”黙殺”の音は”明殺”の音となった  1/3

風車騒音被害に低周波音被害はない

環境省 平成 24 年度 風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討調査業務報告書


 「失言」とは、「言うべきではないことを、うっかり言ってしまうこと。また、その言葉」と言うことらしいが、私なんぞはもう2,30年前に言ったらしい事を今頃になって「あの時お前はこういった」等とこっちは大した意味もなく言ったらしいことを、40年以上も経ってから恨みがましく言われる事がある。相手はその時の状況も詳しく述べるので確かにそうであろうし、どう言った経緯でそう言ったのかこちらに格別の記憶はないが、当時の私なら言っていたかもしれなさそうな事なら、マルット記憶がない事が多いいのだが、相手はこれまでずっーーーと不愉快に思っていた訳だろうと思い、とにかく、「ごめん」と言うことにしている。

 ただ、そうした「言」は言っている方にしてみれば格別大した意味もなくポロッと頭に浮かんだことが口をついて出ただけで、悪意や他意など私の場合は、今無理矢理思い返してみるとほとんどの様な気がする。これが政治家とか芸能人とかの「公人」となると、そんなわけにはいかず「お前はそんなことを思っとるのかと」、最近のように情報が瞬時に広範に伝わってしまう時代だとさらに曲解されてしまい、ド壷にはまっていってしまう場合もあろう。本人にとってはそれはまさしく"Je,Je,Je."な状況であろう。

 自民党の高市早苗政調会長の「福島第一原発を含めて、原発事故によって死亡者が出ている状況ではない」とした発言は、「原発事故により多くの避難者が出ている現状で「死亡者が出ていない」との理由を挙げて、「産業競争力の維持には電力の安定供給が不可欠としたうえで、「原発は廃炉まで考えると莫大(ばくだい)なお金がかかるが、稼働している間のコストは比較的安い」と語った。再稼働方針を強調する姿勢には、批判が出る」のは無理からぬ事である。

 この発言の論理は実に低周波音問題にマルッと当てはまる事であり、看過できない。が、まー、「人が死ななきゃ良いじゃないか」と言うのが政治屋の通常の認識なのだが、この場合はそれを人前で、口にしてしまった事に問題があり、事の前後がどうであれ、「マズッタ」と直ぐ気付いたのであろう。早々と幕引きがされた。

 だが、もちろん、直ちに死ななければ済むモノではなく、13/06/19の中日春秋では、「事故直後の被ばくで多くの死者が出たチェルノブイリと違って、福島では「直接的な死者」こそは出ていない。だが、本紙が福島の自治体を取 材した範囲でも、千人を超える人々が原発事故に関連して死亡したとみられる。絶望し自ら命を絶った人もいる。」としている。そして、もちろん長期低量暴露の影響は解らず、現在も大いなる”人体実験”と言う名の経過観測が続けられていることになるのであろうが、もちろんそれと比べれば極めて小規模ではあるが、低周波音暴露の人体実験も続けられているのだが、議員は勿論だろうが、マスコミも、そういった認識はなかろう。

 「平成 24 年度 風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討調査業務報告書 平成25年3月」が出ていると連絡を頂いた。

 これは環境省が「風力発電施設から発生する騒音・低周波音とこれらによる健康影響との間の因果関係についても明らかとはなっておらず、環境省では、平成22〜24 年度の3 年間の事業として、「風力発電等による低周波音の人への影響評価に関する研究」を実施し、現地での実態把握調査、周辺住民に対する社会反応調査、実験室での聴感実験などを行っている。」(風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討結果の暫定的取りまとめについて平成24年5月24日)としてきた結果の報告書である。

 その報告書の結果を一言、いや二文で言えば、「風車による騒音被害はない。特に低周波音に関してはその音は小さく問題にならない」と言うことである。

 この結果は単に「風車による低周波音被害」に限らず、「風車騒音問題」全般、これまでの「低周波音問題」そのものに関してもかなり重要なはずだが、これまでこうした経過に触れてきたマスコミ、報道が無いようなので記しておきたい。


1.風車による低周波音被害者

 風車騒音被害を概観しておくと、10年ほど前から風力発電施設近傍の人々が、風車の稼働と供に低周波音症候群的症状(耳鳴り・頭痛・いらいらを始めとして、睡眠時にも音源の稼働が続けば、不眠から、どうき・胸の圧迫感・息切れ・めまい・吐き気・食欲不振・目や耳の痛み・腰痛・手や足の痛みやしびれやだるさ・疲労感・鼻血など)を呈し、日夜苦しんでいる、と聞くようになった。環境省は「平成10年代末頃になると、超低周波音の影響から風力発電症候群まで多様な議論が続出し、国としての統一的な対応が不可避となってきた。」と言うことである。
 
 この被害には個人差があり、被害を感じない人もいるらしいが、感じる人もその地を離れればその被害感覚は無くなるらしく、この点はこれまでの低周波音被害と同じである。と言うことで、風力発電施設に関して思えば、その発するモノは、電磁波と風車騒音くらいであろう。電磁波は、これも感じる人でないと感じない様で、別に譲るとする。が、だれでも感じると言うより聞こえるのは、風車近傍での「シュッシュ」と言う回転音であろう。普通これはそんなに遠くまでは聞こえないし、それがモロに聞こえるような所には家が有るはずは無いであろうが、NEDOはそれでも良いと言っているのか、実際には日本では2,3百メートルに家がある。もし、風車近くに住んでいても、これさえも聞こえないと言うような人は、明らかに聴覚に問題が有るはずで、むしろ「聴覚異常」の疑いがあり、聴覚検査を受けたほうが良いであろう。

 一方、数百m〜1km以上離れても聞こえると言うより感じであろう“空気的違和感=超低周波空気振動”を感ることにより相当数の人々が、所謂、低周波音症候群を呈しており、これが「風車による低周波音被害」と言うことである。そうした状況が@風車の稼働後に始まり、Aその地を離れればその被害感覚は無くなる、とすれば、その原因は風力発電施設の稼働であるこは明白であると考えるのは、“科学的事実”等という以前の「事の条理」である。

 しかるに、国、事業者は、「被害が出ると言う科学的証拠が無い」とし、尚かつ日本国では行政は「風車による低周波音」は「参照値」以下であるから低周波音による被害はないとして、被害者の訴えを切り捨ててきた。
 しかし、切っても切っても、新たな風車の建設と伴に「風車による低周波音被害者」は現れ「参照値」の無能さを露呈し、さしもの環境省も”『参照値』を風車の低周波音に適用することはできません。”とした。結局、被害者の要請と言うより、むしろ当該自治体からの“「参照値」がダメなら別のツールを出せ”と言う要請により、”「国としての統一的な対応が不可避となってきた」のであろう。


2.低周波音による風車騒音被害は無し

 そもそもにおいて、自治体は、工場等の騒音問題以外は民民の問題であると今や騒音問題の主人公となろうとしている低周波音被害を門前払いしてきたが、更に国が「参照値」なる“低周波音被害切り捨てツール”を自治体に与えて以来、(一応国のために言って置くが、自治体の意図的誤用により、)「現実の低周波音被害現場での測定値がその数値に届かない」(そもそもが届かないに様に創ってあるのであるから届かないのが当たり前であるが、)ことを理由に、多くの低周波音被害者(国はあくまで”苦情者”と呼ぶが)を、「被害原因は低周波音ではない」とし、低周波音被害者を自治体窓口で門前払いし、その存在を自治体段階で無くし、結果として低周波音被害そのもが全国的にも無いとしてきた。

 「風車による低周波音被害」に関しても、これまでの低周波音被害の様に、当初は「知見がない」として「黙殺」、その後は、”外道”のツールと化した「参照値」による行政窓口による切り捨てを事実上黙認してきたが、頻発する現実の風車騒音被害事実の前にその無策さを露呈し、自治体からの突き上げに、「国としての統一的な対応が不可避となってきた」とした結果がこれである。

 と言うことで、これまでの低周波音被害に比べ「風車による低周波音被害」は明らかに@被害地域が風車近辺に特定され、A被害者も複数おり、B因果関係は明白などで、今般の「結果」には、何らかの”新事実”が提示され「風車による低周波音被害」を認めるのか、何て“妄想”を持ったりもしたが、何ともマー、大いなる”回帰現象”と言うか、”卓袱台返し”というか、「風車騒音に低周波音の影響はな〜〜い」と、これまで以上に一刀両断の元にバッサリと「風車による低周波音被害者」をブッた切ったのである。

 結局これまでの「風力発電施設からの騒音・低周波音について環境省が行ってきた検討結果を基礎」とすれば、これは予想できたはずの結果なのだが、今般格別に何の”決定的ツール”もなく、只只、「風車による騒音被害はない。特に低周波音に関してはその音は小さく問題にならない」と”低周波音の影響そのものを、この問題から一気に削除したのは何とも"剛胆"であると言わざるを得ない。今更ながらだが、以前にも述べたが、風車騒音問題を最初から低周波音被害として訴えたのは非常に拙かった。まー、それにしても、「風車による低周波音被害者」に有無を言わせず「風車による低周波音被害」をぶった切ったのは、説明するに”他に何も手がなかった”ことを示している。

 かくて低周波音、超低周波音は“黙殺の音”から暗殺ならぬ”明殺の音”となり、特に、「風車による低周波音被害」は”明殺の被害”となったのだが、それは同時に「風車による低周波音被害」そのものを公的に抹殺したと言えよう。この卓袱台返しと言える「全て基とい。低周波音被害なんてなーーーい」の論理はヒョッとすれば、いずれ「参照値」をも否定し、これからあらゆる低周波音問題に適用され、低周波音に関する騒音問題を全面否定するかもしれない、に繋がる恐れがあると危惧する。この結論に対し、格別のマスコミ報道もないようなので敢えて述べておく。


3.報告書の要点

 さて、このレポートには方法論や参考にした資料などがダラダラと挙げてあるが、結論は概要にある以下の3点に集約される。

 .「風力発電施設からの騒音・低周波音について、これまで環境省が行ってきた検討結果を基礎」とした結果、

@低周波音の「一般的な風車騒音では可聴性に対する低周波数成分の寄与は小さいこと、
A風車騒音では振幅変調音がアノイアンスを高めていること、
B風車騒音の評価量としては、一般環境騒音の評価として、一般的に用いられているA特性音圧レベル(騒音レベル)が適用できること、

 などが明らかになった。」

3-2

 医学的な視点からの検討の不足を補うために、 風車から発生する騒音が人体に何らかの健康影響を起こし得るかどうかの検討を行うために、これまでに発表されている関連学術論文等を収集し評価した結果、風車騒音と健康影響との因果関係を示す科学的根拠はなかった

3-3

 基準又は目標となり得る「値」について、評価を行う際に具体的な目標となる値を想定した「目標値」 の検討を行った結果、 目標値を 「事業者が最低限守るべき目標値として推奨する値」と定義づけした上で、風力発電施設を設置する場合に適当と考える騒音・低周波音の目標値について、A特性音圧レベルで35dBを提案した。

(○数字、太字は筆者)


 この結論を報告書は「現時点で最適と思われる評価指標、 評価手法及び参考とすべき値 (目標値)」と”自画自賛”している。しかし、それは誰にとって”最適”であるかと言うことだ。

 言うまでもないが、これにより「風車からの低周波音は問題無い」とされたのであるから、、国、自治体、風力発電事業者は風車騒音に於いて、被害者に対し、切り捨てゴメンの”お墨付き”を得たことになり、今後、国、自治体、風力発電事業者等は、風力発電施設等の建設に際し、少なくとも、アセスを通過すれば、その後に於いては『低周波音に配慮する必要はなく」、さらには、建設後に於いては、低周波音被害者は存在しえず、仮にあってもそれは「風車による低周波音被害」ではなく、その被害に関して低周波音的配慮をする必要はない事になる。詰まるところ、これによりひとまずのアセス通過は容易になり、建設後に起こるであろう問題は増えるであろうが、その問題には、少なくとも、低周波音問題は存在し得ないことにはなるが、被害現実との齟齬は大きき、これまで以上に問題を拗らせる事になるのではなかろうか

 現在、風車騒音被害により、鬱々たる日々を送り、時として、のたうち回り、居たたまれず、我が家を捨て置いて避難している風車被害者にとっては余りに惨い、としか言いようがない結論であるが、むしろ今後一層同様の被害者が増えるような気がしてならない。

 これは本来、これまで、時により「風力発電の低周波音被害」を報道してきたような新聞、TV等のマスコミにとっても、「風力発電施設における低周波音被害の存在の事実を事実的排除」の基礎造りであり、この「国家としての暴挙」を挙って報道しなければならないはずのだが、未だに何ら報道されないと言うことは、風車騒音被害者は国家的には”棄民”とされたと言えよう。


4.調査の経過の主なる点

では、改めて、この結論に至る調査の経過のメインどころを見ると、

2.4環境省における風車騒音等に対する検討(P.7以降)

C風力発電施設に係る騒音・低周波音の実態把握調査(平成22年度)
平成22年(2010年)4月1日時点で稼働中の総出力20kW以上の風力発電施設(186事業者、389か所)を対象に、騒音・低周波音に関する苦情の有無等の実態を把握するために、アンケート調査を行った。また、苦情等が発生している風力発電施設を対象に、事業者・地方公共団体へのヒアリング等の調査を行った。

D 環境省戦略指定研究 「風力発電等からの低周波音の人への影響評価に関する研究」(平成22〜24年度)
低周波数成分を含む風車騒音の影響を調べることを目的として、風車騒音の実測調査と施設周辺の住民を対象とした社会反応調査及びこの種の騒音に対する人間の生理・心理的反応を調べるための聴感評価実験等が3年計画で実施されている。 平成24年度が最終年度であり、成果が近々報告される予定である。
戦略的公募研究(H22〜24) 風力発電等による低周波音の人への影響評価に関する
・現地実測調査(3年間で36箇所)
・社会反応調査(周辺住民のアンケート調査)・実験室における聴感評価実験

E風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討調査(平成23年度)
風力発電施設が我が国の「環境影響評価法」 の対象事業となったことを受け、風車騒音について、環境省で行われた環境影響評価に係る検討を基礎として、さらに、国内外の科学的知見を追加し、風力発電施設からの騒音等を適切に調査、予測及び評価する手法に関して必要な事項を調査検討し、暫定的なとりまとめを行い、環境影響評価に関する最新の情報を示した。


 ここで「証拠の種類」は整ったはずであるが、結果に於いて、「風車による低周波音被害者」に於ける事実が欠如しているのであろうか。