第25話 学都、崩壊
「リハー。門に、お客が来てるぞ」
寮長の呼び出しに、首を傾げる。朝早くから、誰だろう。ハングが自分から誘いに来るのは稀だし、ブライアンは朝に弱い。わざわざ最高等学部の男子寮に迎えに来る知り合いなど、いただろうか。
疑問符を飛ばしながら門へと向かい、待ち人の姿を見て驚いた。
「ルエルちゃんっ」
こんなことなら、せめて寝癖を直すのにもっと気合を入れるべきだった、と後悔する。
「こんな朝早くに、どうしたの?」
後ろからのからかいの声は聞こえない振りをして、ルエルの肩を軽く押して、寮の敷地外に出る。
「うん。ちょっと、リハ君の顔が見たくなって」
一緒に朝の散歩ができるだけでも嬉しいのに、この役得はどうしたことだろう。今日は、吉日だろうか。
飛び上がるような気分で歩いたのも、10歩ほどのことだった。隣りを歩くルエルは、顔が見たかったと言ったわりには俯き加減で、いつものお喋りな口も閉ざしてしまっている。
「ルエルちゃん、何かあった?」
「え?」
立ち止まって尋ねると、彼女は一瞬だけ怯んだような顔をした。
「ううん、何でもないよ」
笑う彼女は、今にも泣き出しそうに見えた。こうして自分に会いに来ておいて、何も無いはないだろう。兄のようなハングではなく、保護者代わりのブライアンでもなく、自分の所に来てくれたことは嬉しい。しかし、最後には我慢してしまう彼女の性格が切ない。手を伸ばせば届く距離かもしれないが、無理強いはしたくなかった。
「そっか。あ、ルエルちゃんは、もう朝食食べた?俺、まだなんだ。この先にうまい軽食屋があるから、よかったら一緒に行かない?」
できるだけ明るく言って、彼女に背を向けた時だった。右手が、後ろに引かれる。ルエルの両手が、手首をしっかりと掴んでいた。
「ルエルちゃ」
振り返ると同時に、胸に彼女が飛び込んでくる。思わず抱き締めるが、雰囲気的に役得などと言っていられない。
「……くれる?」
くぐもった声で、うまく耳に拾えない。ルエルの背中をあやすように軽い力で叩きながらも、細い肩に顔を埋めた。身長差があり辛い体制だが、声は聞き取りやすい。
「リハ君」
「うん」
「何があっても、ハング君の傍にいてくれる?」
「うん」
「私の傍に、いてくれる?」
強くはないが、切実に訴えるような声音だった。
「もちろんだよ」
背に回ったルエルの手に、力が入った。少々痛かったが、そのままにしておく。
「リハ君は、覚えてるかな?なんか、出会った時みたいだね」
「そりゃ、覚えてるよ。驚いたから」
カメラ代を稼ぐために働いていた喫茶店で出会った時が、ちょうどこんな感じだった。占いの結果で不安定な状態に陥った彼女は、近くにいたサエリハに抱きついたのだ。今回も、占いの結果が良くなかったのかもしれない。数日前から不安がっていたわけだし。
ルエルが離れようとしたため、素直に力を抜いてやる。彼女は、照れたように笑っていた。
「えへへ、元気出た」
晴れやかではないが、さっきほど憂えてもいない様子に安堵する。
「それじゃ、もう行くね。朝ご飯は、また今度一緒に行こうね」
髪とスカートを翻らせて、羽を背負わない天使は走っていく。朝日を受けて、後ろ姿が輝いて見えた。
◆◆◆
「あれ?ルエルちゃんは、いないんですか?」
ハイエロファントの教授室に顔を覗かせに来たサエリハは、開口1番にそう言った。
「ええ。なんでも、友達と警備員のパレードを見に行くことになったそうですよ。来れそうなら、後でこっちにも顔を覗かせる、ということでしたが」
ハングが、小型の電話機を振りながら答える。片手にすっぽりと収まってしまう薄っぺらい機械で、離れた相手と話ができるという優れものだ。学都から離れてしまうと聞きづらいとのことだが、セウスには充分便利だと思えてしまう。
ハングとルエルが会話をしていた時は、とても驚いたのだ。「何を独り言を言ってるんだ?」と、つい呆れた目で見てしまい、機嫌を少し損ねたハングが機械を手渡してきた。耳に近づけると確かにルエルの声が聞こえたので、信じがたいが事実そういった機械まで存在しているのだと納得はいった。
「へー、そっか。残念だな」
言うほど、残念そうには見えない。常なら大騒ぎするルエル馬鹿は、完全に成りを潜めている。目を丸くし、意外だと言わんばかりの表情だけを浮かべていた。
「珍しいですね。いつもなら、大騒ぎするでしょう」
ハングも、拍子抜けしたといった感じだ。どこか寂しいものがあるらしい。
「んー、ああ。今日は、朝に1回会ってるからさ」
「朝に?」
「ああ。その時は、パレード見に行くなんて言ってなかったんだけどなー」
「その時点では、見に行くつもりが無かったんでしょう。急に決まったと、電話でも言ってましたよ」
小首を傾げるハングに、サエリハは唸りながら頬を掻く。
「そうなんだろうけどさ。今日は、ちょっと様子が」
突然鳴り出した空砲によって、サエリハの言葉が途中から聞こえなかった。警備員によるパレードの始まりの合図だ。まるで予期していなかったセウス達は、揃って肩を竦めた。ルージュなど、滅多に上げない悲鳴を上げている。
前夜祭の時とは違い、中央部の購買地区を囲むようにして走る環状線を警備員達は歩くのだ。それがまさか、門の近くで空砲が上がるとは思ってもみなかった。ハイエロファントの教授室は、北西門から割りと近い場所にある。耳の良いルージュは、たまったものではないだろう。
「いやー、毎回すごい音だね」
慣れているはずのハイエロファントまで苦笑している。カエサルがパレードに借り出されているため、彼は前夜祭の時と同様に、自分の屋敷か教授室にいなければならない。
今回は警備員が数名残って各教授棟に配置されているため、多くの教授はハイエロファントのように教授室で待機している。ブライアンも、今日は生物学部の仲間と教授室に篭るらしい。とは言え、飲み会に変わりはないだろうが。
空砲が止み、サエリハが南向きの窓を開ける。冬の到来を感じさせる冷たい風が、頬を撫でた。高い位置にいることもあり、地上よりも若干温度が低いのだろう。それと同時に、管楽器の音が伝わってくる。時折、太鼓の音もした。
「ここからでも、よく聴こえるんですね」
「そうだね。校舎のおかげで様子は分からないけど、たいしたもんだね」
窓を開け放しにしたまま、音に魅入る。前夜祭とは違った選曲になっているようだ。前夜祭は太鼓の音が中心で、こちらの向上心まで沸き立たせるようなものばかりだった。今演奏されているものは管楽器中心で、明るい曲に混じって落ち着いた旋律を奏でる部分がある。かと思えば、曲がりくねる川のような独特な音楽に変わった。
「天に流れる白銀を肴に踊り歌いて千夜の道を思わん」
突然歌いだしたサエリハを見ると、白い歯を見せて笑った。浅黒い肌のためか、口を開くとよく目立つ。
「俺の故郷の歌なんだ。元は流浪して、交易と歌舞を行っていた民族らしくてさ。曲も、ここらじゃ聞き覚えない感じだろ?」
「私の伯父にリハ君と同郷の人がいたけど、やはり口調や容姿は独特だったんだよ。流浪の民なら、納得だよね」
ハイエロファントの言葉に、素直に頷く。王都出身のセウスもそうだが、村の人にも浅黒い肌の人はいなかった。どれだけ焼けた人間でも、サエリハの肌の色とは違うのだ。ましてや金の眼をした人物など、サエリハに会うまで見たことが無かった。
「5日目に行われるパレードでは、主に民謡や童謡が演奏されるんです。学都生まれという人も小等部に少なからずいるんですが、大多数は地方出身ですからね。カエサルさんが警備員に加わってからは、東国の曲も演奏されるようになったそうですよ」
ハングの解説に、なるほどと思う。学都自体に古い歴史があるわけではない。中央区に住み込みで働く者ならまだしも、学生がそのまま居ついてしまう事例は少なそうだ。彼等の多くはサエリハのように希望を持って学都に入っているので、時期が来れば夢を実現させるため故郷へと帰っていく。警備員になるために学都に戻ってきたカエサルは、異例と言っても良いだろう。それにセウスの知り合いは全員、学都の出身ではない。サエリハとアリスは東国、ブライアンとルエルは王都、サエリハは南東の村。ハングとハイエロファントは知らないが、容姿からして学都より南寄りの地域の出と見て間違いないだろう。自治領主の孫であるフルールも、実家はハミット島にあるのだ。
サエリハの鼻歌が混じった演奏が終わると、今度は懐かしい音が流れ始めた。今の家に引き取られた頃、養父さんが聞かせてくれた歌だった。
「青い空の下で今君は何を思う」
「次に来る雨の怖さか宵の中の孤独か」
つい口ずさむと、ハイエロファントと声が重なった。目を向けると、彼は微笑んでいる。
「南方からハミット島にかけて伝わる歌だね。私は南方の出だけど、セウス君が知っているとは思わなかったよ」
「よく養父さんが歌ってくれたんです。両親を亡くした俺を励ますために」
困難に立ちすくんだ少年が、自然や動物に励まされ、夢に向かって生きていくという歌だ。養父さんにとっては、慰めるという意味合いももちろんあったが、傍に支えがあることを教えてくれもしたのだろう。実際に、養父母にかなりの部分を支えられて、今の自分がいる。
「そう言えば。この歌って、この間聞かせてもらった童話によく似てますね」
数日前、ハイエロファントがカナに読んで聞かせた童話のことだ。あれも1人の少年が動物と友人になり、助け合いながら困難を乗り越えていく、といったものだった。
「ああ、そうかもしれないね。作者が長い間、ハミット島に住んでいた人だったからね」
「へー、そうだったんですか」
「そうだったも何も、少し前に授業で取り扱ったばかりじゃないですか」
ハングに白い目を向けられ、サエリハは「そうだったっけ?」と笑っている。その様子に、ハイエロファントは苦笑を浮かべた。記者になりたい彼は、文法などは一所懸命なのだろうが、こと童話などの類は苦手らしい。記事によっては幅広い知識を持っているに越したことはないと思うが、本人はあまり覚える気はないようだ。
「作者は、ホイールという人だよ。島の名前にもなった、ハミット卿の息子さんだ。元々、『空』シリーズなんかで有名な作家だったんだけどね。生命科学でのごたごたに巻き込まれた数年後、彼は関係者に息子が生まれたのを機に、1作の童話を書いたんだよ」
サエリハが、小さく声を上げる。
「『空』シリーズなら、読んだことありますよ。文章が硬いから童話作家でもあるって言うと違和感がありますが、同じ冒険譚なのは納得です」
「様々な文体が書けるからこそ、違和感にも繋がるかもしれないね。他にも色々な作品があるから、読んでみるとリハ君の身になると思うよ」
ハイエロファントが、さり気なくサエリハに読書を勧める。彼は何度も頷いた。記者になるという情熱は、本物なのだろう。
一方で、セウスはサエリハとは違うところに着眼点を置いた。元から文体などはよく分からない、ということもあるが。
「じゃ、あの童話って、元は1人の少年のために書かれたってことですか?」
「んー、まあ、そうとも取れる、かな」
珍しくハイエロファントの歯切れが悪い。さすがに教授も、作家の感情までは分からないところがあるのだろう。
「その子は、どんな風に成長したんでしょうね」
少なくとも、セウスが生まれる以前に書かれた作品だ。もう、いい歳になっているはずだった。彼は、主人公のように助け合いながらも夢に向かって歩いただろうか。
「そうだな。カナ君みたいな子かな」
珍しくも、と言うべきか。明らかに年齢を考慮していないハイエロファントの発言に、カナが目を瞬かせている。先からおとなしかったのは、両手に持ったベリーパイのおかげだ。昨日ハングが獲得したブルーベリーティーセットの中に、お茶請けの一つとして入っていたものだ。呆気に取られつつも、口は動いている。頬を膨らませ、冬眠前の小動物さながらだ。
「食い意地が張ってるってことですか?」
「いや、そんなつもりは無かったんだけど」
サエリハとハイエロファントの会話に、話題の張本人は首を傾げている。ますます小動物の様子に近付いた。
「ただ、動物好きな人間になっていたら良いな、と」
特に考えも無く発された言葉は、読者からの素直な感想論から来たものだったらしい。セウスも、それには賛同する。
「動物好きか。意外と、ハングみたいな奴かもな」
「えっ」
サエリハの言葉に、ハングは必要以上に驚いている。腕の中には、しっかりとルージュが抱えられていた。カナの両手が塞がっているからというのもあるだろうが、昨日の1件からルージュもハングに懐いているように見える。
『うん。ハングは、動物好きだと思うよ』
喉を撫でてもらいながら、気持ち良さそうにルージュは鳴いた。訳せば天邪鬼なハングのこと、慌てて否定したうえ、ルージュを落としかねないので言わないが。
「これで、ブライアン教授みたいになってたら嫌だよなー」
「確かに」
サエリハの言葉を、思わず肯定してしまった。もちろん、ブライアンが良い人だということは分かっている。それでも、大酒飲みで酒癖が悪いというのは大きな欠点だと言えた。今頃、生物学部教授棟は大変なことになっているだろう。
会話している合間にも、次の曲が流れ始めた。静かな流れの中に、哀愁が漂っている。
「これ。もしかして、王都の曲ですか?」
聞き覚えはあるが微かな記憶過ぎて、手繰り寄せるのに主旋律を長い時間聴かなければならなかった。ほとんどを研究所で過ごしたとはいえ、王都出身の自分でもこんな感じなのだ。無論、サエリハが分かるはずがない。せいぜいカナが頷く程度だと思っていたのだが。
「マグノリア王女の追悼歌、ですね」
意外なところから、答えが返ってきたことに驚く。
「知ってるのか、ハング?」
「知っていると言っても、セウスさんと大差ありませんよ。昨日、出題されなかったのは幸いでしたね」
今聴こえている曲が流されていたら、全問正解という快挙は無かったのだ。音楽は、彼の数少ない弱点なのかもしれない。
「たしか没年がはっきりとしない王女マグノリアに捧げられた曲のはずですが、題名が出てきません」
公に姿を見せなくなってから数年後、人々の間には彼女が大病を患っているという噂が実しやかに流れた。それが次第に、彼女はもう亡くなったのだという説に至った。彼女が密葬にされたのは現王よりも人気があるからだ、という尾ひれまで付く有様だった。やがて彼女の支持者だった1人の詩人が歌を作り、あっと言う間に王都に広まったのだ。意外と長い曲だが、題名を知る人が当時の王都の住民にどれだけいたかも怪しい。現に、セウスが研究員から聞いたのは歌のみで、題名など1文字として耳にしたことがなかった。
「意外に、ピエロだったら知ってるかもしれないよ?」
食べ終わったカナが、指を舐めながら言った。口の周りは、パイの皮だらけになっている。
「王族を目の敵にしてるみたいだから」
「王族を?」
凛としたピエロの姿を思い出す。また、偉い人物を敵視したものだ。自信満々な彼女は、気負ったところなどまるで感じられなかった。心配する方が、かえって失礼に値するかもしれない。
布を塗らしたハイエロファントが、カナの顔と手を拭いてやる。耳鳴りがするような高く大きな音が響いたのは、その時だった。
「な、なんだっ?」
「スピーカーです。これが使われるのは、よほどの緊急事態ですが」
セウスの村には拡声器を用いた村内放送があるので、これは飲み込めた。学都でも、1番手っ取り早い伝達方法は公共用のスピーカーなのだ。一斉に窓の外を見た時、ここ数日で聞き慣れてしまった声が流れ出した。
『学都中央区より緊急のお知らせがあります』
「ルエルちゃんっ」
確かに彼女の声なのだが、常にある明るさは無く、焦っているのか早口だった。
『4分後、放送局近くで大爆発の危険あり。環状線より内側にいる人は、至急退避してください』
尋常でない報告に、顔を見合わせる。全員の表情が硬かった。内容が頭に素直に入ることを拒絶しているが、真実を告げていることだけは分かる。数日前から様子がおかしかったルエル。その要因は、ここにあったのだ。
『繰り返します。2分後、放送局近くで大爆発の危険あり。環状線より内側にいる人は、至急退避してください』
「ルエルちゃんは、どこだっ?」
窓から身を乗り出していたサエリハが、振り返ってハングに尋ねる。
「この放送を流せるのは、放送局以外に有り得ませんっ」
教授棟は外円の壁に近いところにある。学都は正円状だから、中央区から最も遠い場所にいるということだ。今から走ったのでは、とても間に合わない。それでもサエリハとハングが走り出そうとした時だった。
『逃げてーっ』
ルエルの悲痛な叫びの数秒後、大きな爆発音が起こった。
「ルエルッ」
再び窓の外を見るが、校舎が邪魔をして様子が分からない。ただ、煙が立ち上っているのが、かろうじて見えた。
「俺、見てくるっ」
真っ先に我に返ったサエリハが1人、教授室を飛び出していった。ハングは窓の外を見たまま、固まっている。ハイエロファントは怖がるカナを抱き締めていた。
「俺も、見てきますっ」
居ても立ってもいられず、正気でいるらしい文学部教授に告げると、サエリハの後に続いた。教授室を出て左が昇降機、右が階段だ。今なら階段の方が速いだろう。数瞬で判断を下して、右の廊下を走る。階段に到達した時には、正解だと思った。下から足音が聞こえる。先行しているサエリハのものだと判断した。
しかし、1段目に足を掛けて、階下の様子がおかしいことに気付いた。足音が、一つだけではない。他の教授が同じように飛び出したのかという推測は、間違いだった。その足音は、徐々にセウスの方へ近付いている。
「なんだ、おまえらっ」
サエリハの抗議の声が、決定的なものだった。手すりから身を乗り出して下を覗きこむと、サエリハが1組の男女に後ろ手に捕まっているのが見えた。女性が、顔を上げる。
「アーベル?」
サエリハを楽に捕まえているのは、アーベルに間違いなかった。信じられないものを見た気がした。研究所に閉じ込められているのではなかっただろうか。
「セウスさん」
茶色の瞳が揺れる。今にも泣き出しそうな、悲痛な表情。彼女も本意ではないのだろう。
しかし、止めるように声を掛ける前に、男が顔を上げた。
「アーベルの知り合い?」
黒髪に、茶色の瞳。どことなくだが、笑うと未来視を持つ少女の面影があった。ただし、彼女よりも5歳は上だと思われる。
「ちょうど良かった。君も、僕達に付き合ってもらおう」
3人が、階段を上がってくる。サエリハの背に突きつけられた銃の存在に気付き、抵抗するわけにもいかなくなった。
「悪い」
横に並んだサエリハが小声で呟いたので、首を横に振った。いくら手薄だとは言え、2人で楽に警備を抜けられるとは誰も予想していなかっただろう。
教授室までの廊下が、とても長く感じられた。