”科学的”知見の欺瞞

静音化、低騒音そして参照値


"エコキュートは本当に経済的で静かなのか"

 歳のせいか年々時の過ぎるのが早くなっている様な気がする、このところの世の動きの激しさを考えるとどうもそれだけでもなさそうで、時間の密度が濃くなっているような気がする。もちろんこれからもっと動きの激し時代になるのかもしれない。だが、地球全体の事を考えたら欧州的に流行りつつあるスローライフが良いのは決まっている。少なくとも日本的なハードさは最早日本には適さないのであろう。

 日本の行政システムに於いては、長期にわたる”綻び”が一気に一般人にも良く見えるようになってきたこの頃である。その綻びを役人がもう一度上手く繕うことができるかどうかは分からないが、まー、綻びもここまで大きくなるとそう簡単には繕えないだろう。政府が普通のモノだったら既に買い換えて、焼却処分してしまいたいところだが、適当な品が他にはなかなか見つからないので嫌々仕方なく使っているような気分である。この際一気にペースを落とすのはどうだろうか。

 直近問題の、米国産牛肉問題、ライブドア事件、耐震強度偽装、談合事件、…など、これだけ色々の問題が見事に揃うことはそうそう無かろう。これらはいずれも構造的、組織的な問題であり、どの事件をとっても近いうちに何冊も本になりそうな題材ばかりである。

 一方こんなところでどうして、何でと言うような場所で簡単に殺人事件が起こるようになってしまった。その一つの原因は金銭だ。富の分配は明らかに2極分化しているようで、犯罪は全国に点状に広がっている。これがいずれ免状となるのであろうか。特別な人間の特殊な事件として放置しておくには事件が増えすぎてきた。

 キレル子ども、キレル若者、そしてキレル大人、先日のTVでは老人こそ一番キレやすいと言う実験をしていたが、確かに自分のことを考えても、考え方や生活が硬直化し、精神の耐性の無くなった老人こそ一番キレやすいと思わざるを得ない。

 これから団塊世代の多くが世間に野放しになり、キレやすい老人が一気に増えることになる。我ながら最近キレやすくなっているなーと思っていたところだ。ただ一つの救いは既に以前からキレていたので、キレたらどうなるかをおよそ知っているので若干コントロールできると言うことであろうか。
 しかし、一方、まー、どうでもいいや。この後そんなに良いこともありそうもないから、という気持ちもある。年代は違ってもキレタ人たちの何人かは同じ様な気持ちを持っていたのではなかろうか。
それを諦観とも悟りとも言うのであろう。

 事件が起きると「心のケア」などと言われるが、本当にケアが行われているのだろうか。人間の「心」を個々に描くことは難しいと言うより不可能なのではなかろうか。結局はマスコミ的、法的に一律的に描くことになる。それでは事件は繰り返す事になるのであろう。

 そんな中で何時までも低周波音問題ではあるまいと考えないではないが、人間一般というと語弊があるので、私自身に限定するが、私という人間は、愚かでしつこいモノで、自分の身近で具体的に起きた事件に対しては特にしつこく考えを巡らす。特に当事者であれば「問題」は、その後遺的症状がある場合にはなおさらしつこく「常にその問題は問題」であり、置かれた状況が形而下であるが故に、時としては形而上学的にならザルを得ないのである。

 事件が関係者にまとまりがあり、マスコミが積極的に採り上げるようになり、多くの人が語るようになれば、実は或る意味問題は半ば解決したことになる。もちろん結果は別としてではあるが。その時には私は敢えて語る必要などはなかろう。と言うことで、今はまだまだあいもしつこく低周波音問題について考えている私である。


1.低周波音

1−1 ゾウと低周波音


 そんな折り、低周波音に興味を持つ者にとっては好企画の番組「ダーウィンが来た!生きもの新伝説 第8回 アフリカゾウがしゃべった!」が06/5/28(19:3020:00)NHKで放送された。

 「アフリカの広大なサバンナにくらすアフリカゾウは、最近の研究で、人間にはほとんど聞こえない超低周波音を使い、まるで人間のような細やかな会話をしていることがわかってきました。食べ物や水が少なくなる乾期になると、群れは巧みに超低周波音を使うことで、ライオンなどの敵から身を守ります。」と言う内容である。

 象が低周波音で会話していると言うことはこの番組にも出演しているジョイス・プール博士の研究により解明されていたのだが、奇しくもその事実が04/12/26に発生したインドネシア(スマトラ島沖)の地震・津波の際に実証されることとなった。

05/01/03の朝日新聞に依れば

津波直前、ゾウが観光客乗せ高台に タイ南部で難逃れる

 タイ南部のリゾート地カオラックで先月26日、観光用のゾウが、津波が来る直前に高台に向かって走り出し、背中に乗っていた観光客十数人が結果的に難を逃れたことが分かった。ロイター通信が伝えた。

 カオラックの海岸で8頭のゾウを使うダンさん(36)によると、ゾウは地震が起きた午前8時ごろに鳴き声をあげた。「こんな鳴き方は聞いたことがない」とダンさんは驚いた。1時間余り後、ゾウは再び興奮し、背中に観光客を乗せたまま近くの丘に向かって突進。なだめようと追いかけるうち、津波が海岸を襲うのが見えた。ダンさんの指示で、ゾウは、逃げまどう観光客を一人、二人と鼻で拾い上げて背に乗せたという。カオラックの浜辺には当時3800人の観光客らがいたが、ほとんどが波にのまれたという。
 また、近くの北ラノーン県沿岸では、津波の直前、草を食べていた100頭余りの水牛が一斉に海の方を見て、高台に走り始めた。追いかけた村人たちは、「おかげでかすり傷ひとつなかった」と話しているという。 (05/01/03)


1−2.地震と低周波音

 中学校の理科で学習したことをご記憶かと思うが、地震波にはP(縦波 毎秒約6kmの速度)とS(横波 毎秒3.5km)があり、分速にすると、S波は分速360kmP波は210kmとなる。この差が初期微動時間となり震源までの距離の概算ができる。ちなみにカオラックと震源とはおよそ500kmの距離にあるので、P波は1.4分、S波は2.4分で到着することになり、その差は約1分となる。

 1分間という時間は計っていればそれなりに長い時間であるが、意識しなければ無いに等しいような時間である。従って、「地震が起きた午前8時ごろ」というのは時計でも見ていなければその差は感じないであろう。象はこのS波を1分前に超低周波振動を感知したと言うことであろう。

 「1時間余り後、ゾウは再び興奮し」というのは、「津波はジェット機並みのスピード(時速約700km)で進む」そうで、到達までの時間は計算上50分前後と言うことになる。この時は津波の押し寄せる音か振動、あるいはその両者を感知し、その異常さから危機を直感し、繋がれている鎖を千切ってまで逃げたのであろう。この音は水牛にも聞こえたのであろう。

 人間はこの超低周波音を感ずることもなく、もちろん聞こえず、「ビーチには外国人観光客ら少なくとも3,800人がいたが、逃げ遅れ、津波にのみ込まれた」そうだ。


.超低周波音?

2−1.釜山「竜頭山公園」

 03/08/24「3泊4日釜山・慶州の旅」に出かけた。釜山市内観光のお決まりのスポットの一つであるらしい、「竜頭山公園」を訪れた。ここは、釜山市中央部にある海抜49mの小高い丘全体が公園となっている。そこに海抜118mの釜山タワーがあり、市街地と港を一望(写真)にできる。

 タワーに昇った後、ここの公園で出発までの時間調整でブラブラしていた。その時、突然、周りの空気全体から湧き上がる異様な「ドワーーーー」という音というより、突然だったので、むしろ英語で言う「something」の「音の雰囲気」を感じた。一瞬、山鳴りか地崩れか地震かと不安を感じた。最初は全体の空気の「感じ」だったが、その「感じの塊」は西の方から徐々に明確に音に近いモノとしてはっきりとしてきた。しかし、ある一定以上の大きな音となることはなく、足下から山全体に響きわたり、東に遠ざかった。

 後でガイドブックで見てみると「竜頭山公園」の南の麓を地下鉄が通っていた。釜山タワーより南面

 竜頭山公園から見ると釜山の街全体は海に向かって開けていて、周りは山に囲まれ、かなり急な斜面にも高層住宅が造られている。多分、地質的には土砂崩れなどは大丈夫なのであろう。
 公園自体は、市街地の中とはとても思えない静かな小山である。普通地下鉄が通っている様なところは都市部の市街地が多いので、真下に地下鉄が通っていてもその騒音は道路上では通過交通の騒音と振動に紛れてしまい、地下鉄の振動や音を格別に意識することは、私でもない。
 もしかしたらここは岩盤地質のため、沖積平野の上に築かれた日本の大都市とは違い、音の伝わり方が一層はっきりしたのかもしれない。

 思うに、私が体感したのは、地下鉄走行による、超低周波音を主成分とした低周波音でなかったのではなかろうか。この音の感覚は確かに音というより、むしろ昔使われていた「低周波空気振動」という言葉の方がピッタリである。

 ゾウが“聞いた”音は多分こんな種類の音だったのではなかろうか。もちろんアフリカの静かな環境であるからもっと小さな音でも聞くことはできるはずである。

 低周波空気振動を「体感」してみたいという物好きな“正常音感”の方はここを訪れてみてほしい。普通の観光に加えて珍しい体感を日常的に実感できるはずである。
 しかし、私が逃げようかどうしようかと焦っていた際に、私の横にいた妻は何も感じなかったそうだし、他の観光客もどこかに逃げようなどという雰囲気の人は見かけなかったので、「体感」したのは私だけだったのであろう。従って、もちろんどなたでも「体感」できると言うわけではない。

因みに横浜地下鉄事件での測定によれば、地下鉄通過時にみられたピーク値は「10Hz6263dB」だったそうであるから、横浜の静かな所で聞けば似たような体験ができかもしれない。ただ、地質条件も違うであろうから何とも言えない。


2−2.「低周波音不可聴者」は生き易い

 もし、あなたが竜頭山公園で何も空気振動を感じなかったとしても、それはあなたが単に「低周波音不可聴者」と言うだけで何ら問題はない。むしろ、あなたは苦渋に充ち満ちている今の世の中を、少なくとも、音に関しては苦しみのより少ない快適な暮らしができると言うことである。もしあなたが花粉症で苦しんでいるなら、花粉症になる前の状態を想像してみればよい

 感覚的に鈍感になることは、これからの世の中にとってはむしろ生き易さく、時代への適応力に優れていることであり、「感覚が鈍くなる」と言うことは、ある意味人間“進化”の現れかもしれない。しかし、津波や山崩れの際、それがあなたの命に関わるかどうかは別として、数秒かも知れないが「逃げ始める時間」が遅くなることは確かである。

 釜山は飛行機で1時間半という国内旅行並みの時間と国内旅行を下回るような旅費で行くことができる日本から行ける一番近い外国でもある。釜山を訪れる際には是非とも竜頭山公園で低周波空気振動を体感してみて頂きたい。

 では、これを感知できた私は山崩れや津波の際逃げられるであろうか。恐らく、「否」である。何故なら私にはどう考えてもゾウのように逃げ切れるような体力が無いからである。しかし、津波であれば、本能的に、近くのビルの2階に逃げるであろうし、山崩れなら這ってでも山とは反対側に逃げるであろう。


2−3.音カメラ

 話しがそれたが、番組ではゾウのサバナでの「会話」を、以前にも紹介したことのある「聞こえない音も見える!低周波音の映像化装置」と言う「音カメラ」で記録したモノである。実際にどんな風に見えるかはこちらの「取材ウラ日記」を参照。実際騒音源の特定が難しいような街中ではこんな風になるようである。音カメラの詳しい説明はこちら。
 都市部などで騒音源の特定が難しい場合には多いに威力を発揮しそうだと思うのだが、測定料が難点であろう。

 実際のゾウの「会話」は、近くでは最大60dB程度、周波数別では122436・・Hzが卓越しているそうだ。ちょうど地下鉄が足下を通過するときの音に近い。因みに他のデータではアフリカゾウの可聴域は1612,000Hzと言うことである。

 音圧数値的にはこの音は蓄熱系の室外機(エコキュートなど)の低い「ウーーーー」と言う音よりは大きいのではなかろうか。別の項で述べるが、室外機のこの「ウーーーー」と言う音が決して静かというわけではない。ゾウの会話は人間の会話と同じく長時間続くわけではない。しかし、室外機の「ウーーーー」と言う音は一晩中続くのである。

 話しは戻るが、ジョイス・プール博士にとっては近くで見ていても群れの中のどのゾウが低周波音を発しているかの特定は難しかったらしいが、これで「実際にどのゾウが音を発しているか」が解ったのが収穫だったようだ。 長年ゾウの近くで低周波音を聞いていてもかくも低周波音の発生源を確定することは難しいのである。
 “低周波音可聴者”の我々だったらある程度判るかもしれないが、ピンポイントで聞き分けるのは難しいであろう。是非とも一度野生のゾウに会いにアフリカに行ってみたいモノだが、暑いのにも寒いのにも極度に弱い私には難しいことである。


3.静音化

3−1.静音化がもたらすモノ

 最近の洗濯機、冷蔵庫を始めとする家電製品の“静音化”は節電と共に謳い文句になっている。特に、古めの洗濯機を使っている人にとってはその“静音化”は驚異的である。私自身購入当初、洗濯を始めても余りに静かなので、本当に動いているかどうか、置いてある場所へ行って思わず蓋を開けたくらいだ。低周波音をも含む騒音感知器のような私が言うのであるからこれは間違いない。一番煩いのが浴槽から残り湯をくみ上げる際の音なのである。しかし、これほど静かでも夜間になると家中に響き渡るような感じの音になる。昼間の騒音のマスキング効果はかくも大きいのである。

 しかし、「冷蔵庫の静音化」は絶対に頂けない。これは以前にも述べたかも知れないが、この静音化は常用電流50or60Hzの「ブーン」と言うコンプレッサーの騒音を、回転数を下げることにより、“人には聞き取りにくい”事になっている、「ドゥーン」と言う、25(or30)Hz、あるいはその半分の12.5(or15)Hzの「超低周波音」レベルに下げることにより達成されたモノである。
 結果、コンプレッサーの稼働時間が長くなり、我が家の“最近の”少し古い静音タイプではほとんど間無しコンプレッサーが低周波音を発して稼働している。音アレルギー者にとっては夜中は殊更に辛い音である。

 静音化は最近の新しい機器、「エコキュート」や「エコアイス」等にも見事に“実現”されている。これらの「環境に優しい自然冷媒のヒートポンプ・蓄熱システム」が「産官一体となった活動」により今後普及することを考えると、間違いなく新たなる低周波音被害者を生み出すであろうという確信を得ている。

 実際「エコキュート」が私の近辺の新築住宅にも設置され始めている。道路から観察と言うより“視聴”すると、確かに小さい音だが、24時間ブーンと低い唸り声を出している。ソーラーの蓄電か、蓄熱かの装置も同様なのだが、通りがかりの低周波音被害者にとっては非常に嫌な音である。もちろん実際に測定したわけではないので、数値的には解らないが、音源から10m離れると聞こえなくなる。逆に10m以内では聞こえると言うことである。当該の家にも隣家にも入ることができないので室内での長時間の具体的な感覚については未知であるが、あなたの家と隣家とは10m離れて居るであろうか。これらの設置に際しては、せめて「必ず道路に向けて設置すべきである」

 しかし、残念と言うより当然ながら機器設置業者はもちろん、建築業者、設計者などの建築関係者にはこういった「外部に発する騒音」の知識は皆無と言って良いようだ。もちろん素人の施主には知るよしもない。
 本来ならばこういった騒音源としての可能性が有るモノについては、騒音関係の専門家団体、即ち具体的には「日本騒音制御工学会」や低周波音関係の専門家達が「予防原則」として国交省などに働きかけ、建築基準法などに盛り込むことが望まれるのであるが、遺憾ながら日本の行政には「予防原則」という思想そのものが無い上に、“騒音業界”自体が騒音に苦しむ人が存在すること自体が「飯のタネ」であるから「望むべくもない希望」である。
 少なくともこの事実を知ったあなたは、隣家の新築や機器の変更時には必死に「予防的アドバイス」をする事を是非ともお薦めする


3−2.エコ機器の被害は既に始まっている


 などと、ノンビリしたことを言っている内に、既に現実に、非常に静かな住環境のため返って静かであるはずの「エコキュート」の“静かな騒音”の被害が2006年以降、頻繁に発生している事を聞いた。この件に関しては、耳慣れている被害者でも聴き分けが難しい程の”騒音”であったそうだ。

 先日、たまたま低周波騒音被害と言うことで私自身が訪れたお宅は、周りをビルに囲まれ、結果すり鉢の底のような状態になってしまった今となっては珍しい都心の戸建て住宅なので、既に必ずしも閑静とは言えない環境であった。

 そこにおじゃましている間中、玄関から入ってくる、100m程離れた三方の大通りからの絶えることのない自動車の通行騒音が私には非常に苦痛であったが、被害者は格別気にならない様であった。騒音は慣れることができるのだ。
 そんな人を「低周波音被害者」にしたのは狭い通りを挟んだ3階建てビルの屋上に設置された「エコアイス」の室外機の夜間の低周波騒音であった。
 被害者宅から外へ出るとどちらからも低周波騒音が降ってきて、騒音源と被害者が特定するところへ近づくとその音は聞こえなくなる。ビル同士で反射している可能性もある。確かに街中での騒音源の特定は難しい

 
 被害者は「ヤラレタ」後は、それまで気にならなかったアイドリング、夜間の人の話し声、空調の室外機など全てが苦痛となってしまい、やはり、鬱となってしまい、自殺まで何度も考えたという。その後も入院したり、転居したりしながらも、騒音源の測定調査の要求、アイドリングへの注意、大声の話し声の注意など積極的な行動をとるようになった。当に私と同じ音アレルギー患者である。
 患者がとる道は似らざるをえない。

 それまでの住環境は、室外機一つで“人”によっては音地獄に突き落とすことができる


.エコ

4−1.エコのエコ

 最近の静音仕様のエコ機器で騒音的に一番問題になりそうなのは、「エコキュート」「エコアイス」の他に「コジェネ」などであろう。ここからは専門家から見れば間違いがあるかと思うので詳細については各自で当たってもらいたいが、素人の私が一応一生懸命調べた範囲内でこれらについて述べてみる。

 いずれも「エコ」の観点から、夜間の電力(深夜電力or夜間電力があるがこれは契約状態により異なる)を利用する。
 まず、一般家庭用の「エコキュート」を見てみると、以前の「ヒーター式電気温水器」との最大の違いは、以前のモノは割安の深夜電力(深夜しか使えない)を使い沸かし、それを保温しておくだけのモノであった。従って、温水を使い切ったら終わりであった。
 「エコキュート」は温水を追加できるようになったが、追加分は文字通り追加で湧かすので湧き上がりに時間が掛かる。ガスで湯を沸かす場合と電気ポットで湯を沸かす場合を考えてみれば良い。ここが電気温水器の一番の泣き所。要は電気ポットの大型のようなモノであり、基本的には機器の稼働状況は深夜ではあるが、「無音」であり、騒音問題が起きるような可能性は無かった。これは、英国などの欧州スタイルの給湯システムと似たようなモノである。

 そのため欧州の古いホテルなどでは日本人旅行客が到着し一気にバスを使い始めるとお湯の出が悪くなり、二人目の時には不運にもお湯をが出ないという状況を経験した人もあろうが、それである。

 この従来のヒーター式電気温水器は設置に30万円くらい、新たな日本の“エコ”機器の設置には一般的なモノで60万円以上掛かる。しかし、流石に「国、電力会社、メーカーが三位一体となった活動」なので、設置に際しては、以前のソーラー発電と同じように補充金制度(5万円〜26万円)がある。一般家庭用では新築で5万円、リフォームで8万円である。詳しくは「財団法人ヒートポンプ・蓄熱センター」 を見ればいいのだが、これが非常にごちゃごちゃと述べている。


4−2 エコはエコか

 これらの機器は、深夜(およそ午後11〜午前7時)“こそ“稼働の時間であるが、エコキュートは昼間も”追加沸かし”を可能にするため割安な深夜電力が使える訳ではない。と言っても、その替わり、使用電気料金に関して割引がある。しかし、本当に割安になるかどうかは各家庭の使用状況に依る。その割安さは電力会社のHPでは「家族4人の一般的な家庭で、月平均1,000円程度というバツグンのコストパフォーマンスです」と謳っている。

 この”バツグン”を少し計算してみよう。単純に30万円の初期投資の差額を償却するには、1,000年→年12,000円。300,000円÷12,000円=25かかることになる。

 ここで、少し参考までに、経済効果の視点から減価償却費の点を考えてみる。減価償却は自分で確定申告などをしている自営業の人にはお馴染みであるが、「固定資産のうち、建物や、自動車、備品などは使っているうちに古くなるので、価値がだんだん下がっていくので、決算のとき、価値の下がった分だけ資産としての価値も下げていく」と言うモノで、一般的にはマイカーの下取り価格が年々下がっていく場合を考えてみればいい。
 因みにマイカーの場合どのくらいの期間で下取り価格は0円になるかと言うと、税法上の減価償却期間は6であるので、その後は資産的には無価値となる。実際は廃棄しない限り税法上帳簿には10%の残存価格が残るし、下取りに際しては値引き的にそれなりの金額は付くので所有者にとっては一応無価値ではないが、以前は零どころか解体処理費を取られることもあった。

 では、こういった家庭用機器はどうであろうか。税法的には冷房、暖房用機器の減価償却は6年である。実際には6年で破棄するわけではないので、それ以後長く使っただけ儲けと言うことである。しかし、「主な補修用性能部品(製品の機能を維持するために不可欠な部品)は、製造打ち切り後、7年間保有しています。この補修用性能部品の保有期間を修理可能期間とさせていただきます。」というのが多いので、新製品へのサイクルが速い当今では電気機器そのもの耐用年数は別として、10年が一つの目安であろう。因みに我が家の以前の家の給湯器は最初10年で壊れ、今のモノで15年経っている。
 昨今では、この期間を大幅に超えて使用した扇風機やストーブが発火したり、不完全燃焼して死者までも出している昨今では節約も命がけである。

 税法上減価償却資産と言うのは一体どのくらい保つ事になっているのであろうか。改めて税務署発行の青色申告決算書の書き方の「主なる減価償却資産の耐用年数」と言うページを見ると、建物を除く「機械装置」の最長減価償却期間は日本では25である。そこに載っている最長は「手提げ金庫以外の金庫」の20年であった。25年の耐用年数とは一体何であろう。まさか、電気使用量の「バツグンのコストパフォーマンス」が本当に享受でき始める期間ではあるまいと思うがあまりの一致にビックリ。

 ついでにPCを見てみると「サーバー以外の電子計算機」と言うことで5年である。確かに私の5年前のPCは今も使っている。既にお得期間に入っている。しかし、その間に本体に注ぎ込んだソフトは別にしても資産的にハード注ぎ込んだ金は元値と同額を超える。ソフトは本体以上に金がかかる。今なら値段が元値の1/3で性能は数倍のモノが買えるのだから、本当は使えても効率を考えれば買い換えるのが正解なのだが、何せ先立つものがない。

 基本的な話しとして、これらのエコ機器は電力会社が最大発電量(夏場の昼間)に応じて発電設備を拡充する事は最早“経済的ではない”し、国家的規模から見てもこれ以上の発電所の設置は難しい。各自が電力使用量の少ない夜間の電力を使い、エネルギーを貯え、それを昼間に使うことにより電力消費量の平均化を図り、全体のエネルギーの消費量を抑えようという意味あいがあるのだが、当面の結果としては機器メーカーが儲かる事ではなかろうか。一応、省エネと言うことでは合理的なのでエコではあるが…。

 しかし、技術者レベルがいずれも口を揃えて言うことは、「ファンの風切り音」と「ヒートポンプ」の音を無くすことはできないと言うことである。これこそが「低周波騒音の元凶」でもあるのだが。


4−3.エコキュートの騒音

 より詳しい理解をと思い、電力会社、ガス会社、機器会社などに電話したが、いずれも自分が関係する機器についてはそれなりに説明してくれるのだが、「比較」と言うことになると彼らも難しいようである。仕方ないので今ネットで解る資料で、騒音という視点で見てみよう。

 手近の電力会社の「オール電化 Q&A」「Q.エコキュートの動作音はどうなの?」を見てみると、

エコキュートの動作音はどうなの?
各メーカーによっても異なりますが、平成15年度以降に新登場する機種では、39dB程度と、 平成14年度以前に発売されていた機種(43dB)に較べ、静音性は大幅に向上しています。

※39dBと43dBを較べると、実際に聞こえる音のレベルとしては半分以下。騒音として認識されにくいレベルの音です。

家庭用ルームエアコンの室外機45dB程度、ガス給湯機48db程度と較べても、それ以下の水準となっていますが、ご近所への配慮は必要です。

※ちなみに電気温水器は基本的には無音です。

とある。


4−4.音の計算

4−4−1.騒音か静音か

 ここで注目してもらいたいのは、

@「39dB43dBを較べると、実際に聞こえる音のレベルとしては半分以下。」

 音の計算ではこれが成り立つことになる(のだそうだ)。

A「騒音として認識されにくいレベルの音です。」

 確かに39dB43dBは「虫の音」と「鳥の声」との差くらいであろうか(環境計量必携「一般環境の騒音レベル」参照)。どちらも良い時は心が和むが、煩いときには煩い。「43dBが騒音で、39dBは騒音では無い」という理論には疑問がある。

B「家庭用ルームエアコンの室外機45dB程度、ガス給湯機48db程度と較べても、それ以下の水準」

 確かに「ガス給湯機48db」と比較すると、48-39=9となり、音の計算で行くとエコキュートの騒音は計算上ガス給湯機の8分の1と言うことになるのであるが、それが充分に静かであるかどうかは疑問である。


4−4−2.算数が通用しない音の世界

 
かのアルバート・アインシュタインは「常識とは十八歳までに身につけた偏見のコレクションのことをいう」という名言を残している。一応、日本語に翻訳すると「高校生までに身に付けた固定化された、片寄った、考え、考え方、モノの見方の集まりのことをいう」などと訳せよう。

 世には「自分の常識が”常識”である」だけなら良いが、それが普遍当然の「真理」と考えている”集団”がいる。これが養老孟司氏言うところの
バカの壁」だと思うのだが、その一例が「物理の音の勉強」をし「低周波音問題を問題としない」人たちだ

 ではその集団が常識とする音の計算法を少し勉強してみよう。私の時代の高校は、今時の高校のように社会、理科に「選択」等と言う優しい制度はなく、文系であろうが、理系であろうが、社会は「地理、日本史、世界史、倫理、政治経済」を、理科は「地学、生物、化学、物理」を勉強しなければならなかった。要はそれらの単位が卒業には必要であったわけである。今思えば、常識を学ぶには良い制度であると思う。挙げ句に止せばいいのに私は文系なのに「物理、化学」を受験科目として選択した。

 しかし、物理では「39dBと43dBを較べると、実際に聞こえる音のレベルとしては半分以下」と言う様な計算までは習わなかった、と思う。昨今の高校物理を見てもそうだが、「音の問題」は殆ど入試に出ない。従って、誰もと言って良いくらい殆ど勉強しない。従って、43−39≦21.5=43÷2 と言う計算は習ったかも知れないが記憶にはない。
 と、しつこく言い訳するのは、実は私自身 43−39≦21.5=43÷2 と言うのが音の世界の"専門家"では”常識”である、と言うことが解るまでに随分と掛かったからである。くどいが、「”常識”であると」と言うことが解っただけであって、”常識”の中身が解ったわけではない。
 
 この考えの基本中の基本は「音は距離の2乗に反比例して減衰する(小さくなる)」と言う事である(と思う)。で、難しいところを省いて、手っとり早く言うと、音は「がまの油売り」的に3dB小さくなる毎に、1→1/2→1/4→1/8→1/16→1/32,…と小さくなっていく(らしい)。これが1+1=2と同じ「約束事」となる。もっと解りやすくした一覧にしてみると以下のようになる。詳しくはdBデシベルの話し 音の大きさ。 

デシベル 比率
 0dB 1倍
 3dB 2倍
 6dB 4倍
10dB 10倍
20dB 100倍
30dB 1000倍
40dB 10000倍







デシベル 比率
 −3dB 0.5倍
 −6dB 0.25倍
−10dB 0.1倍
−20dB 0.01倍
−30dB 0.001倍
−40dB 0.0001倍








4−4−3.波と洗濯機または鶯と洗濯機

 上記の騒音に関する「がまの油売り」的計算は「人間の感覚」にとって本当なのか! 
 例えば、次の事例を考えてもらいたい。(音圧はいずれも上記本による)

@静音設計前の「洗濯機の音は60dB」「浜辺(十八鳴浜)の波の音は70dB」「大波の打ち寄せる大洗海岸80dB」とある。残念ながら私はどちらの海岸にも行ったことがないのでその「騒音」がどれほどのモノか解らないが、大洗の浜辺の波の音は洗濯機の騒音に比べれば20dB大きいのだから、音理論計算的には実に100倍の騒音となる。同時に浜辺は10倍の騒音という事になるはずである。

A「うぐいすの鳴き声」「さんごしょうの海岸」「中尊寺の境内」、そして、「洗濯機」。これらはいずれも測定された音圧的には60dBである

 従って、音の専門家的には「同じ煩さ」でなくてはならないはずだ

 これらが素直に「そうである」と言えるなら、あなたは紛う事なき“騒音の専門家である

 「何かおかしいジャン」と思うあなたは私と同じ「音の素人」である

 しかし、この「何かおかしいジャン」と言う点こそが当に騒音問題のバイブル的地位にある「感覚閾値」そのモノのが“おかしいジャン”と言う点である

 もし、“科学的”と言われる「感覚閾値」が科学的に正しいとするならこの話は当然正しいことであり、あなたも私も間違っており、理科のテストなら当然×になる。しかし、他の教科のテストではどうであろうか。例えば、国語のテストで“「うぐいすの鳴き声」と「洗濯機」の音を比べて述べよ”と言われて「同じ音圧である」などと書けるのは音の"専門家"だけではなかろうか。私なら一応、

 「問題自体に意味がなく、比較することが不適切である」とするであろう。

 人間の感覚と物理的数値に連関性を探るのは一つの手段としてそれなりの合理性は有る。しかし、最終的に「数値で感覚を律する」こと自体に根本的な誤りがある。これこそ当に「科学が意識を切り刻んで殺してしまう」と言う事なのである。

 
”科学的”と言われる感覚閾値なるものは、実は人間としての「感覚」を置き去りにした工学者の「独断」の証明である

 


4−4−4.エコアイス

 もう一つエコ機器の中で今後最も強力な“騒音源”となりそうな、いや既に新たなる低周波騒音被害者を生み出している「エコアイス」について見てみよう。

 これは中小規模のビルの冷暖房用として想定されているようだ。簡単に言えば、深夜の電力を利用し、氷のジェル状のモノを造り、昼間の冷房としてはそれを解かして利用、給湯にはそれを溶かす際の気化熱を熱源として利用する(ここの理解は少々面倒)。冬場の暖房は空気を圧縮する際に出る熱(ここも理解は少々面倒)を利用しようという優れものであるようだ。詳しい理解と詳細はご自分で。

 昼間はまだしも、夜中中コンプレッサーを稼働させ、氷を造り、それを保存する大型の「冷凍庫が家の外に置いてあると考えれば良いのではなかろうか。スーパーの冷凍食品の前に立ってみてそう言った機器の煩さが耳に付かない人にとっては何の問題もないだろう。更にその騒音は“静音化=低周波音化”してあるので、実際はあれよりは小さいはずではある。
 しかし、夜間辺りが静かになった時に、その音が室外機が屋上に有れば騒音は天から降ってくるし、下に有れば我が家の壁を延々と攻撃するのである。昼間はそれ程気付かないはずであるが、夜間には必ずや耳に付くであろうし、最初は気付かなくても何時か気付くようになるかも知れない。

 だが、その騒音の影響は実はあなたのお家よりご近所さんにもっとハッキリと感じられるはずである。あなたが、古いが「カラスの勝手でしょ」と言う性格なら
仕方ない。「法的に問題ない」と居直ることができる

 でも、低周波騒音被害者被害者になるかならないかの判別法は今のところありません。何とも情けないことに”なるかどうか”「なってみないと判らない」のです。あなたのお隣にも低周波騒音被害者予備軍がいるかもしれません。もしこのサイトを見たら、できれば設置を再考するか、設置場所を充分に検討してください。

 エコアイスの室外装置は下記のようになっているようで、これにエアコン用の室外機が当然存在するはずなのだが?

屋上や地上などに設置可能なセントラルタイプ
エコ・アイス [ユニットタイプ]
エコ・アイス [ユニットタイプ]イメージ図 (1)熱源機、氷蓄熱槽をユニット化。
(2)
地下に空間がなくても屋上や地上などに設置可能。

 これの騒音関係であるが、ダイキンのHPから一部紹介しよう。

騒音に対してのクレーム問題が年々増えています。国が定める「環境基本法」では、地域より騒音規制値が定められています。この規制値に対しての罰則規定はありませんが、騒音が原因の訴訟は発生しています。これからはエアコン室外機の運転音にも、特に気配りが必要となります。

(参考)環境基本法による騒音規制値

地  域

昼  間

夜  間

住宅地域

55dB以下

45dB以下

商業地域

60dB以下

50dB以下

静かな運転音(室外機)でご近所に配慮
定格(通常)時の静音運転はもちろん、特に気配りが必要なのが夜間の運転音。ダイキンの店舗・オフィス用エアコン…には、それぞれ独自の夜間静音機能を搭載。周辺環境にやさしいエアコンです。
業界初ZEAS室外機の夜間自動静音モード
ZEAS室外機には「夜間自動静音モード」を標準装備。
お店の立地条件や営業時間などに合わせて、キメ細かく対応することができます。
静音レベルが選べます
5馬力室外機運転音/冷房時

騒音値の低下と音の大きさの減少率

グラフの見方:48dBを1とすると、3dBの差は半分の音量、6dBの差は14の音量に下がります。

減少率

45dBのエアコン2台分の音と48dBエアコン1台の音が、同じ大きさに聞こえるという事です。

複数連結設置でも環境基本法をクリア!

※使用条件・運転条件によっては定格運転音を上回る場合もあります。

 これは基本的に業務用の機器の話だが、家庭用でも製品により若干異なり、「通常運転時で5764dB(A)、(夜間に切り替えることの出来る)低騒音制御時は5053dB(A)」と言うことである。

 そして、これらの騒音の話しの中のdBの数値には、ここで問題にしている不可聴域とされる100Hz(or80Hz)以下の低周波音域の音は、もちろん、完全に問題外になっている


.理論的詐欺

5−1.エコキュートとエコアイス

 エコキュートとエコアイスの騒音をダイキンで使われているのと同じ理論で比べてみる。ただし、この「理論」というのは単にダイキンの理論ではなく、エコキュートで見たのと同じく“物理の(騒)音の理論”であることを一応ダイキンのために付け加えておく。

 エコキュートは静音性として39dBを強調しているのでそれを使うと、エコアイスの低騒音制御時の一番低いところで50dBであるが、計算上都合良く5053の中で51を採ると、両者では51-39=12dBの差が出る。これはdBの4倍、くどいが理論的には“音の大きさは3dB下がると半分になる。と言うことは当然ながら逆に「3dB上がると2倍大きな騒音」になる”ので、12dB音が大きいエコアイスはエコキュートに比べて2の4乗倍、即ち2×2×2×216倍の騒音がすることになる。

 宣伝のごとく


「半分の騒音」が静かというなら、
「16倍の騒音」は”
もの凄い騒音”がする事になるはずだ


 半分の騒音を「宣伝」するなら、16倍の騒音は当然「警告」すべきではないか


 環境基準をクリアするための計算はエコアイスに限らず機器では上記の方法によるのだが、これは音の理論からすると正しくて、例の感覚閾値にも使われている「対数」曲線の妙技なのだが、これはまた別の機会に。

 私の個人的感覚としては、「45dBのエアコン2台分の音と48dBエアコン1台の音が、同じ大きさに聞こえるという事です」と言う物理の理論の話自体は理論的には納得したくなし、「感覚的」には全く納得できない。要は、物理の音の世界の理論では「454548」になるという話しなのだが、それが到底納得できないのは、単に私が物理に馴染まない人間だからであろう。

 しかし、少なくとも1台の爆音マフラーのアイドリング音より、少し小さな音の2台の爆音マフラーのアイドリング音のほうが私は煩く思うがどうであろか。これは単に感覚だけの問題ではなく現実的には共鳴音や唸りも関係してくるのでやはり実は大きい騒音になるのではなかろうか、と考える。


5−2.2台は疲れる

 その「実感覚」を私は音楽鑑賞と言う形で試してみた。ある値段以上のステレオ装置ではスピーカーの切り替え装置がABA+Bと付いている。これは2組のスピーカーを接続し、音楽の種類により、より適した音色のスピーカーの方に切り替えるためのモノで、具体的にはクラッシックとポピュラーとかジャズ、オーケストラと独奏等と言う場合を想定しているのだが、これをA+Bで同時に二組のスピーカー-を同時に鳴らすとどうなるか。

 確かに音は聴感上そんなに大きくなったとは感じず、少なくとも2倍の音が出ているとは感じない。元々同じスピーカーを繋いでいるわけではないので正確でないのは承知の上であるが、しかし、何となく音に厚みが出てくる
 そのままで、少し長い間聴いていると、耳と頭が非常に疲れてくる。スピーカーの音の質のバランスがマッチしない可能性もあろうが、元々騒音にマッチングなど考えているはずがないので、ひとまず音の情報量がそれだけ多くなっていると言うことではなかろうか。

 と言うことで、これを証明するため少々実験してみた。音をミックスできるソフトを使い音楽ファイルを@完全2重録音、A1秒ずらして録音、B4秒ずらして録音、C2重録音したモノを2重録音、即ち4重録音してみた。

 結果、@とCでは明らかに音に厚みができ、AとBはガチャガチャな音楽となり煩く感じるだけであった。これらがそれぞれ元のファイルよりデータサイズ(大きさ)が大きくなれば音の情報量が増えていると言うことが証明できると思ったのである。が、そうは問屋が卸さない、これらの全てのファイルのサイズはピッタリ同じであった

 単純な話、音の物理的情報量は同じであると言うことである。この実験でいけば同じ大きさの音の室外機なら2台でも4台でも騒音の情報量は同じであると言うことになる。それにしても恐るべきは物理の理論である。ではこの「耳と頭」の疲れの原因はなんであろうか。

 因みに家庭のステレオの音は大き目の音で大体80dB程度である。これは大洗海岸、新幹線走行(横12m)に当たる。音が楽音となるか騒音となるかは、単純に大きさだけでは測れないと言うことだけは解るのではなかろうか。

 物理的に“音が大きければ問題有り、小さければ問題無し”という理論は人間の聴感覚に当てはめることはできないと考える。
 
 やはり騒音の問題点は別の所、例えば、音の質にあるのではなかろうか


6.確信的詐欺

6−1.爆音マフラー

 エコアイスでは「低騒音制御時は5053dB(A)」とあり、dBの後に(A)が付いているが、エコキュートの方は「45dB以下」となっていて(A)付いていない。基本的にはこれが付いていない場合も(A)である。この(A)と言うのは可聴域、即ち人間に“普通に”聞こえる音の大きさの範囲内で測定しました、と言うことで、これをA特性音圧レベルと言う。これに関する詳細は「音の評価としてのA特性音圧レベル」などのサイトを参照していただきたい。

 即ち、(A)とある場合にはここで問題にしているような可聴域外の低周波音域は全く評価外の問題外の音となっていることをもう一度ご記憶いただきたい。実は電気製品に限らず大抵の「騒音の出る製品」ではそうである。それは「一般的」にそれで良いことになっているからである。

 従って、ハッキリ言って、低周波音は幾ら出しても「問題ない」のである。即ち、“騒音を低周波音にすればその部分は評価外の音となり、低騒音になり、静音化(=低周波音化)”された事になるのである。

 この代表例が「爆音マフラー」である。これらは正しくは「違法なマフラー」「不適切なマフラー」と言うそうだが、国交省、警察は騒音的には現実的な法的根拠を持たないので、(あるにはあるが非現実的な方法で判定しなければならず)現実的には目視で可能な、

(1) 視認性、被視認性の低下を招く窓ガラスへの着色フィルム等の貼付及びフロントガラスへの装飾板の装着

(2) クリアレンズ等不適切な灯火器及び回転灯等の取付

(3) 騒音の増大を招く基準不適合マフラーの装着

「不正改造車を排除する運動」実施要領

 等と言う一発で判る点から取り締まるしか方法がないのである。詰まるところ爆音に関して現況では野放し状態と言って良い。実は、一時期、国交省、環境省がセットで「マフラーの“音の質”について検討する」と言っていたので、本当カイナと思っていたが、案の定立ち消えになっているようである。

 これは至極当然なことで、行政自体があらゆる面で黙殺している低周波音をマフラーにだけ限って問題視する事などできるわけがない。仮に行政が単純に音量だけを規制しても、それは所詮可聴域の騒音についてできるだけであり、現在の「爆音マフラー」使用者に“快感“を与えているのは「100Hz前後90dBの音」であるが、極端なことを言えば、これを仮に「90Hz前後100dBの音」にすれば問題ないことになってしまう。

 仮にこんな規制をして、何の効果も出ないどころか”より迫力が出る”様なことにでもなれば、低周波騒音そのものが一般人の苦情として出てくるのは必定である。そんなことにでもなれば、これまで必死に低周波音を黙殺してきた「関係者」の努力が水の泡となってしまうからである。

 現状の「爆音マフラー」取り締まりには何ら効力が無いことを一番よく知っているのが行政自らである。従って、「音質を検討」すれば、と考えたのは良いのだが、その当然の帰結は低周波音に行き当たる訳で、それは実は手を下すことのできない代物であったわけである。


6−2.国土交通省お薦め「低騒音型機械」

 合法的低周波騒音のばらまきの極めつけは、国土交通省お薦め「低騒音型機械」である
 国土交通省は、平成9年、「低騒音型・低振動型建設機械の指定に関する規程」(平成9年建設省告示第1536号)を告示し、また、同告示に基づき平成9年から低騒音型建設機械、低振動型建設機械の型式指定を行い、当該建設機械の普及促進に努めている。

 そして、新たに、平成18年3月22日からは「低騒音型建設機械については、騒音基準値からdB減じた値を下回る騒音の測定値を得た建設機械に対しては、超低騒音型建設機械の標識を表示することができる」とし、「低周波騒音、超低周波騒音への騒音の追い込み」を推奨、低周波騒音の「普及促進」に努めてくれているのである。

「低騒音型・低振動型建設機械の指定に関する規程」(平成9年建設省告示第1536号)
 第2条の規程に基づき建設機械の型式を指定する告示について

 上記法令の「dB減じた値」という所の太字は私であるが、これは実は最低このくらいは音圧を下げないと「(何となく)静かになったかな」とは人間は感じないのである。上記の音圧の計算から言うと6dBと言うのは人間の耳には1/4の騒音になったと言うことになる
 これらの機器の使用は、当初は大手とか、行政体指定の工事などに限られていたが、業界(日本建設機械化協会JCMA)としては「これは良い機会」とばかり買い換えを促進させる機会にしたのではなかろうか。今では使用される殆どの建設重機は「低騒音型機械」となっている。

 これにより実は、低周波騒音、超低周波騒音が限られた環境、状況と言えども更に世に蔓延することとなった。かく言う私もこれまでの実生活では余り建設機械の低周波騒音を経験することは無かったが、引っ越し後、そこは新興住宅団地で次々に新築工事が有り、その都度バックフォー(※)が大活躍するわけであるが、その音は明らかな低周波音で非常に辛い。しかし、いずれも12週間でその騒音は去るので外出したりして何とか凌いでいた。

※ アタッチメントの付け替えによって様々な用途に使われる建設機械。下向きのバケットを取り付けてバックホーとして使うのがもっとも一般的。油圧式ショベル、ユンボ、バックフォー、パワーショベル、ショベルカー、ドラグショベルなどは同一のもの。


6−3.国立事件

 ところが、外出などで凌げず、「事件」となってしまった事件が起きた。この事件は今回の終稿間際に汐見先生から聞き、急遽入れているのだが、「やはり有ったか」と思いを新たにした。

国立駅 列車停止ボタン押す 14000人に影響、57歳書類送検へ

 平成1867日午前1140分ごろ、国立市北のJR中央線国立駅で、東京発高尾行き中央線快速電車がホームに進入する際、隣接する立体工事現場の列車停止装置が作動、電車が停止した。…、8本が運休、18本が282分遅れ、乗客14000人に影響が出た。
 立川署などで原因を調べていたところ、立体交差工事現場の近くに住む国立市に住む男性(57)が「自分がボタンを押した」と申告。男性は「工事の騒音がうるさく、注意しようと現場に向かう途中、危ないのでボタンを押して電車を止めようと思った。もうしわけないことをした」と話しているという。…、鉄道法違反容疑で男性を書類送検する方針。
(平成1867日 産経新聞)

 新聞には載らなかた男性のコメント。

 昨夜(66日)1130分頃床に着くも寝付かれないまま、零時30分前に不快になり工事が有るのか確かめるためパソコンを起動してファイルを覗くと稼働時間(1:004:30)となっていて、工事の始まりが少し早いと思いつつ現場に出向くと、バックフォー(※)が稼働しており…。…、「責任者はいるのか」と聞くと、「お名前は」と問われたので、むっとして「こんな時間に私以外に来るヤツがいるのか、助役を呼べ」とクレームした。
 本日午前1130分外出から帰り着替えているうちに低周波音を感じムカムカする。今朝も9時前から低周波音に煩わされており、今朝の出来事も重なり工事現場に向かう。

 そして、記事の内容となる。男性は記事掲載に際し、繰り返し、「低周波」を唱えるが紙上には単に「騒音」とされた

 私には男性の心境が痛いほど解る。何故なら私も駐車場の輸送車に何度火を付けてやろうかと思ったことであろうか。そして、その輸送車を稼働させるべくしているトヨタのカンバン方式を呪ったことか。そして、それを放置している行政へと私の対象は変わったのだが、それにはかなりの時間を要した。

 この様な思いは決して私だけではない。低周波騒音被害者は皆同じく騒音源を自らの手で絶つ事を考える。男性が工事は何のためか、JRのせいだ考えても少しも不思議ではない。私としては、よくやったと拍手喝采したいくらいだ。しかし、現実は男性の法律違反で終わる。この不条理は被害者でなくては解らない。

 この工事は平成113月から続いており、平成22年まで、特に夜間工事として続く。


6−4.「低騒音」とは

 「低騒音型機械」の騒音を周波数分析した明確な資料を随分探したが見あたらないので、類似的な「極超低騒音型発電機」なるモノの従来機器と「低騒音型機械」の周波数分析を比較したモノを参照する。左側に示されている騒音値(dB)の数字が表示されていない上に、下の周波数の数字も明瞭に読み取れないため、具体的な数値は解らないが、少なくとも、100Hz前後の周波数帯の音圧がいずれの周波数帯に於いても「半減されている」事が解ると思う。(白いグラフが従来機)

 この「音圧が半減」されると言うことは、音の専門家が言う「3dBで騒音は1/2になる」等と言う“理論的なお遊び”とは次元が違い、実に聴感的にも明らかに「静かになった」と感じられる数値(現実的に聴感的に静かになったと感ずるには20〜30dBの音圧の低下が必要)なのである。従って、こちら方面の専門家としては「随分静かになりましたよ」と言うのも、もっともなことなのである。
 
 しかし、特に濃いめのグラフ(新製品)だけに注目し、左から2本目と5本目のグラフを見て欲しい。数値は明らかではないが、明確な卓越周波数(ピーク)創っている。
 これは発電装置であるから恐らく下の数値は50Hz100Hzと思う。音圧は一目盛り10とすれば30dBと言うことになるが、そんな画期的に静かな機器はあり得ないので多分20刻みで60dBだと思う。そうするとこの2本はこれまで110dB120dBであったことになる。確かにここまで行っていれば流石の「参照値」でも有罪としなくてはならないはずである。しかし、60dBなら何とか逃れられる。

 ところが、しかしである、全体的に静かになったことは確かなのだが、この「低騒音」化は、実は「普通騒音による低周波騒音のマスキングをなくしてしまったこと」になるのである。いわば、”逆マスキング”となり、図らずも人工的に明瞭なカクテルパーティー効果を生み出す事となり、特定の低周波騒音がマル聞こえとなってしまったわけである

 これは電気機器の場合であるが、大型のディーゼル車では、我が家の場合の測量で解ったのであるが、20Hzにピークがある。そして、この音こそ私に音地獄を這いずり回らせた『犯人』だったのであるが、他の建設重機も似たような周波数であろう。
 実はこのような器機では、騒音を低周波音化するのに防音材などを貼っても実際上の効果はなく、業界では「チューニング」(調整)と言う方法をとるらしい。その具体的な方法は不明だが、もし同様のことが「低騒音型機械」で行われているとすれば同様な状況になるであろう事は容易に推測できる。



 そして、これらの行政推薦の機器、機械が出す低周波騒音数値こそ、当に汐見氏が低周波騒音被害者を生み出すと指摘する10Hz〜40Hzの間くらいで、卓越周波数(ピーク)をもち、その音圧は60B前後」にピッタリの数値なのである


  行政は汐見氏の意見を何が何でも絶対に門前払いしなくてはならないのである。 

※マスキングカクテルパーティー効果の解説はこちらが解りやすいでしょう。音のマメ知識 “聞こえ方”の不思議


6−4.静音の騒音化

 可聴域の騒音を静音化(=低周波騒音化)する、一番簡単な方法は「回転数を下げて、周波数を低く」する事である

 逆に低周波音を“騒音化”するには回転数を上げればいい。何をわざわざそんなことをと思うであろうが、現実にそう言ったことがあったのである。その典型的な事例は、既に私のサイトでご存じに方もみえるであろうが、低周波騒音に苦しむ被害者が訴えた「深川市における低周波音被害責任裁定申請事件」である。詳細は汐見氏のレポートをご覧頂きたい。

 この事件の要件は結論的には公害等調整委員会により、静音化の逆の手法、即ち、「真犯人の20Hz-60dB(G)の“低周波騒音”を100Hz-80dB(A)の“騒音”が犯人」とすると言う、静音化の時代に逆行する知能犯的手法により、一応普通の「騒音問題」として和解に到った。

 20Hzにおける「参照値」は76dB(G)であり、60dB(G)と言う現場での測定値では「参照値」では到底「有罪」とはし得ない。しかし、現実に被害者は低周波騒音地獄を這いずり回っているのである。しかもその現場は、低周波音が聞こえないはずの関係者にとっても、「これは酷い」と思えるような“何らかの音”が聞こえたのであろう。流石に公害等調整委員会の面々も何とかしなければならないと考えたのかも知れない。

 公的には見え見えのすり替えは行われていないはずだが、もし、行われたとすれば、その結果は「20Hz-60dB→100Hz-80dB」にしか変えられなかったと言うことである。物理の理論ではどうか解らないが、単純に考えれば20Hz60dB」のエネルギーは「100Hz80dB」のエネルギーと同等と言うことができるのではなかろうか。そうとすれば物理の専門家は、低周波音が持つエネルギーについて根本的に考え直さなくてはならないはずだが、その気はないのであろう。

 結局、この問題は騒音源者が室外機の位置を変える事により、“最低”いや“裁定”としては“解決した”ことになったのである。

 当初、私は、騒音が低周波音では法的に何ともしようがないから、公害等調整委員会はわざわざ可聴域騒音として問題を解決してくれたのかと思い、結果良ければ全て良し、と思った。
 しかし、その後のことを聞くと、元々通常20Hzで回転するモノを100Hzで回転させていれば、オーバーヒートするのは明白で、しばらく後には、元の回転数に戻され、「騒音」は本来の「低周波騒音」に戻され、被害者は結局自宅に帰れない日々が続いていると聞く。

 普通の人間なら、「ウソだろー」「詐欺ジャン」と思うであろう。もちろん私もそう思う。しかし、現実的には低周波音問題は面倒な詐欺まがいでなく、正真正銘の詐欺までしまでも、「無い」ことにしなくてはならない問題なのである。

(3)距離減衰の測定

 低周波音は地表面での吸収や空気吸収がほとんどないので、騒音に比べて遠方まで伝搬する。したがって低周波音の距離減衰を調べる場合、発生源から数km といった遠距離まで測定することもある。
 最初に問題となる方向について地図上で測定点を定める。一般的には、例えば機械から1, 10, 20, ・・・50, 100, 200 mなどのように概略二倍ずつ離れた点を測定点にとる。これは測定結果を図示するときに、片対数グラフ用紙の横軸(対数目盛)を距離、縦軸(等間隔目盛)を音圧レベルにとると、6dB/倍距離あるいは3dB/倍距離の直線と比較して低周波音の減衰性状を検討しやすいためである。


7.マスコミの無知

 拙文「基礎の基礎」でも述べているが、騒音問題に対し、真摯な取り組みがなされない重大原因の一つにマスコミの無知さがある。
 
 最近のその一例として、既に終わってしまった感が有るし、私はそうは思っていないが、私の理念で敢えてこの問題には触れなかった奈良の“騒音おばさん”CDラジカセ事件がある。マスコミは当初の報道で「その“大音響”90dBと報道した。その後、格別の訂正もないからそうだとしよう。

 では、90dBの音量と言うのはどんな音であろうか。上記の「環境騒音レベル」の一覧に依れば、「政治団体宣伝車20m」「丸鋸によるパイプ切断」「打ち上げ花火」と同じはずである。確かに間違いなく“大音響”には違いない。
 しかし、長時間長年これを聞いていれば当該被害者でなくても同じ様に「それ」を聞いているはずの両隣もお向かいさんも、その隣も少なくとも向こう三軒両隣くらいは同じように苦情を訴えてもおかしくないはずである。もし、被害者が当該被害者だけなら、低周波騒音と同じで、「気にしているのはあなただけですよ。気のせいですよ」と何故専門家は言わないのだ。おかしくないか?

 なによりも奇妙なのは何故におばさんが、ラジカセと“布団叩き”とわめき声を長年発し続けなければならなくなったかが全然報道されないことだ。確たる理由もなくある日から突然何の理由もなく“騒音おばさん”が騒音を発しだしたとしたら、彼女は間違いなく「キチガイ」である。もし、そうであるなら名前や顔をTVにあれだけバカバカ出す事はできないはずだ。もちろん精神障害者として裁判自体も成立しないはずであろうが、実際には「懲役1年(求刑懲役3年)の判決を言い渡した」のであるから、彼女は正常と判断されたのであろう。

 結局、奈良・平群町は新しい条例案で、「正当な理由なく夜間(午後8時−午前8時)なら人の会話程度の60デシベル、昼間(午前8時−午後8時)は65デシベルを超える音を出すと“騒音”と規定。町職員が立ち入り調査し、やめるよう警告できるようにした。(共同通信)06/03/07」のだが、これで90dBの「ピアノ」の音や「犬の吠え声」、さらには道路でのおばさんのしつこい長話も取り締まれるのであろうか。

 因みに残念ながら人間の声は騒音とされないので規制できない事になっている。

 そう言えばこの原稿を書いていて、この事件以来、近所で「天気さえ良ければ毎日」布団を干して、百叩きの刑のごとく布団をバンバン叩いていた音がパッタリしなくなっていることにフト気付いた。
 このおばさんは、おばさんと言うにはまだ早い幼稚園児が二人いる奥さんである。最初の内は育児ノーローゼか何かと思っていたが、布団のしつこい干し様と叩き様を見ると余程汚い布団なのかとしか思えなかったが、それは単なる清潔好きを通り越してキチガイと私は思っていた。

 騒音は無くなれば途端に忘れてしまうような存在である。それが普通の騒音である。低周波騒音は人間が出す騒音ではなく、機械が出すのだからスイッチを切るまで何時までも続くのである。

 特にこの事件はマスコミ、特にTVの「偏向報道」によりインパクトのある映像でショウ化された感が強い。しかし、これにより騒音が「凶器」になりうると言うことを例え少しの人にでも知られればそれは意味のあることである。

「あなたの逆転裁判」弁護士ファイル 


8.キーワードは低周波音

8−1.低周波音なんて知らない


 06/05現在「超低周波音」と言うキーワードでヤフーで検索してみると92,300件、「infrasound」では198,000件(ほとんど英文)、「low frequency」では30,500,000件(ほとんど英文)、「低周波音」では37,400件がヒットする。「低周波音 被害」とすると7,990になる。もちろん内容的に全て検証したわけではないので、その内容の実効度は不明だが、参考になる内容が少なくない。Googleではヒット数は1.5倍くらいになるが、ヒットランクにポリシーが無いような気がする。根こそぎ調べるには良いのだろうが。

 1999年被害に遭い、私が苦しみ抜いた挙げ句、「低周波音」という言葉自体を知るまでに半年掛かった。それは“低周波音”をインターネットで検索しても、ほとんどヒットせず、たまたまヒットするのは、今でも多くはそうであるが、「低周波による治療器」のサイトであった。その時「低周波音による騒音被害」としてヒットしたのが、今はサイトのない美穂リンさんと今も続くトライアングルさんのサイトであった。

 当時は検索エンジンそのものが超マイナーな存在であって、Google 等はなく、yahooなどは“問題”のない“健全な”お薦めモノしか載せず、告発系などは以ての外であった。今は知ろうと思えば大抵のことは調べられる、ある意味天国のような時代である。もちろん逆に情報過多過ぎるが。

 その後、検索エンジン自体が進歩したこともあるが、たった6年半でこれだけヒットするようになったのは「低周波音」と言う言葉自体がそれだけポピュラーになったと言うことでもあろう。しかし、依然として未だに大多数の“低周波音不可聴者”はこの被害の実態を知らず、また知る必要もないが、頼みの綱の専門家達の多くは被害の存在さえも否定している。


8−2 環境省は良くやった?

 2000年からの5年間、環境省は00/10「低周波音の測定方法に関するマニュアル」策定、01/01低周波音全国状況測定調査(319)02/03低周波音防止対策事例集、04/06低周波音問題対応の手引公表と、行政としては実は極めて迅速に立て続けの対応をした時期と重なる。この動きは、私が低周波音問題で辿った履歴とちょうど軌を一にする。全くの偶然としか言いようがない。これは汐見先生を始めとする先達たちの労の賜物と思うしかない。
 

 しかし、その結果から見ると、残念ながら行政のこれらの施策により問題は解決したかと言えば、「否」である。現実を見るとむしろ、今日の低騒音化、静音化による低周波騒音問題の蔓延化の傾向を行政が前取りしたかのような感がしないでもない。

 それを一番物語っているのは「低周波音」と言うキーワードでヒットする「サイト数の増加」や、「拙サイトへのアクセス数の増加」である。拙サイトへのアクセス数などは増えたと言っても微々たるモノであるが、それでも増えていることは確かである。そして、その後、「梨の礫の環境省の態度」である。そして、その後、裁判に勝った人は私が知る限り一人いるがそれは低周波騒音でなくても勝てたはずの騒音問題である。

 家屋の高密度化、モーター類の静音化、建設重機器の騒音の低周波騒音化、…など騒音を低周波音に押し込もうとする企業の試みは、行政の施策と相まって、低周波騒音源を増加させる結果となっている。今後一層の低周波騒音被害者の増加を予想させる。

 その好例が当今のエコ機器の宣伝などに見るように、一見したところの”企業の騒音に対する理解”である。官学一丸となって低周波音被害の存在そのものを否定するという行政のお墨付きを与えられた企業がこの問題を都合よく利用することはあっても、問題解決に正面から対峙することはあり得ない。


9 「参照値」

9−1 「参照値」はガイドライン

 低周波音は今の“騒音学者”はまともに手を出さない、或いは手が出せない"無敵”の代物であると同時に、一方、機器メーカーにとっては多いに“頼りがい”のある「騒音の隠れ簑」である。少なくとも現行の「参照値」では絶対に対処できない相手であると言うより、むしろ「騒音の隠れ砦」の門番みたいなモノであるとしか考えられない。 

さて、その「参照値」だが、現実的には、「低周波騒音被害者の門前払い役」として立派に機能しているが、これは低周波騒音の現場そして、そこに日々暮らしている被害者の実体をよく知っているとはとても思えないI氏により収集された「一般成人20名と低周波騒音苦情者9名」の実験値と低周波音の権威Y氏の蓄積データにより創られたモノであると言う。この実験を委嘱したのはもちろん環境省であり、その結果である「参照値」を実際に運用しているのは環境省であるから、主犯はやはり環境省である。

 環境省は低周波音問題対応の手引書(平成16年6月)に於いて「本参照値は、低周波音によると思われる苦情に対処するためのものであり、対策目標値、環境アセスメントの環境保全目標値、作業環境のガイドラインなどとして策定したものではない。対策に当たっては技術的可能性等総合的な検討が必要である。」と述べてはいる。

 しかし、低周波音は企業に於いては無知故にと思いたくなるような業界もあるが、低周波騒音被害の存在を全く知らないか、あるいは、知りながら承知の上で意図的に無視しているところが少なくないと言うより、ほぼ全業種がそうである。 

現実として、低周波騒音被害者にとっては、自治体の窓口こそ、頼みの綱であるが、そこが現実的には、全くと言っていいほど機能していない。むしろ、現実の窓口は、これは便利とばかりに「参照値」を「目標値」「ガイドライン」としている。これは発表当時から我々としては充分危惧したところであるが、予想通りと言うより、遙かにこれを超えた現実的運用である。「参照値」という環境省のお墨付きを頂いた行政は “低周波音の問題“というだけで、まずは、面倒であるとばかりに、文句なしに被害者を門前払いする。

 本来ならば行政が現場に赴いて測定をすべきであるが、「低周波のレベル計がない」とか「測定の技術がない」とか「夜間の測定はできない」等と言って、彼らが“動く”ことは非常に希ないのが現実である。よしんば、彼らが動いたとしても、この際には、行政は、必ず「騒音元に測定の予定を連絡する」。仮に犯罪者なら、捜査のある日を知っていて、誰が “現場”あるいは“事実”を現行犯的に取り押さえられようとするであろうか。

従って、事実、現実の状況を押さえておくためには、被害者はどうしても、行政に測定させる前に、まずは現場の騒音の事実を押さえておかなくてはならない。それには被害者が自力で数十万円という測定費を支払わなくてはならない。そして、それである程度のデータを得たとしても、行政的にはほぼ間違いなく「参照値以下」と言うことで切り捨てられる。

 現実的には明らかに「参照値」を越えるような低周波騒音が出ているところは住めたモノではないのである

 行政の対応として最悪な具体的事例は拙サイトの「県の公害審査会調停委員会は“専門家”ではないのか」を参照して欲しいのだが、その要点は

「低周波音問題対応の手引書 平成166月(顔境省環境管理局大気生活環境室)」に記載されている物的苦情と心身に係る苦情に分けて示された,低周波騒音音苦情を的確に対処するための参照値と比較し,その値を超えるか否かで評価する。」

 「参照値と比較し,その値を超えるか否かで評価する」と、間違いなく“切り捨てガイドライン”として使用しているのである。しかし、実際にはこの「評価」で評価に値するような数値になることはまずない。それは「参照値」そのものが元々数値的にクリアできないようなレベルに設定されているからである。それは苦情を言っている被害者の「数値」を一番多く知っているはずの人たちがその「数値」を設定しているからこそ可能なのである。


−2.「参照値」のパーセンタイル(百分位数)

 「参照値」の決定に際しては、「パーセンタイル(百分位数)」と言う統計分析方法が採られた。パーセントとは違うらしいが何だろう、と言うのが最初の印象だった。

 統計学の本に依れば、「パーセンタイル(百分位数);非常に大きな集団で,これを100個のパーセントに分けたものをいう。上位5%点,下位5%点がとくに集団の特質や特徴を表すために用いられる。」と言うことである。

 例えば、学年の人数が100人のところでテストをし、現実的にはあり得ないが、点数が1点から100点までであったとしよう。この際、1点〜5点、95点〜100点の生徒により「集団の特質や特徴」が表されると言うことであると言う。では、仮に0点が50人、100点が50人であったとしよう。0点5人と100点5人により、「集団の特質や特徴」が表されると言うことであると言う事になる。良く意味の解らない話しになるので、実はこういった場合にはやはりお馴染みの平均点の方が適当で、パーセンタイルなどは使われないであろう。

 実際にこの分析法が常識的に使われているモノの代表的な例としては子どもの成育状況を見るための身長・体重などである。この場合、赤ちゃんの体重とか身長の平均値を単純に出しても、出産やその後の生育状況などで異なる要素が多いし、大きいはずなので平均値に意味がないのであろう。
 従って、同年齢に近い赤ちゃんの中で「家の赤ちゃんは大きい方か、小さい方か」とかは言えるが、”どれだけあれば良いとか悪いとか言うモノではなく”、「10パーセンタイル値以下のもの、および90パーセンタイル以上のものについて経過観察するよう医者が指導するようで、また、このすべてが異常というわけではなく、その間にあるものは、一応標準の発育をしていると考えてよいと思う。」というような場合に使われる。
 そして、このデータは何ヶ月検診とか何歳児検診とか、学校での集団検診とかで集められたデータであるから、日本のその年齢のほぼ全数調査と言っていいはずである。従って、明らかに「非常に大きな集団」、と言うより膨大なほぼ完全データであると言えよう。

 こうした場合にこそ、上下の5%と言うのは確かに特異な存在であるから要注意と言いうるであろう。


−3.「参照値」のデータ解析問題点

 ここで上記の記述に戻ってみよう。まずは「非常に大きな集団」という点に着目したい。「参照値」作成の際の29人という母集団は「非常に大きな集団」と言いうるか。余りに少なくはないか。
 更に、「パーセンタイル」では、信頼区間(CIConfidence interval)として、「100回同じ測定を行い信頼区間を得た場合、95回まではその範囲に真の値が存在する推定区間である」として、慣例上95%信頼区間が多用されるのであるが、「参照値」の場合は「90パーセンタイル値」が採られている。9095の差がどれほどのモノであるかは解らないが、何故わざわざ慣例の95%でなく90%としたのであろうか
データの正確性に問題が有ったからでは無かろうか。

 更にデータ解析の根本的問題として、データ解析を医学の分野で適用するときの注意として、

@知見をどのような項目で数量的に表現するか?
A対比すべきグループ(正常群や他の疾患群)の確認ができているか?
Bその知見の説明要因として,どのような所見や項目を選ぶか,その選び方に医療や臨床の経験が生かされているか?
C目的にかなった解析方法が選ばれているか?
Dコンピュータなどで得られた解析結果は「いつも正しい」と,鵜呑みにせず,医療や臨床の土俵で解析結果をしっかり吟味,検討するという考え方がしっかりしているか?


「データー解析の考え方に当たって」

 と言う問題があるが、これらの注意が払われたのであろうか。「参照値」について考えてみよう。

 まず、Aの「正常群と疾患群」において、年齢差、住環境、などは考慮されたのであろうか。参加した人の話では被害者である「疾患群」は高齢が多く、「正常群」はアルバイトで雇った近隣の若い人が多かったと言う。

 そして、決定的にはBの問題との絡みで、そもそも疾患群をどうやって確認、チョイスしたのであろうか

 実はそれは「できない」はずである。何故なら、この疾患群は単に「本人達が低周波騒音被害者であると言っている」だけであり、今日まで、低周波騒音被害そのものに対して環境省を始めその道の専門家自体が「被害」そのものを否定し続けているため、「医療や臨床の経験」など全く存在しないのである。従って、医療や臨床の低周波騒音被害の知見なるもの自体が全く存在しないのであるもし、それがあれば低周波騒音被害者は被害者となっているはずだ。

 即ち、低周波騒音被害に対する科学的・医学的知見は何ら存在せず、その存在しないはずの”知見”の元に集められた疾患群を元に創られた”知見”である「参照値」は決して科学的な知見とはなり得ないはずである

 「医療や臨床の経験」からくる唯一の知見とも言える汐見氏の知見は、「他に知見がない」「公的知見ではない」として環境省により退けられている

 しかし、逆に、“だからこれは「医学の分野」のデータ、解析ではないからどうやっても良いのだ”と言い切り、上記のような七面倒くさい事を一切考慮する必要はない、とも言い切ることもできる。確かに「参照値」のデータ収集に際しては極めて少数の理工系分野の人間しか携わっておらず、少なくとも医療や臨床系の人間は全くタッチしていないようであるから、居直れば居直れる。しかし、もしそう言ったことを厚顔無恥に通すとすれば、それは人間を単に機械的ロボットとして扱っているのであり、少なくとも「参照値」は人間性を無視していると言うことの明らかなる証明となってしまうと言うことである。
 
 ではこの「参照値」という数字は一体何であろう。


9−3.公害対策基本法 第9条第3項

 そもそも、これらの科学的らしい尤もらしい数値はどこから出されるのか。それは公害対策基本法第9条第3項に依る。

政府は、大気の汚染、水質の汚濁、土壌の汚染及び騒音に係る環境上の条件について、それぞれ、人の健康を保護し、及び生活環境を保全するうえで維持されることが望ましい基準を定めるものとする。
前項の基準が、二以上の類型を設け、かつ、それぞれの類型をあてはめる地域又は水域を指定すべきものとして定められる場合には、政府は、当該地域又は水域の指定を都道府県知事に委任することができる。
第一項の基準については、常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされなければならない。
政府は、公害の防止に関する施策を総合的かつ有効適切に講ずることにより、第一項の基準が確保されるように努めなければならない。

 この9−3の「科学的判断」について具体的には環境省としてはどう考えるかが述べられている文がある。それは、一昔前、昭和53年(1978年)七月五日の「第084回国会 公害対策並びに環境保全特別委員会 第26号」の議事録である。詳細は115000語超、ワード文書にして50枚を超す、大書なので当該サイトをご覧頂きたい。

 この委員会では当時最も問題となっていた大気汚染の「窒素酸化物、NOxの環境基準の問題」について各党から質問をするという形になっていた。問題は、「窒素酸化物、NOxの環境基準を緩めるのは是か非か」と言う事である。

 昭和53年(1978年)と言うのを思い出していただくために蛇足を加えるが、この年ピンクレディーが大フィーバー、ルイ・ヴィトンが日本に上陸、キャンディーズが解散、竹の子族が出現、伊豆、宮城でM7以上の地震があった年である。

 このファイルに関して、これは大気汚染の問題であり騒音とは関係ない、と言う見方もあろうが、公害一般に於ける考え方の基礎的内容が極めて熱く論議されている文章であることは確かである。中でも、当時、社会党の島本虎三議員と環境庁大気保全局長で説明員として出席している橋本道夫氏との今も続く産官学との癒着に関する論戦などは現在の国会審議では見られない白熱したモノである。

 橋本氏の答弁から私は環境省的思考の多くを知ることができた。現在の環境行政マンは彼の手法と手練手管は学んだであろうが、彼の心を学んだとは思えない。

 彼が述べている印象的な言葉を羅列しておこう。

 橋本説明員 環境基準というのは、やはり一番基本でございまして、特に健康保護の問題についてが一番基本でございます。いま議論されている程度の細かさを要求するのは、将来、恐らく環境基準はほとんどできなくなるだろうと思います。これは正直に申し上げまして、そう申し上げなければならぬと思います。そこまでの議論を詰めなければ環境基準はいじれないという議論になりますならば、恐らくこれはほとんどの場合絶望的であろうと思います。そういうことで九条三項というのは設けられたわけでありまして、あるところで。ぱっと割り切ってやる、そしてその後で科学的に検討してみて、直すなら直す。

橋本説明員 行政として決めますときには、基準を決めたのは、これは行政が独断で決めるという意味ではございません、決めたことは政府が責任がある、こういうことでございます。これは専門委員会、審議会が言ったから決めましたなんて、そんなような逃れ口上を言うことじゃございません。ですから、一番の核心は、定期的に常に科学的な点検、判断を加えるというところが最もの核心でございます。

橋本説明員 環境庁はどのような基準検討の考え方をしておるかということにつきましては、いつでも申し上げておりますように、幅として答申をいただいて、その幅を生かす。基準条件はどうなるかわからない。基準条件は上をとるか、真ん中をとるか、下をとるか、幅だということを絶えず言い続けてきておるわけであります。そういうことで、幅になってくる公算は高いということは申せますが、そこまで固まったわけではございません。

橋本説明員 専門家として書くならば専門家としての肩書きで専門家として学会誌かあるいは専門誌にはっきり投稿してやるということがキーでございます。いずれにも肩書きが入っておりません。ですから、専門委員会では一切その資料は使っておりません。

橋本説明員 経済や技術の問題は、専門委員会では技術的可能性という問題は全く入りません。何にもそれは考えてもらわなくて結構だということで申し上げております。ですから、経済や技術の角度からこの数字はどうのこうのなんということは、これは議論になり得ない、言ったところで無視されて問題にされない、このようなことが専門委員会の状態でございます。

橋本説明員 アメリカの文献を引いて、それは高い濃度であるから非科学的だという御議論がありましたが、やはり科学というのは、内外の文献でどこまで理論がかっちり固まって合うかということをするために、非常に不利なデータでも何でも本当に学界論文として認められるものはそれを出して議論をするということが科学の立場でございます。

橋本説明員 一つは環境基準の問題、一つは政策の問題、一つは防止技術の問題、一つは費用効果の問題、一つは規制のスケジュール

橋本説明員 自然科学の一部門のみの観望によってできることではない。

橋本説明員 これは地方自治体にも言っております。そういういろんな意見を全部整理をいたしまして、どんなところにどういう批判があるか、どういうものがあるか、それに対してはどういうぐあいに対処しなければならないかということで、自治体の意見とか産業界の意見とか、患者さんたちとも、まだ不十分だという御批判があるかもしれませんが、できるだけの話はしてみました。そういうことをいたしてみまして、そしていまの最終的に基準をどうするかということで、先ほどの幅の運用とかそういう議論に入ってきたわけでございます。


 その後、大気汚染問題は以下※のようになった。

排気ガス公害「西淀川訴訟」(大阪市) 昭和53年(1978)

大阪市西淀川区の公害病認定患者と遺族が、自動車の排気ガスに含まれる二酸化窒素(NO2)などによる複合大気汚染で、喘息などの呼吸器疾患になったとして、道路管理者の国と阪神高速道路公団を相手に、環境基準を超える車の排気ガスの排出差し止めと損害賠償を求めた事件。1次〜4次訴訟の結果、平成10(1998)729日に20年ぶりの和解が成立。

 川崎公害訴訟(神奈川)  昭和57年(1982)

昭和30年代から40年代にかけて、高濃度の大気汚染が現出し、環境基準を上回る二酸化窒素(NO2)、浮遊粒子状物質(SPM)により大気汚染が長期にわたり続き沿道の生活に大きな影響を及ぼした。
 喘息などの公害病認定患者と遺族ら495人(1999年現在)が、企業や道路管理者の国・公団を相手取り、この年より平成111999)年5月に和解するまでの17年にわたり争われた

 名古屋南部大気汚染公害訴訟  平成元年(1989)

名古屋市南部地域と東海市の住民145人が、名古屋南部地域の企業11社及び国道1号、23号等の設置管理者である国を相手に訴訟を起こす。

 ※田中正造とその郷土 http://www8.plala.or.jp/kawakiyo/index.html


9−4 Reference value

 「参照値」を英訳するとReference valueとなる。確かに環境省も英訳に際してはそう訳している。ただ、他の業界では、Reference valueを「参考値」と訳しているところが多い。では「参考」と「参照」とどこが違うか。「参考」は「考えをまとめる(学習や研究の)手助けにすること」であるに対して、「参照」は「他のものと照らしあわせること」とある。

 即ち、意味的には「参考」というのは“それを利用するかどうかは「相手側に判断の主体性がある」”が、「参照」では“必要なときにはこれを見よ、といわば「こちら側(参照値)に主体性がある」”のである。

 従って、本手引書に示されている参照値は、苦情の申し立てが発生した際に、低周波音によるものかを判断する目安として示したものであり」とあれば、「参照値」以下であれば、苦情は「間違いなく低周波音によるものではない」、と言うことにならなければならない。また、そうでなければ、「何のための参照値なの。意味無いジャン」という自治体からの声が聞こえるはずである。それは現実の自治体行政の低周波騒音被害者に対する対応で明らかである。

 また、「低周波音についての環境アセスメントの環境保全目標値、作業環境のガイドラインなどとして策定したものではありません」等と、曖昧、言い逃れ的文言を付しても、少なくとも「基準値」的意味あいを持つ数値を環境省は提示したのであり、末端に於いては最早当初の策定意図や言い逃れ的表現などは関係ないモノになってしまうのであり、もし、そうでなければ、「何のための参照値なの。意味無いジャン」という自治体からの声が聞こえるはずである。それは現実の自治体行政の低周波騒音被害者に対する対応で明らかである。

 また、企業的(電気製品など)にも、今後もし、低周波音に対する意識が一般的に高まってきた場合にも“「参照値」をクリアしているので問題なし”と言う宣伝文句として使われるであろう事は明白である。

 そして、いずれの場合にも「決めたことは政府が責任がある」と言い切れるのですね。

 そして、如何に環境省が「環境アセスメントの環境保全目標値、作業環境のガイドラインなどとして策定したものではありません。」と言っても、この「参照値」が「紛れもない基準値」で有ることは、上記議事録で、当時環境庁大気保全局長の橋本道夫氏の以下の言による。

橋本説明員 今回専門委員会が、一時間値を述べた場合にパーセンタイルを述べておりません。これはパーセンタイルを述べれば、英語で言えばガイドがガイドラインに変わる、そのものがストレートに基準に入ってくるということで、先生方はそのパーセンタイルを外されたわけです。

 環境省の説明に依れば、「参照値」の設定に於いては“先生方は10パーセンタイルを採用された”のである


 「参照値」に引っ掛からない低周波騒音被害者(殆どの低周波騒音被害者はそうであるが)がせめて願うのは、

「本手引書は、現時点での集積データをもとにしたものです。今後、全国の各地方公共団体で活用していただき意見や要望を踏まえ、その有効性や課題などを検証し、必要に応じてその内容等についてよりよいものにしていくことを目指します。」(低周波音問題対応の手引書 平成16年6月)

 と言う文言を信じたいのであるが、依然多くの全国の各地方公共団体において低周波騒音被害者を門前払いしているようでは、全国の各地方公共団体での「活用」は望むべくもなく、「意見や要望」はもちろん。「有効性や課題」など上がってくるはずはなく、一体全体どう「検証」するのであろう。 唯一「検証」しなければならない可能性のあることは”どうして「意見や要望」がないのであろう”かと言うことではなかろうか。


橋本説明員 これは専門委員会、審議会が言ったから決めましたなんて、そんなような逃れ口上を言うことじゃございません。ですから、一番の核心は、定期的に常に科学的な点検、判断を加えるというところが最もの核心でございます。」

 公害対策基本法 第9条第3項

 第一項の基準については、常に適切な科学的判断が加えられ、必要な改定がなされなければならない。


 本当は今回は、ここらから本題に入るつもりで書き始めたのだが、前置きが余りに長くなりすぎ、挙げ句に双六的には「振り出しにもどる」様な事になってので、今回はひとまずここで終わる。


最後まで読んでくれてありがとう。


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