色そっくりだ。木々に咲いた樹氷が美しい。久々に壮快感を味わう。丘の上には2階建ての休憩所兼売店があった。売っているものは、今迄出会った店とさして変わらないがマリモは流石に多かった。氷で冷やしただけの缶ビールが 350円もした。観光地の物価は何処も高い。
3.網走
網走の刑務所は丘の上に移築され『網走監獄館』という名前の博物館として保存されている。独房の一部は明治村にも移築されているが、こちらの博物館には全部がそっくり移されている。集団で入居する大部屋は文字通りタコ部屋だ。長い丸太を枕として共同で使う。一端を杵で叩けば全員を一度に起こせる。
大浴場やお説教の部屋、囚人による北海道開拓作業のジオラマなど1時間では足りないほどの見所がある。脱走犯の事例説明になると格別に熱心だ。『ここにはこんなに腕利きの牢破りがいた』とあんまり強調されると、囚人を褒めているのかと勘違いし兼ねない。
最後に無料の甘酒が振る舞われた。博物館の運営は第3セクターの独立採算になっているのではないか?。関係者がとにかく驚くほどに親切だ。出入り口の道路の両側に新雪がぽっかり積もっていたので、ホテルから無断で借りたガラスコップに雪を詰め込み、ウィスキーを雪割りにして飲んだ。飲み終わってコップの底を見たら、煤煙によく似た固形分がドッサリ残った。
4.網走海鮮市場
昼食を食べた網走海鮮市場の2階の大食堂は数百名も入れそうな大きさで、予約の大型弁当が既に並べてあった。御園座の幕間食堂を大きくしたような感じだ。パック旅行の単価の違いか、弁当には上下がある。朝食で満腹になっていた上に、トイレ休憩に立ち寄るドライブインでも缶ビール(高い!。DSの2倍、 350円もする。どうやら価格は横並びで統一しているようだ)を飲んだり、ウイスキーの雪割りを飲んだりしていたので、食欲は殆どなかった。
殆どは箸も付けずに食べ残した。それでも車の運転から解放されたほろ酔い加減の旅の方が気にいっていたので、勿体ないとは思わなかった。
1階の海鮮市場は豊田そごうの『北海道物産展』の大型版だ。生きているカニもどっさりキープされている。豪華だったので買いたかったが荷物にもなるし、帰り着く前には死ぬだろうと思って諦めた。現地だと言っても観光客相手のこの種のドライブインは値段が高い。
日高コンブを買おうとしたら、昨日の店よりも2割も高い。『2割引け!』と言ったが1割しか割り引かなかったので見送った。その代わりに定価が印刷されている加工食品『紅鮭のコンブ巻き』を買った。これはホテルと同じ価格だった。
5.オホーツク海
海鮮市場の横はオホーツク海である。天気さえよければここから知床半島の山並みが見えるそうだが、生憎の曇天で途中までしか見えない。海の色は鉛色で重苦しい。北洋漁業の自然の厳しさをふと連想した。流氷は既に殆ど姿を消していたが、海岸にはまだ多かった。
500mくらい離れた位置には流氷がどっさり残っているのが分かったので、時間を気にしながらも妻と大急ぎで出掛けた。『流氷は既に小さいので乗るのは危険だ』と言われてはいたが、大きいのを選んで飛び乗った。ぐらぐらと揺れた。海は遠浅なので危険は感じなかった。
流氷の氷でオンザロックを作りたかったが無理だった。流氷の上にはたっぷりと雪が積もっており、氷そのものが深い水中に没しているために取り出せなかった。海岸にはまだ雪が2mも積もっている所もある。海岸通りへの近道を適当に探して歩いていたら、靴が雪に突然めり込んで膝まで没し、靴の中は雪だらけになってしまった。
網走の海岸沿いには湖が何故か多い。北海道1の大きさを誇る『サロマ湖』はすぐ北にあるとは言うものの、観光コースには入っていない。細長い網走湖の北側の道路を通りながら層雲峡へと向かう。北見平野にはまだ未開拓地が残っている。人口が少ないのか家も少ない。北海道には瓦葺きの家がない。除雪に便利な鉄板屋根が目立つ。どことなく豪華さを感じないのは偏見か?。
6.北見平野〜石北峠
北見平野にはこれと言った印象に残る観光資源がなかった。旅の疲れと酒の飲み過ぎも手伝って結局半分は寝てしまった。所々低い峠を越える場所もあった。
その時のことである。2号車が左の山側へ反転した。左のタイヤが約1m落ちている。運転手が運転中に行程表を確認していて起こした事故だった。右側は絶壁だったので不幸中の幸いと言うべきか。2号車の客は1&3号車に便乗する事になり半分乗り込んだところで、臨時にチャーターしたバスが早くも到着して乗り直し。事故車よりも遥かに立派なバスだ。この間僅かに15分。
程なく『石北峠』に到着。この名前も石狩と北見から1字ずつ取った合成語だ。この峠を過ぎるといよいよ大雪山国立公園だ。道の両側の山肌が段々急俊になってくる。『銀河流星の滝』をバスから降りて眺める。滝の殆どは凍結していた。ほんの一部に雪解け水が流れていた。轟音が聞こえ、水飛沫が飛び散る滝ならば臨場感もあって楽しいが、時節がら沈黙されてもやむを得ない。
7.層雲峡
層雲峡は石狩川の上流だ。北海道で付けられた地名の中では抜群の冴えだ。中国の山水画の世界を連想させて、到着する前から大きな期待を持たせてくれる。近付くにつれて峡谷美が迫ってくる。谷沿の坂道の両側は 100mを越える絶壁だ。
秋の紅葉はさぞかし美しいことだろうと思う。札幌の雪祭を真似たのか、河原に雪像の残骸が放置されていた。ほんの1週間前までは雪祭をしていたそうだ。骨格の構造材を片付けるにはまだ雪が多くて邪魔だ。
その河原を正に見下ろす1等地に層雲峡プリンスホテルがあった。1,500人も宿泊できる巨大ホテルだ。ここでも和室付きのスウィートルームだった。しかし、大きなホテルの2階の端っこに近い部屋を割り当てられたため、大浴場へは水平移動で 100m、それから9階へエレベータで登ることになり不便極まりない。大型ホテルは何回も温泉に入りたい者には不便だ。
ホテルの大広間では夕食が既に用意されていた。バス会社の営業担当役員が事故のお詫の挨拶に来た。『創業25年で初めての事故』と言ったが本当かどうか?。客の何人かは念のため病院に行った。部分的な出血者も骨折者もいなかったので大したことはなさそうだ。お詫びに参加者全員に飲み物が1本サービスされた。7時のNHKニュースで事故が早速報道されたそうだ。翌日の新聞にも報道された結果、皆満足げだった。
夜明け前に9階の大浴場に出掛けた。外は快晴だ。真っ青な空を背景にして、真っ白い雪に覆われた高さ2290mのコニーデ型火山(大雪山)が目の前に聳え立つ。荘厳さが漂う。温泉に入ったり出たりしながら、今や遅しとご来光を待つ。
ところがところが、予期せぬ位置から太陽が出てきた。大雪山の稜線からではなく目の前に塞がる低い山から出てきたのであった。最初から光は眩しくて正視もできない。でも風呂から眺められたから我慢して暫く山々の変わり行く色の変化を観賞した。
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