”黙殺”の音は”明殺”の音となった  2/3

風車騒音被害に低周波音被害はない

環境省 平成 24 年度 風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討調査業務報告書


5.報告書の注目点

 目次順に注目点を拾い、ひとまずのコメントをしてみた。進行中。

第 1 章 業務概要 .
1.1 業務の目的
1.2 業務履行期間
1.3 業務の内容1
第 2 章 風車騒音等の経過と現状
2.1 風力発電施設に係る騒音問題の経過4
4
2.2 風車騒音と健康影響 5
平成10年代末頃になると、超低周波音の影響から風力発電症候群まで多様な議論が続出し、国としての統一的な対応が不可避となってきた。
2.3 環境影響評価法改正の経過 6
2.4 環境省における風車騒音等に対する検討の経過
第3章 最新の研究等の収集・整理
3.1背景
A文献・資料等 ・ 平成23年度風力発電施設の騒音・低周波音に関する検討調査業務 報告書
(国内・海外) ・環境省における騒音・低周波音に係る各種マニュアル、 手引書、 事例集等
・15th International Meeting on Low Frequency Noise and Vibration and its Control(22nd?24th May 2012)
・国際騒音制御工学会議inter-noise2012
・各種文献(騒音制御、 日本音響学会誌、等)、ホームページ等
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3.2 内容、環境研究総合推進費戦略指定研究開発領域公募課題
「風力発電等による低周波音の人への影響評価に関する研究」
この実測調査と同時に、 風力発電施設周辺におけるインタビュー方式による社会反応調査を実施し、住環境に関する一般的印象や風車騒音によるアノイアンスの程度、 風力発電に関する意見 (評価)、 睡眠影響、 自覚的健康状態などについて調べた。 これらの実測調査・社会反応調査は、 地域特性が類似し、 風車騒音の影響を受けていない地域 (対照地域) 18箇所を選定し、 比較のための調査を行い、 風車騒音の影響を受けている地域の結果と比較した。 13 今回の調査研究の要とも言えるモノがこれでしょう。「参照値」作製のために使われた産総研の似たような設備はなんだったのでしょうか
これらの現地調査とは別に、 低周波音に重点を置いてヒ トの聴感反応を調べるための実験的研究も行った。そのために、まず東京大学生産技術研究所の音響実験室に超低周波音まで再生できる実験装置を作製し、これを用いて@低周波数の純音に対する聴覚閾値、A風車音に含まれる低周波数成分の可聴性及びラウドネスに対する寄与、 B振幅変調音の聴感印象、C低周波数成分を含む一般環境騒音のラウ ドネス評価などの実験を行った。それらの結果から、一般的な風車騒音では
@可聴・可覚性に対する低周波数成分の寄与は小さいこと、
A風車騒音では振幅変調音がアノイアンスを高めていること、
B風車騒音の評価量としては、一般環境騒音の評価として一般的に用いられているA特性音圧レベル(騒音レベル) が適用できる
こと、
などが明らかになった(この研究の成果は、平成25年5月に取りまとめられる予定である)。
3.3 環境省地球温暖化対策技術開発事業
「騒音を回避・最小化した風力発電に関する技術開発」
3.4 NEDO「次世代風力発電技術研究開発」1
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3.5 国内における過去の低周波音に関する研究について16
3.5.2内容 (6) 低周波音の振動感覚閾値
高橋(幸)は、低周波音を暴露されたときに生じる振動感覚の閾値を、20〜50Hzの周波数について実験室実験により検討した。その結果、振動感覚閾値は聴覚閾値に比べて5〜15B高かった。また、周波数が大きくなるにつれて振動感覚閾値も低くなる傾向がみられたが、40Hzで最も低くなる傾向がみられたとしている26)。
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(7) 低周波音の心理的影響
苦情申立者の閾値は一般成人より高く、許容値は一般成人より低かった
(8) 低周波音の生理的影響
町田は、自身の研究も含めた低周波音の暴露実験による生理影響の研究に関するレビューをとりまとめている。それによると、実験条件では、試験音の周波数は2〜100 Hz程度、音圧レベルは感覚閾値を中心に50〜120 dB程度、試験音の提示時間は数分から1時間程度である。実験結果では、感覚閾値以上で生理反応が現れるようであるが、一定の傾向を見出すには至っていないとしている。
3.6 その他の文献・資料等について25 25
第 4 章 諸外国のガイドライン、基準等に関する情報の収集・整理
4.1 はじめに
4.2 収集方法
4.3 各国の風車騒音のガイドライン値、基準値等の概要
4.4 整理結果38 52
第 5 章 健康影響に関する文献レビュー
5.1 はじめに
5.2 健康影響の種類
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5.3 研究方法の種類と特徴  有害な健康影響の有無を評価するための研究の方法は、 影響を受ける対象に何を用いるかによって分類することができる。
 すなわち、微生物や魚類、マウス、 ラット等の実験動物、そしてヒトである。 また、近年では動物あるいはヒトの細胞を用いる場合もある。 動物に実際に暴露させ、 健康影響の有無を評価する研究方法を 「動物暴露実験」 と呼ぶのに対し、ヒトに試験的に暴露させ、 健康影響の有無を評価する研究方法を 「人体暴露実験」 と呼ぶ。 実験動物を用いた暴露実験では、影響の発現を確認するために通常起こりえない高レベルの暴露を行うことが可能なのに対し、 ヒトに対して有害な影響を起こしうる物質 (又は環境) の高レベル暴露は倫理的に問題があるために人体暴露実験では日常起こりうるレベル以下に留めざるを得ない。また、動物暴露実験では、 12ヶ月間あるいは24ヶ月間という、マウスやラットにとってはほぼ一生にあたる長期の暴露により慢性影響を調べることが可能であるが、ヒトへの暴露実験では長期暴露による慢性影響を調べることはできない。 したがって、 ヒトの慢性影響を調べるためには疫学研究という手法を用いることが必要となる。

 疫学研究とは、 ヒト集団を対象として、その集団に起こった健康事象 (疾患や死亡等)の頻度を観察したり (これを「記述疫学」 という)、集団同士で比較し、差の有無を検討することによって因果関係の有無を調べたりする(これを「分析疫学」 という)研究方法である。時間の経過を考慮するかどうかで、分析疫学をさらに「横断研究」と 「縦断研究」 に分けることができる。
例えば、風車の近隣住民100名と、そうでない100名を対象にして 「不眠の有無」 の聞き取り調査をある時点で行いその頻度の差を検討することは「横断研究」 である。縦断研究には症例対照研究(ケースコントロール研究ともいう)とコホート研究の2つがあるが、前者は健康事象の有無で集団を分けて、それぞれの集団における 「要因」 の頻度を比較するものであるのに対し、後者は 「要因」 の有無で集団を分けて、その後、 それぞれの集団において発生した健康事象の頻度を比較するものである。例えば、肺がんの患者100名と、そうでない100 名それぞれに対し、過去の喫煙の有無を聞き、各集団の喫煙率を比較することにより喫煙と肺がんの因果関係を調べる研究は症例対照研究であり、喫煙者1万名と非喫煙者1万名を予め用意し、その後その各1万名の集団を観察し、それぞれの集団において生じた肺がん患者の割合を比較し、 喫煙と肺がんの因果関係を調べる方法がコホート研究である。
 優れた疫学研究かどうかは、後述する「バイアス (系統誤差)」がどの程度制御されているかによるが、 ケースコントロール研究、 コホート研究いずれもその研究方法上、バイアスは完全に制御することはできない
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5.4 疫学研究の評価方法 因果関係の立証は、様々な観点から検討される必要がある。したがって多くの知見が集積されていない状況で因果関係の存在を示すことは困難である。一方、これらの知見に乏しいことが、因果関係が存在しないことを示唆するものでもない。 56
5.5 文献の選択及び評価方法 60
5.6 風車騒音による健康影響に関する研究課題 「(通常の暴露レベルでの)風車騒音により人に健康影響は起こりうるか」、という命題に対する答えを見出すことが、本文献調査の最終ゴールである。その命題を検討するにあたって、以下に示す研究課題を設定した。
(1) 風車騒音暴露による主たる健康影響は何か
(2) 長期暴露による慢性影響はあるのか
(3) 健康影響が起こるとすれば、それはどのような暴露レベル(音圧)で起こるか
(4) 健康影響は感覚閾値以下の音圧で起こりうるか
(5) 低周波音による健康影響を修飾する要因はあるか

抽出された文献が、上記の研究課題に対してそれぞれどのようなエビデンス(科学的根拠)を提示しているのかについて評価していくこととした。
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5.7 結果
5.7.1 風車騒音による主たる健康影響は何か
風車騒音によりヒトに起こり得る健康障害としては、いくつかの疫学研究の結果から、現在のところ、アノイアンス及び睡眠障害が最も可能性が高いものといえる。これらアノイアンスや睡眠障害が持続すれば、ストレスから高血圧や精神疾患等の疾患のリスクが高まることも考えうるが、これまでの疫学研究においてはそのようなエビデンスは認められなかった
61 今回の現場調査は、一応疫学的調査ではなかったのか。そこでは何も出なかったのか。
5.7.2 長期暴露による慢性影響はあるのか 「慢性影響」長期間の暴露により身体に何らかの不可逆的変化が起こったことを指すが、これまでにヒトにおいて風車騒音によるそのような健康影響は報告されていない 「現場を離れれば治る」と言うような証言が不可逆的変化を否定していることになり、「慢性影響は無い」と言うことになっているのであろう。低周波音被害者は一応「台湾の山羊」ではないからその場に留まり、苦しみ死に至るよりは、出来るモノなら現場を逃げるでしょう。
5.7.3 健康影響が起こるとすれば、それはどのような暴露レベル(音圧)で起こるか アノイアンスは、風力発電への立場・態度が基盤にあり、視覚を含め、聴覚、振動覚により風力発電施設の存在を感ずることによって生じると考えるのが妥当であろう。したがって、何らかの健康影響が起こるとすれば、暗騒音が少なく、また静穏が望まれる夜間の睡眠時において、聴覚、振動覚等により風力発電の稼働を知覚し、その存在を再認知することから、アノイアンスが生じ、それが持続することによるものと考えられる。このようなシナリオにおいて健康影響を生じせしめる音圧レベルを想定することは極めて困難であると言わざるを得ない。 「風力発電への立場・態度、視覚、聴覚、振動覚により風力発電施設の存在を感ずること」これら自体がバイアスと言うことになるのであろう。
5.7.4 健康影響は感覚閾値以下の音圧以下で起こりうるか 前項で、低周波音を知覚することによりアノイアンスあるいは睡眠障害が生じ、これが持続することから他の何らかの健康影響が生ずる可能性があるということを述べた。そこでは感覚により低周波音を認識しなければ健康影響を生じないという前提に立っているが、近年、感覚閾値以下の低周波音が直接脳に影響を生ずる可能性があるとする研究が報告されている。

Saltらはモルモットを使った実験により、内耳の蝸牛にある外有毛細胞が内有毛細胞より低周波音に対して敏感であること、高周波音の存在により低周波音に対する耳の反応性が影響されていることを示し、これらから、聴覚閾値以下の低周波音が外有毛細胞に直接作用し、何らかの影響を及ぼす可能性があるとしている。しかしながら、麻酔下のモルモットを用いた実験結果であり、暴露条件もどこまで現実を反映しているかが評価できず、また、外有毛細胞から脳への影響については言及されておらず、この結果をもって感覚閾値以下で健康影響がありうるという著者の主張は論理にはやや飛躍があると言わざるをえない。

聴覚過敏性と音圧レベルの間に関連は認められなかったが、聴覚過敏性とアノイアンスとの間には有意な強い関連が確認された。また、聴覚過敏性と風力発電に対する立場・姿勢とも関連があった
5.7.5 低周波音による健康影響を修飾する要因はあるか Shepherdらの研究によると、事前に周囲の関係者と相談したとか、風力発電施設に関する情報を収集したといった対処行動を選択した住民では、統計学的に有意に音響へのアノイアンスが少なかった。また、不幸/抑うつ、いらいら、絶望といった、緊迫感や緊張感に関する質問肢においても統計学的に有意に少なかった。

Pedersenらの研究で対象となった725人のうち10 0人は、風力発電施設の所有権を一部又は全部所有しているか、経済的利益を享受できるという立場であった。これらの群と、経済的利益享受関係にない群とでは、音圧の増加に対する知覚に統計学的有意差は認められなかった

以上のように、疫学研究からは、音圧レベル以外に視認性、風力発電施設に対する立場・姿勢、聴覚過敏性、地形・設置地区、事前の情報の有無、経済的利益の有無、等がアノイアンスの有無に影響していることが示された。一方、元々の病気の有無や性格等との関連について言及した研究は認められなかった。
5.8 まとめ @風力発電施設から発生する低周波音の健康影響を調べることを目的とした疫学研究は限られており、4編の学術論文が発表されているのみであった。これらはいずれも近隣住民を対象とした自記式の質問票による横断研究であった。 67
A風車から発生する騒音との関連の可能性がある影響はアノイアンスと睡眠障害であり、その他疾患(高血圧、糖尿病、心臓疾患、脳疾患等)との関連を示す研究はなかった。
B風車騒音とアノイアンスとの関連は認められたが、視認性やその他の要因が間に介在している可能性があり、その因果関係については評価が困難であった。 被害の肯定的事実に関しては否定的可能性を提示する。
C同じく、風車騒音と睡眠障害との関連は認められたが、その因果関係を示す明らかな根拠はなかった
Dアノイアンス及び睡眠障害を起こしうる音圧レベル(閾値)を決定しうる明かな根拠は存在しなかった。様々な個人要因が個人の感受性の違いを生ずる可能性があることが確認された。 これらこそ調査の根幹であるはずだが、「個人要因が個人の感受性の違いを生ずる可能性」何てことは素人でも既に述べている。
E動物実験では、心臓の細胞における変化等を示した研究もあるが、それらはいずれも極めて高いレベルの暴露によるものであり、現実の風車による騒音暴露のリスク評価の用いる根拠としては妥当性に乏しいものであった。 「それだけの影響が有る」と考えれば”妥当性豊か”になるのではないか。
F以上のように、これまでの調査・研究において風車騒音と健康影響との因果関係を示す科学的根拠はないと判断された。風車騒音と、アノイアンス及び睡眠障害との関連は示唆されるため、これらが慢性的に惹起されることによるストレスら何らかの健康影響が生ずることは、否定はできない。ただし、現時点においてそのような健康影響の有無を評価した信頼に足る研究の発表はなかった 「風車騒音と健康影響との因果関係を示す科学的根拠」は「信頼に足る研究」としないのであるから、そもそもにおいて、当初から”文献レビュー”の対象から排除されているのであるから「無い」のが当たり前であろう。
第 6 章 風車騒音の影響評価手法の提案
6.1 はじめに
6.2 風車騒音の影響評価における問題点
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6.2.1 環境基準の適用について 「基準や目標」については、国内で実際に行われた環境影響評価で、環境基準が受忍限度や基礎指針のように使用されている事例がある。このような用いられ方は、環境基準の性質ないし趣旨からして適切でない。一般に、風力発電施設の設置地域は極めて静穏な地域で類型指定がなされてない地域であるが、既存の風力発電施設の環境影響評価においては、類型指定のない地域に環境基準値を準用したり、さらにはA /B 類型の基準値までの排出が許容されるとする考え方を取っているケースも見受けられる。こうした考え方は不適切であり、現在良好で静穏な状況である場合には、原則として引き続きその環境を維持するように努めるべきである。
6.3 風車騒音の影響評価手法設定のための検討事項
6.3.2 我が国で取るべき評価手法
(4)セットバック距離を設定する方法」は考え方としては分かりやすいが、 実際には距離だけでなく、 地形や気象条件などによって騒音の伝搬特性はきわめて複雑に変化する。 また、 風車が複数設置される場合には、 単純な距離減衰は期待できない。 我が国の 「環境影響評価法」 において第一種事業として規定された1 kW を越える発電規模の風力発電施設では、数百m程度のセットバック距離では、環境影響評価手続における合意形成は困難と考えられる。
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風力発電施設が建設される地域は元来静穏な地域(農山村部などで、残留騒音(調査方法は後述する。)が騒音レベルで30dBあるいはそれ以下)が多く、そのような地域に住居が散在している環境を前提として風車騒音の目標値を検討することが適当である。 こうした前提ははじめてではないか。
6.4.3
評価量
風車騒音では超低周波音及び低周波数騒音の影響が話題となっている。この問題に関しては、国際的にも関心が高く、多くの研究が行われているが、平成23年度報告書でも紹介したとおり、アメリカ、カナダ及びオーストラリアなどで行われた専門家パネルによる文献調査の結果によれば、風車騒音がアノイアンスの原因となり、それが睡眠妨害、健康影響を惹起する可能性はあるが、低周波数の成分が健康に直接的な影響を与えるという科学的証拠は見出されていないとしている。
現段階ではヒトへの影響が明白であり、適切かつ効果的な措置を講ずべき可聴性の騒音に対する対策に重点を置くべきである。そのための風車騒音の評価量としては、騒音レベル(A特性音圧レベル)を採用するのが適当である。
6.4.4
時間区分
環境省戦略指定研究で行われた社会反応調査の結果でも、 夜間の睡眠に対する影響が大きな問題であることが示されている。 一般に夜間は交通騒音など周囲の暗騒音が低くなり、 その中で振幅変調音を伴う風車の稼働音が気になって睡眠に影響を与えることが最も大きな問題であると考えられる。
6.4.5
地域区分
現在良好で静穏な地域において風力発電施設の設置が計画される場合を主たる対象とすることが適当である。 現在既に風力発電施設が設置され「良好でなく静穏でない地域」は対象とならないと言うことであろう
6.4.6
振幅変調音の扱い方
風車のブレードの回転によって音圧が規則的に変動する振幅変調音は、最近の大型風車では1秒前後の周期で発生する。その一例を図6 -1に示す。この音はきわめて気になる音であるため、風車騒音によるアノイアンスを高めている最大の原因と考えられ、ニュージーランドなどの基準では、発生が認められた場合にペナルティを考慮することが規定されている。しかし、振幅変調音は風車騒音では必然的に生じる音であるため、あらかじめその影響を含めて影響評価を行うべきである。 住宅からこれが聞こえる様な場所に風車を造ると負うこと自体は問題以前の問題である。
第 7 章 環境影響評価における調査、予測及び評価の手法
7.1 これまでの国内における環境影響評価事例について
7.2 調査手法
7.3 予測手法
7.4 評価手法
7.5 事後調査の手法81
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第8章終章
8.1 まとめ
8.1.1 最新の研究等の収集・整理
現在、国内外で進められている予測及び評価手法の調査・研究の情報について収集・整理を行った。環境省戦略指定研究「風力発電等による低周波音の人への影響評価に関する研究」では、以下のことが明らかにされている。

@風車騒音には超低周波音あるいはそれに近い低周波数の成分も含まれているが、一般的な風車騒音ではこれらの低周波数成分そのものは感覚閾値以下である
Aしかし、風力発電施設が建設されるのは本来静穏な地域が多く、風車騒音は可聴性の騒音として深刻な問題である。特に規則的に変動する振幅変調音(swish音)や純音性の成分が近隣住民のアノイアンスを高めていると考えられる。
B風車騒音は夜間など地域の暗騒音が低い時に気になり、睡眠影響などの原因となりやすい。ひいては、それが健康に影響を及ぼす可能性がある。
C風車騒音の評価量としては、一般環境騒音の評価に広く用いられているA特性音圧レベル(騒音レベル)が適用できる

その他、騒音予測手法の開発として、環境省地球温暖化対策技術開発事業「騒音を回避・最小化した風力発電に関する技術開発」及びN EDO「次世代風力発電技術研究開発」が行われているが、いずれもフィールドにおけるデータ蓄積やこれに伴うシステムの見直し、事業者等が使えるようなプラットホームの整備等が必要とされている。
また、国内における過去の低周波音に関する研究について整理を行い、計測・伝搬・影響・評価の各項目について知見を整理した。
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8.1.4 目標値の設定についての検討 前節に示した結果を基に「目標値」の検討を行った。この値は、風力発電施設を設置する際、騒音による影響を予防するために、「事業者が最低限守るべき目標値として推奨する値」と定義づけし、騒音レベル(A特性音圧レベル)で35d Bを提案する。

提案した目標値の概要については、以下のとおりである。・対象とする音 :風力発電施設から発生する音(風車騒音)

・評価対象とする場所:風力発電施設周辺の民家等(屋外
・評価値 :騒音レベル(A特性音圧レベル)で35 dB
・時間区分 :なし(終日
・対象地域 :設定しない
8.2 今後の課題
8.2.1 今後における新たな知見による目標値の見直しの必要性
本業務においては、風車騒音の影響について現時点で得られる研究並びに基準等の情報を収集し、当面の行政的取り組みとして環境影響評価における目標値を設定した。しかし、風車騒音の影響はきわめて複雑であり、今後の医学(疫学、病理学)、聴覚、社会心理学的な研究の進展に期待するところが多い。これらの研究の進展に応じて、また環境影響評価の経緯を慎重に見守りながら、本業務で提案した目標値並びに環境影響評価の進め方について、必要に応じて見直していくことが重要である。 97
用語解説(i) 可聴周波数 正常な聴力をもつヒトが聞くことができる周波数で、ほぼ20 Hz〜20kHzとされている。
3音響関連 A特性 種々の周波数成分を含む音に対してヒ トが感じる音の大きさの感覚を評価するための周波数重みづけ特性の一つで、 比較的小さな音の評価のための特性として提案されたが、現在では各種の騒音の大きさを評価するための特性として広く用いられている。 JIS 1509-1 によって特性が規定されている (図1参照)。
アノイアンス アノイアンス (annoyance) とは、 明確な定義は容易でないが、自らに悪影響を与えていると考え、 認知している要因や状態に関する不快な感情と一般には訳されている。 また、日本語としては、 「うるささ」という言葉をあてることが多いが、個人が妨害を被ったと認識する影響と定義する場合もあり、妨害もしくは迷惑としてとらえられるもので、騒音による不快感の総称ともいえる。 騒音そのものによる不快感と騒音に付随して生じる不快感を包含するもので、騒音、個人的要因、音源に対する態度などの影響とともに、これらの要因による生活妨害等の直接影響に関わるものととらえられている。 騒音は感覚公害であることから、基準の検討で基本的事項として調査されている。
振幅変調音 風車のブレードの回転に伴って発生する騒音で、振幅が規則的に変動する音。 シューッ、シューッというように聞こえることから英語ではswish soundなどと呼ばれている。その変動のしかたは風向、風速によって異なるが、変動周期は風車の回転周期をブレー ドの数(通常は3) で割った時間に相当する。
エビデンス 科学的根拠と訳される。 その根拠の強さの程度をエビデンスレベルといい、 研究方法やその質によって決定される。疫学研究ではバイアスの入り込む余地がないものほどエビデンスレベルが高い、 すなわち、 科学的根拠として強い。